(3)逆解析

@本年度の解析結果の特徴について

・逆解析を実施した9地点での位相速度曲線全体を概観すると、周波数の減少(周期の増加)と共に位相速度の傾きの急変する変曲点にそれぞれ違いが認められる。その違いに注目すると、これらの位相速度曲線はおおよそ次の3つのパターンに分類できる。

パターン@:変曲点が2ヶ所、周波数約0.42Hzと約0.22Hzにあり、約0.22Hzより低周波数側で位相速度の増加率が特に大きい。調査地点No.21(KHK)、No.24(NDA)がこれに分類される。9調査地点中、これらは東京湾から最も遠い方の北側に、そして、利根川沿いにある。既存資料によれば基盤の深度が最も浅い。

パターンA:変曲点が1ヶ所、周波数約0.35Hzにあり、それより低周波数側で位相速度は比較的穏やかにかつ単調に増加する。調査地点No.10(YAG)、No.15(CNT)、No.17(NGC)、No.25(SMU)の4地点がこれに分類される。これらは利根川と東京湾とのほぼ中間のところに位置する。

パターンB:変曲点が2ヶ所、周波数約0.23Hzと約0.21Hzにあり、その間で位相速度は急に増加するが、約0.21Hzより低周波数側では緩やかな増加となる。調査地点No.1(TDL)、No.6(MKH)、No.26(FNB)の3地点がこれに分類される。9調査地点中、これらは東京湾に最も近い南側にあり、既存資料によれば基盤の深度が最も深い。

・南北方向および東西方向の断面を想定して言えば、南北方向では、北から南側に向かって基盤の深度が深くなる、また、東西方向では、東から西側に向かって基盤の深度が深くなる、などの傾向が見られる。しかし、基盤のS波速度については現時点で未確定であることから、基盤のS波速度とパターンの関係については今後の検討課題である。

・地質との対比においては、No.25(SMU)地点を基準点として考察すると、6層構造として解析した地点では、第1、2層が下総層群(沖積層を含む)に、第3、4層が上総層群に、第5層が三浦層群に、そして第6層が先新第三紀基盤に相当すると考えられる。また、5層構造として解析した地点では、第1、2層が下総層群(沖積層を含む)に、第3、4層が上総層群に、そして第5層が先新第三紀基盤に相当すると考えられ、三浦層群は欠如した結果で推定される。

A基盤の深度およびS波速度について

・解析に供する1ブロックの長さの違いは、周波数0.2Hz以下(周期5秒以上)の位相速度推定に影響し、結果として基盤と推定される最下層のS波速度推定に影響することが認められた。

・fGAによる探索については、可能な限り良質の候補解を求めるため、試行回数を1,000回から10,000回に増やし、演算も5回から10回に増やして行うことで、位相速度曲線に最適なフィッティングとなるような10個の候補解を求める方法を採用して最終解を決定した。

・fGAの探索範囲も位相速度曲線のパターンから3種類と細かく分けて逆解析を実施した。

・解析シミュレーションの結果、最下層のS波速度を予め与えて逆解析を行うと、低周波数領域(長周期側)で位相速度曲線の形状が変化するだけであった。

・最下層のS波速度について、逆解析結果と既存資料との比較・検討を行ったが、解析に供する1ブロックの長さによって最下層のS波速度が変わり、その原因については未解決である。このため、現時点では最下層のS波速度を確定することは困難である。

・大アレー(アレー半径2,000m)の解析に供するブロック長は、原則として204.8秒程度で行うことが望ましい。本年度は、1ブロック長204.8秒と409.6秒の2通りで解析を行ったが、各地点で求められた最下層の深度および推定されたS波速度(未確定)について以下に示す。

・No.1(TDL)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度2,430m、S波速度2.55km/s(未確定)を推定した。

・No.6(MKH)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度2,560m、S波速度2.74km/s(未確定)を推定した。

・No.10(YAG)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度1,760m、S波速度3.01km/s(未確定)を推定した。

・No.15(CNT)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度1,340m、S波速度3.10km/s(未確定)を推定した。

・No.17(NGC)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度1,500m、S波速度2.50km/s(未確定)を推定した。

・No.21(KHK)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度1,210m、S波速度3.27km/s(未確定)を推定した。

・No.24(NDA)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度1,000m、S波速度3.44km/s(未確定)を推定した。

・No.25(SMU)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度1,570m、S波速度2.57km/s(未確定)を推定した。

・No.26(FNB)地点では、1ブロック長204.8秒の解析で、最下層を深度2,290m、S波速度3.36km/s(未確定)を推定した。

・第6層目あるいは第5層目の最下層のS波速度を決定するためには、現在、位相速度曲線に最適な解となるように値を探索する方法をとっているが、今後は、最下層と仮定した層よりもさらに深いところに別のS波速度層を仮定し、S波速度を決定していくことも必要であると考える。

B基盤(最下層)よりも上位層について

・最下層より上位の層については全ての地点において比較的安定した解で求まる。

・No.25(SMU)地点では、微動観測データによる推定位相速度と既存資料(VSP探査、S大砲)のデータによる計算位相速度とは、曲線の形状をも含めてほぼ同じであり、6層構造モデルとしての解析結果の信頼性は高い。

・No.26(FNB)地点では、最下層より上部のS波速度は、昨年度の結果と大きな差はなく、既存資料との整合性も良く、信頼性は高い。ただし、本年度の解析では、第4層の下面(第5層の上面)の深度および最下層(第6層の上面)の深度は昨年度のものより浅い結果となった。

・3セットアレーを実施した9地点において、既存資料との比較を行った。その結果、試錐資料および反射法地震探査資料との間には整合性があり、位相速度曲線に最適な解となるように値を探索する方法で求めたS波構造は信頼できると考える。

C位相速度曲線の表示について

・長周期成分については考察のより容易な周期で(秒)表示する必要がある。

・基盤のS波速度をより安定した解として求めるためには、基盤と仮定した層よりもさらに深いところに基盤とは別の最下層を仮定し、S波速度を決定していくこが必要であると考える。