3−4−6 地震動シミュレーションに関する今後の課題

地震動シミュレーションでは、広帯域観測データからモーメントテンソルインバージョンによって求められた震源メカニズム解を引用したが、ダブルカップル点震源を使って断層近傍のやや高周波領域(1秒程度)も含めた地震動を評価する場合に、震源モデルの精度に関する議論は残されている。特に、浅発地震の震源の深さ精度に関しては、得られた地下構造の精度に比べて悪い可能性があるため、その取扱いには注意が必要である。

豊橋平野においては、調査法により推定基盤深度が整合しない点があったが、1次元解析では、基盤深度を1000m以深にする1次元モデルが観測波形を良く説明できることがわかった。また、周期1.3秒以下の高周波帯域では、基盤深度を230mにおくモデルと比較してその振幅に大きな差は生じていないことも判った。ただし、3次元解析の結果では、1次元解析とは異なる複数の低周波のピーク周期が得られている。今後、豊橋平野における地震動評価に際して、複数の1次元/3次元モデルに対する比較・検討をおこなうことで、基盤(地震基盤)やモデルの設定に関する検討および意見の一致が求められる。

一方、岡崎平野については、盆地が閉じていないハーフグラベン状のモデルによる解析を行なったが、盆地端部の効果を正しく表現するために、将来的には、濃尾平野も含めて愛知県全域を網羅するような地震動評価を行うのが望ましい。

これまでの調査結果から、堆積層の速度は速度が深度と共に漸増しているモデルが現実的であると考えられるが、各種探査手法の違いにより層区分の定義については必ずしも整合していない。堆積層速度のモデル化に関して、各層速度を一定にしたモデルと深度方向に漸増したモデルとで、計算波形およびスペクトルにどのような違いが出るのか、堆積層の層区分・速度の与え方等のモデル化に関する詳細な検討は今後の課題である。

今回、3次元マップ(観測マップと合成波形マップ)でのピーク地動速度の比較を作成したが、ピーク地動速度が大きく外れた観測地点については、今後、より詳しく取扱う必要がある。また、収集した中小規模地震では周波数帯域が限られており、基盤構造がどこまでチューニングできるかという問題が挙げられた。さらに、震源の到来方向も限られており、検証作業としてはまだ十分とは言えない。今後は、別方向の地震データに対して検証を積み重ねて行く必要がある。特に、H/Vスペクトル比のピーク周波数による解析に関しては、今回使用した地震に対してはその信頼性の評価が難しく、適切な地震データ(垂直入射し、かつ、低周波を含む地震)による解析が必要である。

当地域は、直下型地震だけではなく、東海地震、東南海地震が想定されており、このような巨大地震の強震被害を考える上で周期1秒から数秒程度のやや長周期地震動の特性は極めて重要である。今後、地下構造調査の成果である堆積平野における3次元速度構造モデルは、想定地震に対する地震マップの作成に役立てられることが期待されるため、対象地域の直下の地震だけではなく、東海沖のプレート境界で起きている地震に対しても地震動シミュレーションによる検証を行う必要がある。