(2)観測記録のH/Vスペクトルによる比較・検証

上記の実記録波形のH/Vスペクトルと3次元合成波形から計算したH/Vスペクトルとを比較する。これに使用する解析区間は、120秒(K−netとKiK−net)、60秒(市町村データ)とし、フィルター後の各波形のフーリエスペクトルからスペクトル比を算出した。この際、水平動のスペクトルとして、N−S成分とE−W成分の相乗平均を用いた。前述したように、一部の記録では、低周波ノイズが混入しているため、その信頼できる周波数範囲は2秒〜5秒程度である。

図3−4−42および図3−4−48のH/Vスペクトルの形状を比較すると、特に、豊橋平野、および、岡崎平野において、実記録とシミュレーションの結果とも、やや低周期帯で高い値を示している。詳しくみると、岡崎平野の観測点(AIC011、AICP59、AICP29)では、2〜4秒の間で複数個の卓越が存在するようである。周辺地質から岩盤が浅いと思われる観測点(AICP67、AIC014、AICP16)では、1秒より低周波側にはピークは見られない。一方、豊橋平野の観測点(AIC016、AICP85、AICP03)では、1〜3秒の間でスペクトル比が全体的に高い値を示しており、2、3の卓越が存在するようである。いずれの堆積層地域でもやや長周期帯域で複数のピークが見られたが、これらは地盤の卓越周期を反映しているものと考えられる。ただし、各地域ごとに普遍的に見られるような明瞭なピークは見られず、隣接する観測点であってもそのスペクトル形状は複雑に変化する(図3−4−42中に、モデリングによる比較的明瞭なピーク周波数の位置をマークした)。この点が、1次元解析とは大きく異なり、注目される。現状では、実記録と3次元シミュレーションの結果がピーク周波数において必ずしもよい一致を見せているとは言えず、課題は残されている。

一般的に、H/Vスペクトルの1次ピークが顕著に現われ、地盤の卓越周期との関連が認められる場合は、ピーク値の比較を行うことでモデルの検証に供することが可能であるが、1次元解析で豊橋平野に見られたように、比較的大きな速度を持つ中間層が存在し、基盤と上位堆積層のコントラストが小さい場合には、卓越周期として現われない場合があることが判った。このような地域に対しては、ピーク周波数による解析はその信頼性の評価が難しく、より多くの地震データ(垂直入射する低周波を含む地震)による解析を積み上げる必要がある。また、個々の対象地域に対して、解析の前提条件(入射波形、卓越モードおよび構造に関する一連の仮定)の吟味、手法としての精度を含めた検討が必要である。