(1)2.5次元波動場の計算

2.5次元波動場計算では、構造モデルは測線直交方向(紙面に対して直交方向)に対して不変であると仮定する(図3−4−22)。2次元領域の計算であるため、震源は線震源タイプになるが、2次元から3次元への幾何学的な振幅補正とグリーン関数の補正により、近似的に線震源を点震源とする3次元波動場に変換している。震源のメカニズムは、方位角(strike)、傾斜角(dip)、すべり角(rake)で与えられるが、純粋なdip slipの波動場とstrike slipの波動場の重ね合わせで合成する(Vidale et al., 1985; Helmberger and Vidale, 1988)。地表境界には応力がゼロになるように自由境界を与え,残る3つの境界にはone−way equation に基づく吸収境界(Reynolds, 1978; Clayton and Engquist, 1977)とCerjan, et al.(1985)などに基づく方法を併用して与える。なお、標高変化については、計算に考慮されていない。数値的な安定条件および格子分散を十分抑えるようにサンプリング間隔、グリッド間隔を設定している。科学技術庁防災科学技術研究所の広帯域地震観測網による手動メカニズム決定で得られた地震モーメント推定値を基に点震源の振幅を与え、その他、方位角、傾斜角、すべり角の推定値を震源パラメータとして与える。震源時間関数(モーメント速度関数)は、時間幅が0.25秒のベル型(コサイン型)を試行錯誤的に与えた。Q値についても、経験的な値を基に試行錯誤的に与えた。SH波の計算スキームを表3−4−6にまとめた。

一方、P−SV波の計算スキームについても、表3−4−6にまとめた。SH波動場と併せることで、3成分波動場の取扱いが可能である。ただし、構造形態が2次元(tangential方向には均質)であると仮定するため、測線の側方からの反射波や3次元的に回り込んでくる波(後続波)については、3次元波動場のシミュレーションでの吟味が必要である。

図3−4−23に、観測波形(フィルター後速度波形)と合成波形との比較(2001/2/23地震)を示す。図3−4−24図3−4−25および図3−4−26に、各成分のフーリエスペクトルの比較を示す。図3−4−27および図3−4−28には、速度応答スペクトルの比較を示す。ここで使用した減衰定数は、h=0.05である。

一方、図3−4−31に、2001/9/27地震に対する観測波形(フィルター後速度波形)と合成波形との比較を示す。図3−4−32および図3−4−33には、速度応答スペクトルの比較を示す。図3−4−32面で合成された3成分ピーク速度値分布(全体図)、図3−4−33はその詳細図である。岡崎平野の東縁、および、豊橋平野の西縁それぞれについて、境界より盆地内に少し入ったところで地震動の振幅が増大しているのが確認できる(図3−4−33)。この成因は、ダブルカップル型震源の放射条件にも因るが(図3−4−32)、盆地東端部で生成した表面波(盆地生成表面波)に関連して地震動が増大したものと推定される。

2つの中小規模地震に対して波形の比較を行った結果、堆積盆地内でのS波主要動部の合成波形が実記録波形の空間方向にばらつく範囲内(目安として、2,3倍以内)で合っており、スペクトル(フーリエスペクトル、応答スペクトル)による比較でも両者の整合は良好である。ただし、実データの振幅値が大きく上回る地点が存在する。特に、2001/9/27地震の2つの観測点(AICP67、AICP29)のradial成分(N112E成分)で、S波主要動が大きく異なっている。これらは、震源解の節面(ノーダルライン)に沿った観測点にみられ、2次元に投影することによる近地地震の震源モデルの精度に起因するものであると推定される。