(3)理論走時と観測走時の比較

図5−5−8に震源距離に対するモデルによる理論走時と観測走時の比較を示す。P波に関しては、両者は比較的よく対応している。また、S波に関しては震源距離135km以上および95km以下において観測値と理論値は対応していないが、その間の震源距離における観測値と理論値はよく対応しており、またその見かけ速度も概ね対応しているので設定した速度値は概ね妥当であると考えられる。図5−5−9−1図5−5−9−2にP波およびS波のモデルによる理論走時に対する観測走時の差の分布を示す。図5−5−9−1より、P波のモデルによる理論走時は観測走時に比べ、平野の北東部および平野周辺では概ね対応しているが、平野中央部では速くなっていることが分かる。一方で図5−5−9−2より、S波では平野のほぼ全域で概ね対応がよいが、平野北東部では速く、三重県の観測地点では遅くなっていることが分かる。S波の走時の対応がよいのは、S波速度の寄与度が高いH/VスペクトルやS波増幅度の周期特性が合うように地下構造モデルの修正を施したためと考えられる。一方でP波の走時の対応が平野中央部でよくないのはP波速度とS波速度の関係を濃尾平野全域に対して用いていることが要因と考えられる。

さらに、図5−5−8に示した回帰式との差を求めることにより、観測地点間の相対的な走時遅れ分布を求めた。図5−5−10−1図5−5−10−2にP波およびS波の走時遅れ分布を示す。上図が観測値、下図がモデルによる理論値を示す。観測値の走時遅れ分布ではX=‐40000m、Y=‐85000mからX=‐25000m、Y=‐10000mにかけて帯状に走時遅れが大きい領域が伸びているのに対し、理論値では特にS波よりP波の方でその傾向は見られない。特にP波の走時遅れ分布では観測と理論で差異が顕著に現れている。これは前述のとおり一律のP波速度とS波速度の関係を濃尾平野全域に対して用いていることが要因と考えられる。レシーバ関数を用いた検討においても述べたが、本来はP波速度とS波速度の関係に地域による違いがあることを念頭に置かなければならない。しかしながら現状では P波速度とS波速度の関係を一部の地域単独で設定できるほどデータは十分ではなく、それをカバーするために速度境界面を適切に設定することが重要である。

図5−5−8 理論走時と観測走時の比較

図5−5−9−1 P波の観測走時と理論走時の差の分布

図5−5−9−2 S波の観測走時と理論走時の差の分布

図5−5−10−1 P波走時遅れ

図5−5−10−2 S波走時遅れ