5−1 卓越周期(H/V)による検証・修正

地下構造モデル、特に深い基盤岩類の深度分布及び4章にて設定した関係式により堆積層に付与した速度値の妥当性を検証することを目的に、地盤モデルから計算したレイリー波の基本モードのH/Vスペクトルの一次ピークを地震観測記録によるH/Vスペクトルと比較、検証した。

検証に用いた地震は、濃尾平野の強震計ネットワークの多くの観測点で記録され、主要動部のあとに現れる後続波に長周期成分が卓越する地震として、2000年10月6日の鳥取県西部地震を採用した。また、検証に用いた観測点は平野全体を網羅するよう図5−1−1に示す28点を選定した。

地震観測記録の波形処理は、図5−1−2−1図5−1−2−2が卓越する表面波部から100秒程度を対象とし、切り出しに際しては波形のはじめと終わりに2秒のコサインテーパーを施した。H/Vスペクトルを求めるにあたっては、水平動2成分と上下動の切り出した波形のフーリエ振幅スペクトルを求め、水平動2成分それぞれと上下動成分のスペクトルの比をとり、さらにバンド幅0.05HzのParzen Windowを施して求めた。

一方、地下構造モデルに対しての理論H/Vスペクトルは、3次元地下構造モデルの観測点位置に当たる場所から抜き出した1次元の地下構造モデルに対して、レイリー波の基本モードの水平動と上下動の振幅比を計算することにより求めた。

図5−1−3に、理論H/Vスペクトルの計算に用いた各観測点位置でのS波速度構造モデルを、図5−1−4に、各検証地点における理論H/Vスペクトルを地震観測記録によるH/Vスペクトルと重ねて示す。

図5−1−4から、モデルから計算した理論H/Vスペクトルのピーク周波数は、ほぼすべての地点で地震観測記録によるH/Vスペクトルの卓越周波数と概ね対応しており、少なくとも地下構造モデルにおける基盤深度および堆積層の平均的な速度分布については、モデルの妥当性が確認できた。

しかしながら図中の青い四角および赤い四角で囲んだ計6地点は、理論H/Vスペクトルのピーク周波数が地震観測記録によるH/Vスペクトルの卓越周波数と異なっている。平成11年度探査側線の北側に位置する、10101Aと12122Aの2地点は平野の北部に位置し、ともに理論H/Vスペクトル(図5−1−4の青い四角で囲んだH/Vスペクトル)のピーク周波数が観測によるH/Vスペクトルの卓越周波数より低い。また平成12年度探査測線の東側と平成13年度探査測線の南側に囲まれる、J2402B、I2405A、K2401B、K2404Aの4地点は名古屋市の南西部に位置し、いずれも理論H/Vスペクトル(図5−1−4の赤い四角で囲んだH/Vスペクトル)のピーク周波数が観測によるH/Vスペクトルの卓越周波数より高くなっている。

これらの地域は、やや離れたところに反射法による探査測線が位置しているが、中新統や基盤に到達しているボーリングがなく、また微動アレイ探査は名古屋市南西部に関しては実施されているが、分散曲線が長周期まで十分に推定できておらず、特に深いところの深度の推定精度は低く、先に設定した地下構造の地質境界面の確実性は低いと考えられる。そのため平野北部については基盤の境界を浅く、または堆積層の平均的な速度値を速くすること、名古屋市南西部については基盤の境界を深く、または堆積層の平均的な速度値を遅くすることによって地下構造モデルの改善につながるものと考えられる。

図5−1−1 H/Vスペクトルによる検証に使用した強震計観測点の分布

図5−1−2−1 2000年10月6日鳥取県西部地震の観測波形の一例

図5−1−2−2 2000年10月6日鳥取県西部地震の切り出した波形の一例

図5−1−3 検証に用いた地震観測地点のS波速度構造

図5−1−4 地盤モデルより計算したレイリー波基本モードの水平上下振幅比と2000.10.06鳥取西部地震の記録(後続波)による水平上下スペクトル振幅比との比較