3−1 P波反射法地震探査

図3−2−1−1図3−2−1−2にはP波反射法による深度断面図を縦:横を2:1で表示した。この図には、P波反射法速度解析で用いた6層モデルの境界面が示してある。この境界面は、平成11および12年度測線(図3−2−2−1、および図3−2−2−2、愛知県,1999a,1999bおよび愛知県,2000a,2000b)での反射面境界と同一の境界を選んだ。ただし、平成11年度(東西)測線においては明瞭に得られなかったE層を追加した。これらの境界は全測線に亘って追跡可能な反射面に対応しており、反射面を選択する段階に於いて地層境界との整合性には配慮していない。解釈された反射法深度面図の特徴は以下のようにまとめられる。

a)基盤の形状など

先新第三系基盤上面は比較的凸凹に富み、西方に傾斜している。その深度は、測線東端で深度約500mであり、佐屋町付近(CDP1800)でその傾斜を大きくし、揖斐川西岸付近(CDP2400)で約2300mに達する。測線西端部では、深度50m付近の反射面が基盤上面に対応していると考えられ、養老断層の落差は2200m程度に達しているものと考えられる。

黄金駅から庄内川付近(CDP600〜CDP900)において、基盤上面は最大比高約400m程度の滑らかな凹状を示している。これは、ブーゲー異常のローカルな低重力異常域と比較的良く対応している。この凹地は平成12年度測線の南端部で確認された凹地に対応し、北東―南西トレンドを持ち、南西方向に広く、浅く連続している。中村区付近に認められるブーゲー異常の急傾斜部は、この凹地の影響を受けているためであり、基盤の大規模断層等によるものではないと考えられる。

b)堆積層の構造など

図3−2−3は、P波反射法による深度断面図を、縦:横を5:1でカラー表示した結果である。図中には、反射法速度解析によって得られた速度境界と区間速度を併せて示した。基盤岩上位の堆積層は、平成11年度反射法断面と同様に、西方に向かうにつれて、次第にその層厚を増すとともに西ほど深く沈降している様子が明瞭に捉えられている。反射法速度解析で用いた層区分に従えば、堆積層の特徴は以下のようにまとめる事が出来る。

表3−1−1参照

本調査測線の近傍(2km以内に限定)には、温泉ボーリングにより以下の情報が得られている。

表3−1−2参照

図3−2−4には、平成13年度P波反射法深度断面図に各坑井で得られた柱状図を対比させた結果である。柱状図は右側に地質層序区分を示した。弥富層以降、東海層群、中新統、基盤岩をそれぞれ、青、オレンジ、緑、赤で示してある。柱状図左側には詳細な土質区分が示してある。 大名古屋温泉においては約200m以上の中新統の存在が確認されている。一方、深度断面においてはCDP600~1100に基盤が凹状を示し、この窪みを埋める様に地層が堆積している。この比較によれば、E層は東海層群下部から中新統に対応するものと考えられる。弥富累層以降の層序については、これらの坑井情報からは判断できないが、平成11年度測線(東西断面)における既存坑井との対比によって、A層とB層の境界面およびB層とC層の境界面は、それぞれ、第二礫層上面および第三礫層上面に対応すると考えられる(坂本他,1984,愛知県、2000a、愛知県,2000b)。また、これらの境界面の形状および深度は最新名古屋地盤図(土質工学中部支部,1988)にまとめられている濃尾平野の東西断面に見られる第二礫層上面および第三礫層上面の特徴と比較的良く一致しており、アルペン山王の湯で東海層群が浅部(98m)に得られている結果とも整合する。これらの結果から、A層およびB層は、それぞれ、沖積層~熱田層および海部累層に対応すると推定される。以上の解釈結果をまとめると、

A層:沖積層〜熱田層相当層

B層:海部累層相当層

C層:弥富累層〜東海層群相当層

D層:東海層群相当層

E層:東海層群〜中新統相当層

と推定される。

前述の地層境界面は揖斐川西方で消滅する。これは、地表位置で多度町北小山付近に存在する養老断層に対応した事象と考えられる。ただし、反射記録から推定される養老断層の主断層の地表位置は、北小山東方約1km地点となり、北小山は養老断層の副次断層と考えられる東傾斜の断層の地表位置に対応する。また、この副次断層の西側にはP波速度が2.5km/secおよび2.9km/sec程度の堆積層が東に急傾斜で存在しているが、柳ヶ瀬−養老断層ストリップマップ(地質調査所、1994)によれば、これらは東海層群上部層および東海層群上部層に対応していると考えられる。この結果から養老断層西側の各層を以下のように推定した。

A’層:A層〜B層相当層

C’層:東海層群上部相当層

D’層:東海層群下部相当層

c)その他の構造変化など

1:25,000都市県活断層図(国土地理院,1996)によれば、大高−大府断層の北方延長線上にあたる名古屋市天白区笠寺付近を中心に南北2.5km程度に渡って、地形面の傾動が推定されている。このトレンドの北方延長にあたるCDP270付近および加木屋断層の北方延長線上に当るCDP550付近は、いずれも段丘面の縁に相当し、特に後者は、ブーゲー異常の急傾斜部と一致する事から、大規模な断層の存在が懸念されていた。しかしながら、反射法深度断面図では、CDP260(高密度ではCDP520)付近では、基盤上面の変化がやや大きく、さらにその上部の反射面の連続性も悪いものの、浅部の堆積層は比較的連続しており、大きな累積変位を有するような活断層の存在を明瞭に示すような異常はないと考えられる。大高−大府断層の延長線上も、同様に、基盤上面の堆積層に明瞭な不連続は見られない。

今回行った反射法の分解能(CDP間隔6.25mおよび12.5m)の範囲内では、養老断層を除いて、その東側には、別の断層の存在を明瞭に示すような大きな構造変化は認められない。