3−7 堆積層中の三次元速度モデルの作成について

図3−2−25に三次元速度構造モデルの推定手順案を示した。

基盤上面の形状(基盤上面深度の推定)については、坑井データ、P波反射法、微動アレイデータなどを用いて推定した結果を3.6(図3−2−24−1図3−2−24−2)に示した。濃尾平野南部および西部では、基盤に達するような深井戸がなく、深部における速度および各層準の深度の情報が無いため、この部分では、反射法による深度は不確定要素を含んでいる。また、濃尾平野北部、三重県桑名市から四日市市にかけての陸域は基盤上面深度のコントロールポイントがないため推定された基盤深度は重力の傾向と整合していない。濃尾平野に於いては、重力データから推定された基盤深度は推定誤差が多いので現時点では参考程度に留めておくべきであろう。基盤速度については、P波速度は屈折法から5.5km/sec、S波速度はVSPから3.2km/secとした。

図3−2−26−1図3−2−26−2には平成11年度および平成12年度P波反射法測線データを用いたフェンスダイアグラムを示した。濃尾平野を南北および東西に横切るP波反射法地震探査の結果と坑井データをもとに、層区分を行い、各層におけるP波速度を推定した。ただし、ここでは速度境界によって層区分を行ったため、必ずしも地層境界とは一致していない。また、本調査においては、屈折法は、基盤速度の推定に用いたが、屈折法を用いて独立に堆積層を層分けする場合は、反射法による層分けと異なる場合が考えられる。このようなモデルの違いが地震動に与える影響についても、強震動モデリングで検討する必要がある。図3−2−27および図3−2−28には、それぞれ、中新統上面深度および東海層群上面深度のコンターを示した。ここでは、坑井データと反射法地震探査データを用いた。ただし、東海層群上面深度は、先に述べたように、A〜Eの地層区分に一致しないため新たに解釈をし直している。また、伊勢湾のデータについては、対比する坑井データが得られていないために用いなかった。中新統上面深度についても、基盤上面と同様、濃尾平野南部および西部地域に於いては不確定要素を含んでいる。

地震動シミュレーションのためには、これらの深度モデルに対して各層のP波およびS波速度を与える必要がある。反射法測線上におけるS波速度は、VSPで得られたVp/Vs関係式をもとに、P波速度から推定した(Vs>300m/sec)。しかしながら、この推定値には±100m/sec程度のばらつきが含まれると考えられる。また、反射法だけでは、広域の詳細な速度構造を推定するには不十分である。坑井などでの速度情報が無い新規のエリアについては、S波反射法に併せてP波反射法を行い、S波速度およびP波速度を測定し、その地域での推定されたVpとVsの関係が(3.4.1式)を満足するか検証する必要がある。また、S波反射法によって基盤までの速度構造を明らかにするのは難しいが、深部までのVpとVsの関係を蓄積することが重要である。

微動アレイデータは、人工震源を必要としないため、安価で比較的軽便な手法である。反射法地震探査や坑井でのデータが得られていない部分を補間する手法として期待されているが、観測されるデータ(特に低周波成分)が測定時期に左右されるという欠点がある。濃尾平野は基盤深度が比較的浅い(〜2000m)ため、低周波領域まで含んだ良好なデータが取得されれば、基盤深度の推定については比較的信頼性が高いことが判った。しかしながら、堆積層中の層分けおよび速度については、現時点では、反射法地震探査との層の対比が難しく、微動アレイデータによる結果を堆積層の速度推定などに用いるためには更なる検討が必要である。このため、現有のデータからでは、広域の堆積層の詳細なP波およびS波速度構造を推定するには至っていない。

表3−2−1−2にはモデル化に当たっての各手法の評価および問題点等をまとめた。