(3)速度構造解析における拘束条件の検討

(3−1)強い拘束条件の付加

微動アレイの速度構造解析においては、7層モデルを仮定し、表2−5−9に示す探索範囲を設定している。この探索範囲は基盤が数百mの浅い構造から2000mを超えるような深い構造までを含んだものとなっており、層厚については層中心値の±90%、S波速度値については、速度中心値の±25%〜30%の比較的範囲の広い条件としている。

位相速度曲線からS波速度構造を推定する場合、位相速度曲線のみからでは一般に唯一解は保証されないため、外部から何らかの条件を与える必要がある。その一つが、上の探索範囲と層数の仮定であり、既存情報をもとに非現実的な解の除外やある程度の平均化を行っている。さらに、正しい解の位相速度曲線は観測位相速度曲線に一致すること(RMS誤差が最小)、正しい解の周辺に逆解析結果が集中(出現確立が大きい)するであろうとの仮定を前提として速度構造解析を実施している。

拘束条件は解がローカルミニマムに陥ることが無いように解の範囲の絞り込みを行おうとするものであるが、強い拘束条件は逆に解をローカルミニマムに至らせる場合がある。

この例を図2−5−40−1図2−5−40−2に示す。NP11とNP2について、反射法から推定された境界深度をもとに、層厚をほぼ固定して、速度の変化範囲を±50%として探索範囲を設定した。表2−5−10にNP11の探索範囲を示す。この例は、少々極端過ぎる例であるが、ある一種類の未知数に極めて強い拘束を加えると解は安定せず寧ろ発散してしまうことを示しており、拘束条件(層数、層厚、速度)については緩やかに絞り込んで行く必要があろう。

(3−2)層数についての検討

微動アレイ結果のモデル化に向けて、解の安定化及び単純化を、層数を減らし、やや探索範囲を狭めて図った。この解析では、各地点に対して、既存資料(坑井データ)や反射法結果を参考にしながら、4層と5層モデルの両者について検討して最適な層数を決定した。NP4、7、8、9、11の地点についての結果を、7層モデルでの解析結果とともに、図2−5−41図2−5−42図2−5−43図2−5−44図2−5−45に示す。この結果を要約すると以下の通りである。

・全体的に解は非常に良く収束する傾向にある。

・基盤直上の中新統相当の速度層(速度1000m/s以上)については、少なくともこれらの解析地点については無くても説明できる。

・東海層群相当層(速度1000m/s以下)の速度については大きな変化はない。本解析手法では、微動アレイの結果は単点毎に独立に求まるため、3次元的な速度モデルの構築のためには、観測点間の速度層の対応関係をよりはっきりとさせる必要がある。ここで検討した層数の最適化(削減)は、解の安定化と単純化に極めて有効であることが示された。本報告書では触れないが、解の安定化と単純化を図るには、多地点の入力データをある拘束条件のもとで(対応する層の層厚や速度の変化が一定値以内等)解くようなジョイントインバージョン(例えば馮ほか(2001))についても今後検討していく必要があろう。