(2)S波速度構造解析(逆解析)

(2−1)解析手法

得られた位相速度曲線からS波速度構造を求めるには遺伝的アルゴリズムを用いた。 遺伝的アルゴリズム(GA)は巨大的、且つローカルミニマムが多数存在する探索空間から効率的に適応度の高い解を求める方法として広く用いられている。この手法の最大の特徴は厳密的な初期モデルが必要でないことである。最小自乗法のような逆解析手法は厳密的な初期モデルが必要であるが、GAの場合、ある程度に解の存在範囲が把握できれば、プログラムにより自動的にその範囲内の最適解を探索することができる。欠点としては、最適解を得るために、十分な探索を必要とし、計算の量も膨大になることである。GAによるS波速度構造解析の手順は、(1)地下構造の層数(何層モデル)、各層のS波速度及び層厚の存在範囲を定義する(解析条件の設定)、(2)この範囲内において、プログラムによりランダム的にモデルを作成し、(3)これらのモデルをもとに、GA操作(選択、交差、変異等)により次世代モデルを生成し、(4)モデルの理論位相速度と観測位相速度の差が十分に小さくなるまでGA操作を繰り返し、進化させて行く。

地盤のS波速度構造モデルは数値により厳密に表現できるので、文字列コーディングの代わりに、実数値GA(R−GA)を用いた。そして、位相速度の感度概念もアルゴリズムに組み入れている。これらの措置により、モデル探索の効率が上げられ、より多くのモデルの探索が出来る。

(2−2) 解析の流れ及び解析諸元

速度構造解析の流れを図2−5−27に示す。GAによる解析の諸元はつぎのとおりである。

一世代の個体数:100個

トータル世帯数:250世代以上

繰り返し解析回数:10回

終了時相対誤差:約5%以下

(2−3) 解析条件(GAの探索範囲)

GAの探索範囲の設定は、本解析に入る前に、複数の探索範囲モデルによる粗解析を行ない全地点に適用できる探索範囲を模索し、本解析に用いる探索範囲を決定した。層数及びS波速度中心値は、山王、清洲、羽島等のボーリング孔その他の既存資料を元に7層モデルとした。表2−5−8に本解析に用いた探索範囲を示す。また探索範囲は解の拘束を避けるために、層厚については層中心値の±90%、S波速度値については、速度中心値の±25%〜30%の幅を持たせた。

(2−4) 解析結果

解析結果をそれぞれ図2−5−28図2−5−29図2−5−30図2−5−31図2−5−32図2−5−33図2−5−34図2−5−35図2−5−36図2−5−37図2−5−38図2−5−39に示す。解析結果は以下のとおりである。

速度構造は概ね4層構造を示し、S波速度は地表から、第1層:約0.5km/s以下、第2層:約0.5〜0.7km/s、第3層:約0.9〜1.2km/s、最下層:約3km/sと大別され、第3層と最下層間に層厚数100mの約1.5km/s層が一部地域に認められる。

位相速度曲線に認められる2Hz前後の変曲点は第3層と最下層の境界に対応し、最下層が基盤に相当するものと考えられる。最下層の上面深度は、本地域で予想される基盤深度と大きな矛盾はない。最下層の速度は、探索範囲を2250m/s〜3750m/sとしたが、NP1、NP7、NP8、NP11を除けば、概ね上位3位の解は2700m/s〜3200m/sの範囲内で比較的良く収束しているといえる。このように、基盤速度の推定が比較的良好な原因としては、本地域の基盤深度が2000m前後と極端に深くないこと、養老断層や桑名断層近辺を除けば、基盤形状が短周期で激しく変化してはいないこと、低気圧の接近と測定時期が重なったため、多くの観測点で低周波数まで良好なデータが得られたこと等が考えられる。