(2)花粉分析

花粉分析の結果を表5−2−2に示す。解析を行うために同定・計数の結果にもとづいて、花粉化石組成図を作成した(図5−2−2)。各花粉・胞子化石の出現率は、木本花粉(Arboreal pollen)の場合は木本花粉の合計個体数を、草本花粉(Nonarboreal pollen)とシダ植物胞子(Pteridophyta spores)の場合は花粉・胞子の合計個体数をそれぞれ基数とした百分率である。図表において複数の種類をハイフォン(−)で結んだものは、その間の区別が明確でないものである。

濃尾平野の地下地質の研究報告は、吉野(1971)、吉野ほか(1980)、濃尾平野第四系研究グル−プ(1977)、 坂本ほか(1984)、 坂本ほか(1986)、 東海三県地盤沈下調査会 編(1985)、日本の地質「中部地方U」編集委員会 編(1988)、古澤(1990)などがあり、これらを基本に比較検討を行う。

なお、「濃尾平野の地盤沈下と地下水」(東海三県地盤沈下調査会 編,1985)によれば、清洲町付近の地下では海部累層と弥富累層の境界とされる第三礫層が深度150m付近に分布しており、今回の分析試料は、採取深度から推定すると、海部累層より下位に当たると予想される。分析試料の最上位の試料が採取された深度350m付近は前述の資料では空白になっており明らかにされていないが、周辺地域より推定すると弥富累層から東海層群が分布していると予測される。

以下に各試料について記述する。

<深度352.00m試料>

分析後の花粉化石を含む残渣は、A(Abundant:多い)であり、その中に含まれる花粉化石の産出傾向はC−A(Common−Abundant:普通から多い)である。花粉化石の保存状態は、M(Moderate:普通)である。したがって、花粉化石の同定と計数を十分に行えた。

花粉・胞子化石の構成比では、木本花粉が最も多く、76.1%を占める。シダ植物胞子と不明花粉がそれぞれ10%であり、草本花粉は2.9%と少ない。

木本花粉では、ブナ属(25.9%)を占めて優占する。これに続いて、スギ属(13.1%)、コナラ属アカガシ亜属(以後、アカガシ亜属と記述する)(8.5%)、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科(6.4%)、コナラ属コナラ亜属(以後、コナラ亜属と記述する)(5.9%)、メタセコイア属(5.5%)などが産出する。また、1%前後の低率であるがサルスベリ属、フウ属、ヌマミズキ属が産出する。草本花粉とシダ植物胞子では、イネ科、カヤツリグサ科、ヒカゲノカズラ属などを産出するにすぎない。なお、シダ植物胞子ではその殆どが、属・科不詳のために「他のシダ植物胞子」としたものである。

本試料はブナ属が優占して、スギ属、コナラ亜属、アカガシ亜属、メタセコイア属、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科等を産出し、フウ属をともなう特徴を示す。とくに、メタセコイア属の産出は地質時代を解析する上で重要である。濃尾平野地下においては、熱田層および海部累層の最下部のAm1層とその上のAm2層などからは、メタセコイア属は産出しない(濃尾平野第四系研究グループ, 1977;吉野ほか, 1980)。一方、東海層群(=瀬戸層群)矢田川累層については、吉野(1971)、坂本ほか(1984)などによって研究報告されている。吉野(1971)によれば、名古屋市周辺の瀬戸層群と呼ばれている矢田川累層の花粉化石組成はTaxodiaceae(スギ科)、Quercus(コナラ属)、Fagus(ブナ属)、Alnus(ハンノキ属)などを主に産出し、Liquidambar(フウ属)、Nyssa(ヌマミズキ属)を伴うとしている。坂本ほか(1984)によれば、小牧市林における矢田川累層の花粉組成は、Taxodiaceae、Quercus(Lepidobalanus:コナラ亜属)、Fagus、Alnusが多産し、Liquidambarも比較的多いことから小牧団研グループ(1971)及び吉野(1971)の分析結果とよく一致するとしている。そして、三木(1948)による春日井市坂下町上野の亜炭層における大型植物化石のGlyptostrobus pensilis(スイショウ)、Metasequoia disticha(メタセコイア)、Sequoia sempervires(セコイアメスギ)、Quercus acutissina(クヌギ)、Liquidambar formosana(フウ)などの産出と共通するものもあるとしている。本試料におけるスギ属、メタセコイア属、フウ属、ヌマミズキ属の産出は東海層群の特徴を示していると考えられるので、これらに対比される。したがって、本試料は東海層群矢田川累層に相当すると考えられる。 <深度467.45m試料>

分析後の花粉化石を含む残渣は、F(Few:少ない)であり、その中に含まれる花粉化石の産出傾向はR−C(Rare−Common:少ないから普通)である。花粉化石の保存状態は、M(Moderate:普通)である。したがって、花粉化石の同定と計数を十分に行えた。

花粉・胞子化石の構成比では、木本花粉が最も多く、65.9%を占める。草本花粉が16.0%、シダ植物胞子が11.9%、不明花粉が6.2%である。

木本花粉では、ハンノキ属、ブナ属、コナラ亜属が15%前後産出し、多い。これに続いて、スギ属(11.9%)、マツ属(8.5%)、メタセコイア属(4.3%)、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科(3.8%)アカガシ亜属(3.8%)などが産出する。また、1%以下であるがフウ属とヌマミズキ属が産出する。草本花粉とシダ植物胞子では、イネ科、カヤツリグサ科、ヒカゲノカズラ属などを産出する。

本試料は、スギ属、メタセコイア属、ハンノキ属に続いて、コナラ亜属、ブナ属、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科等を産出し、フウ属、ヌマミズキ属をともなう特徴を示す。前述したように東海層群(=瀬戸層群)矢田川累層については、吉野(1971)、坂本ほか(1984)などによって研究報告されている。吉野(1971)、小牧団研グループ(1971)、坂本ほか(1984)による東海層群にみられるTaxodiaceae(スギ科)、Quercus(コナラ属)、Fagus(ブナ属)、Alnus(ハンノキ属)などを主に産出し、Liquidambar(フウ属)、Nyssa(ヌマミズキ属)を伴う花粉組成と一致している。そして、三木(1948)による春日井市坂下町上野の亜炭層における大型植物化石のMetasequoia disticha(メタセコイア)、Liquidambar formosana(フウ)などの産出と共通する。以上のことから、本試料は東海層群矢田川累層に相当すると考えられる。

<深度527.90m試料>

分析後の花粉化石を含む残渣は、C(Common:普通)であり、その中に含まれる花粉化石の産出傾向はC(Common:普通)である。花粉化石の保存状態は、M−P(Moderate〜Poor:普通〜悪い)である。花粉化石の同定と計数に関して、全般的に良好な状態であるので、花粉化石の同定と計数を十分に行うことができた。

花粉・胞子化石の構成比では、木本花粉が最も多く、50.8%を占める。シダ植物胞子が40%、草本花粉と不明花粉がそれぞれ5%弱である。

木本花粉では、スギ属、メタセコイア属、ハンノキ属が15%弱と最も多く産出する。これに続いて、コナラ亜属(7.2%)、ブナ属(8.5%)、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科(6.8%)、ニレ属−ケヤキ属(5.4%)、トチノキ属(5.4%)を産出する。その他に、フウ属、ヌマミズキ属などが低率ながら産出する。草本花粉では、イネ科、カヤツリグサ科、ヨモギ属が低率で産出する程度であり、シダ植物胞子ではその殆どが、属・科不詳のために「他のシダ植物胞子」としたものである。

本試料は、深度467.45m試料と類似しており、スギ属、メタセコイア属、ハンノキ属に続いて、コナラ亜属、ブナ属、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科等を産出し、フウ属、ヌマミズキ属をともなう特徴を示す。前述したように東海層群(=瀬戸層群)矢田川累層については、吉野(1971)、坂本ほか(1984)などによって研究報告されている。吉野(1971)、小牧団研グループ(1971)、坂本ほか(1984)による東海層群にみられるTaxodiaceae(スギ科)、Quercus(コナラ属)、Fagus(ブナ属)、Alnus(ハンノキ属)などを主に産出し、Liquidambar(フウ属)、Nyssa(ヌマミズキ属)を伴う花粉組成と一致している。そして、三木(1948)による春日井市坂下町上野の亜炭層における大型植物化石のMetasequoia disticha(メタセコイア)、Liquidambar formosana(フウ)などの産出と共通する。以上のことから、本試料は東海層群矢田川累層に相当すると考えられる。

<深度603.30m試料>

分析後の花粉化石を含む残渣は、Tr(Trace:微量)であり、その中に含まれる花粉化石はVR(Very Rare:極希)である。花粉化石の保存状態は、P−M(Poor 〜Moderate:悪い〜普通)である。全般的に不良な状態であるので、花粉化石の同定と計数を十分に行うことができなかった。産出した花粉化石としては、ブナ属、ハンノキ属、メタセコイア属、フウ属、ニレ属−ケヤキ属、エゴノキ属などが僅かに産出する程度である。

花粉化石の産出は非常に少なかったものの、僅かに産出するメタセコイア属は東海層群矢田川累層に産出し、海部累層や弥富累層に産出しないこと、東海層群矢田川累層に相当すると推定した深度527.90m試料の下に位置することから、本試料は東海層群矢田川累層に相当する可能性が高いと考えられる。

<深度646.90〜647.158m試料>

分析後の花粉化石を含む残渣は、Tr(Trace:微量)であり、その中に含まれる花粉化石はVR(Very Rare:極希)である。花粉化石の保存状態は、P−VP(Poor 〜Very Poor:悪い〜非常に悪い)である。全般的に不良な状態であるので、花粉化石の同定と計数を十分に行うことができなかった。産出した花粉化石としては、トウヒ属、マツ属、スギ属、メタセコイア属、クマシデ属−アサダ属、ハンノキ属、ブナ属、コナラ亜属、ニレ属−ケヤキ属、フウ属、ヌマミズキ属、イボタノキ属などが僅かに産出する程度である。

花粉化石の産出は非常に少なく、保存状態も悪いので十分な比較検討は行えない。

表5−2−2 花粉分析結果

図5−2−2 花粉化石組成図