(1)プレート境界付近で発生する地震

プレート境界付近で発生する地震については、太平洋プレートの沈み込みによるプレート間地震、フィリピン海プレートの沈み込みによるプレート間地震、沈み込むプレート内の地震に分けて説明する。

1)太平洋プレートの沈み込みによるプレート間地震

 太平洋プレートが沈み込む千島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝の付近では、M7〜8程度の規模の大きな地震が発生することがある。このような大地震は、太平洋プレートの沈み込みに伴って陸側のプレートの端が引きずり込まれ、やがてそれが限界に達したときに陸側のプレートが跳ね上がる、という断層運動により発生する(図2−19)。1968年の十勝沖地震(M7.9)や、最近では1994年の三陸はるか沖地震(M7.5)がこのタイプの地震である。このような地震をプレート間地震あるいはプレート境界型地震という。断層長が100km以上に達する場合には、地震の規模はM8程度になる。また、このタイプの大地震に伴う海底の地殻変動(隆起や沈降)により、海水が持ち上げられるか、引き下げられるかして、津波が発生することが多い。したがって、プレート境界に面した沿岸地域、特に震源に近い地域では、プレート間地震により、強い地震動が生じるほか、その直後に津波が来る。さらに、震源からかなり遠い沿岸地域において、地震動は弱くても津波が来て被害が生じることがある。図2−20に、プレート境界付近で発生した地震などによる津波の波源域を示す。

 また、プレート境界の一部では、断層面でのずれがゆっくりと起こり、それによる海底での地殻変動(隆起や沈降)で津波が発生することもある。この場合、ずれがゆっくりと起こるため、生じる地震波(正確には、人が感じることができるような周期の短い地震波)は比較的小さく、我々は弱い揺れしか感じない。しかし、津波を引き起こす海底での地殻変動の大きさは、ずれの速さではなく、むしろ断層運動の規模(ずれの量と広さ)などに依存する。したがって、感じた地震動が比較的弱くても、断層運動が大規模であれば大きな津波が発生する。このように、体感する地震動が弱くても大きな津波を生じさせるような地震を津波地震という。1896年の明治三陸地震はこの例であり、短い周期の地震動の強さから求めたMは7程度であったが、推定された断層運動の規模から求めるとM8 1/2に相当する{12}

 なお、津波の大きさは、断層運動の規模のほか、断層面の傾斜角やずれる方向にも依存する。すなわち、傾斜角が垂直に近いほど、あるいは縦ずれ成分が大きいほど、効率的に海水を持ち上げたり、引き下げたりするので、津波は大きくなる。

2)フィリピン海プレートの沈み込みによるプレート間地震

 フィリピン海プレートが沈み込む相模トラフ、駿河トラフから南海トラフ、さらに南西諸島海溝付近にかけては、規模の大きな地震が発生しており、しばしばM8程度の巨大地震も発生する。関東大震災を引き起こした1923年の関東地震(M7.9)、1944年の東南海地震(M7.9)、1946年の南海地震(M8.0)などがその例であり、これらはフィリピン海プレートと陸側のプレートとの境界で発生したプレート間地震である。特に、駿河トラフや南海トラフでは、M8程度の巨大地震がたびたび発生してきたことが歴史の資料から判明しており、また、震源域を隣り合わせて数年以内に連発する傾向があることが知られている。連続して発生した地震を1つの活動とみなすと、そのような活動は歴史の資料から9回見出される(詳細は8−1(1) 1)参照)。

 これらのM7〜8程度の地震でも、一般に海底での地殻変動(隆起や沈降)による津波を伴う。したがって、そのような地震の発生により、プレート境界に面した沿岸地域、特に震源に近いところでは、強い地震動が生じるほか、その直後に津波が来る。さらに、震源からかなり遠い沿岸地域においても、地震動は弱くても津波が来て被害が生じることがある。

 また、フィリピン海プレートの沈み込みに伴っても、大きな地震動を伴わずに津波だけを引き起こすゆっくりした断層運動(津波地震)が発生することがある。

3)沈み込むプレート内の地震

 海溝などから沈み込んでいくプレートの内部で大規模な破壊が発生し、大地震が発生することもある。地下の比較的浅いところで、このような大地震が発生した場合、津波を伴う。例えば、1933年の三陸地震(M8.1)や1994年の北海道東方沖地震(M8.1)がそれにあたり、津波を伴った。

 ある程度沈み込んだプレートの内部で破壊が起こると深い地震が発生する。震源が100〜200kmと深い場合でも、地震の規模が大きければ、地表において強い地震動が生じることがある。例えば、1993年の釧路沖地震(M7.8)は太平洋プレート内の深さ約100kmで発生したにもかかわらず、釧路で震度6が観測され、被害が生じた。