1 はじめに

平成7年1月17日に兵庫県南部地震が発生し、6,427名(平成8年12月26日現在)の死者・行方不明者と、40,000名以上の負傷者を出すなど、甚大な被害が生じた。現地では、地震の際に、「神戸に大地震が起こるとは思っていなかった。」との声があったと言われており、地震に関する基礎的な知識を身につけることの重要性が強く認識された。地震調査研究推進本部地震調査委員会が作成した本書は、地震に対する正しい知識の普及を目的として、これまでの地震に関する知見を整理し、分かりやすく提示するものである。

 兵庫県南部地震を契機として、地震防災対策の強化を図ることなどを目的に地震防災対策特別措置法が成立し、これに基づき地震調査研究推進本部が設置され、地震調査研究の推進のための新しい体制がスタートした。この中で、地震調査委員会は、地震に関する調査結果の収集、整理及び分析、並びに評価を担当している。本委員会は、その活動の一環として、日本の地震活動の特徴を把握するとともに、長期的な地震発生の可能性を評価することとし、平成7年12月に長期評価部会を設置した。本書は、同部会を中心に検討されたものである。検討に当たっては、日本を3地域に分けて地域別分科会を設置し、地域別の地震活動の特徴を取りまとめた。

 本書の構成は次のとおりである。まず2章で全国の地震活動の概要と地震に関する基礎知識について記述した。3章から9章では、日本を北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国及び九州・沖縄に区分し、その地方の地震活動の概要をはじめ、その地域に被害を及ぼす地震のタイプ、これまでに発生した主な被害地震の概要、都道府県別(北海道は地域別)の特徴について記述した。また、内容の理解を助けるために、専門的な用語の説明を行うとともに、参考図表を添付した。

 本書の大きな特徴の一つは、当該都道府県(北海道は地域)に被害を及ぼす地震という観点から記述を行ったことである。また、過去の地震、活断層、地殻変動などの地震に関する各分野の知識を関連性を持たせるように整理し、総合的に記述した。さらに、専門的になりがちな内容をできるだけ分かりやすく提示するため、図表をあわせて示すとともに、用語の解説を加えた。記述内容については、現在の時点で明らかとなっているものとしたが、評価が定まらないものはいくつかの説を併記するなどにとどめた。

 現在進めている地震調査観測体制の整備などにより、今後地震学をはじめとする関連科学の進展が期待される。その中で本書は、適宜見直されるべきものである。

 また、将来の見通し(長期的な地震発生の可能性の評価)については、その手法を検討中である。成果が出た段階で、その内容を盛り込んでいくこととしたい。

 本書が、地方公共団体の防災担当者をはじめとする多くの方々に活用されることを望む。