6−2 前川面の調査結果

前川面は中村原面の低位に広く分布する面である。遠藤ほか(1979)は段丘化年代を火山灰層序から4000〜4500年前前後で、遅くとも富士砂沢スコリア(F−Zn)より前とした。

本調査では、大磯丘陵の海岸に沿う前川面のうち、人工改変、宅地造成から免れている前羽小学校西側のみかん畑内で行った(M−1:図6−1)。M−1ピットの写真および柱状図を図6−2に示す。

M−1ピットでは、地表面から90cmが表土(耕作土)および被覆層(火山灰層)で、そのうち下部約20cmには赤褐色のスコリアが散在している。その下位に極弱く土壌化した砂層が約60cmある。この砂層は淘汰が比較的良く、層理が認められないことから風成砂と思われる。最下位には比較的しまった分級のよい平行層理が明瞭な海成砂層が認められる。

上記の赤褐色スコリアは、直径が0.5mm〜5mmで、岩相から湯船第1スコリア(約3000年前)の可能性が高い1(注)。湯船第1スコリアは、F−Znよりわずかに下位で、天城カワゴ平パミス(Kg)とほぼ同時期(2800〜2900年前:町田・新井,1992)に降下している。そこで、Kgを検出する目的でスコリア混入層を中心に5cm間隔で連続サンプリングを行い、顕微鏡による鉱物分析と屈折率測定を行った。試料は上位よりMk−1〜Mk−7の計7試料である。

土壌化した砂層中から採取したMk−6は、火山ガラス、斜方輝石、角閃石が検出され、火山ガラスの形態がパミスタイプおよび低〜無発泡タイプであること、火山ガラス、斜方輝石および角閃石の屈折率測定結果から、Kgに対比される。

被覆層の最下部から採取したMk−2、Mk−3は、スコリア含有率が高く、湯船第1スコリアに相当すると考えられる。なお、Kgより上位20cmにあたるMk−1では、低〜無発泡タイプの火山ガラスが他の試料と比較してやや多く検出される。下位のKgの再堆積によるものか、複数存在する可能性があるKg(上杉ほか,1998)の一部なのか現段階では判断が困難であることから、同火山ガラスをKg?として示した。

今回の調査結果から、前川面の段丘化年代は3000年前より少し古いと推定されるが、年代値は段丘堆積物から直接得られていないので、さらに検討が必要である。

(注) 上杉委員の現地観察結果による。