6−3 今後の調査位置(トレンチ候補地点)の選定

菊川断層の北部・中部・南部について各地区の特徴を精査結果もふまえ図6−3−1に示す。今後の調査は、断層の平均変位速度、再来間隔、最新活動時期、単位変位量等の活動履歴を明らかにすることが主目的となる。したがって、トレンチ調査では、断層の活動履歴を把握できるような地点を選定する必要があるが、そのためには、次のような条件を必要とする。

@断層の位置をある程度特定することができる。

A新しい時代の堆積物が分布し、年代を特定できる可能性のある堆積物を含む。堆積物の年代としては、既存トレンチで菊川断層の最新活動時期が20,000〜15,000年前とされていることから、その前後〜10万年前程度の堆積物が分布することが望ましい。

B前項で示したように、菊川断層は北部、中部および南部で活動性が異なる可能性があるため、それぞれ別個に評価できるように地点を選定する必要がある。

Cトレンチ調査の施工が可能な箇所。重機の搬入が可能であることのほか、対象となる堆積物の分布深度まで掘削可能な箇所であること。

以上のような選定条件を踏まえ、以下に各調査地点の調査結果とトレンチ調査の可能性をまとめる。

[ 北部 ]

<本郷地区>

菊川断層の北端に位置し、北部の活動性および海域への延長を検討する上で重要な位置であるが、断層位置を特定することはできなかった。また、ボーリングで確認した堆積物は、花粉分析から更新世中期と推定され、活動履歴を検討するために必要な堆積物は分布していない。

<大河内地区>

露頭で、堆積物が傾斜しているのが観察できる。位置的には、本郷地区と同様に、菊川断層の北部を代表する地点と考えられるが、傾斜した堆積物は、花粉分析の結果から更新世中期と推定される。周辺の精査および露頭観察では、更新世中期以後の新しい堆積物の分布が認められていない。そのため、大河内地区では、更新世後期以後の活動性の評価が難しい。

[ 中央部 ]

<上岡枝地区>

菊川断層の中央部に位置し、変位地形がもっとも明瞭である。菊川断層全体の活動性を評価する上で、重要な箇所である。本地点の近くでは、堤他(1991)により、トレンチ調査が行われ、最新活動時期が

20,000〜15,000年前という結果が得られている。

今回の精査、ピット調査およびボーリング調査等で、年代指標となる泥炭層(11,500年前)の分布を確認したほか、その下位層では植物片を含む地層を確認している。したがって、泥炭層およびその下位層と断層との関係を明らかにすることにより、既存トレンチ結果に比べ、より精度の高い最新活動時期の把握が可能と考えられる。ただし、上岡枝地区周辺では、堆積物が2〜3m前後と薄く、最新活動時期をより厳密に把握するには、複数の地点でトレンチ調査を行い、複数のデータを得る必要がある。

また、本地点の下流地点は断層変位地形が明瞭で、さい頭谷内に堆積物が分布する箇所がみられる。複数の地点から複数のデータを得て、より厳密な最新活動時期のデータを得るという点から、上岡枝地区下流地点でのトレンチ調査も有効であると考えられる。

<萩ヶ台地区>

比抵抗映像法により、破砕帯と思われる低比抵抗部を確認するとともに、ボーリングで破砕帯を確認した。しかし、堆積物は扇状地性の堆積物で、比較的新しい時代の堆積物と思われ、砂礫を主体とするため、断層による変位量の認定が難しく、また、年代測定に供する試料をほとんど含まないと考えられる。

[ 南部 ]

<下保木地区>

浅層反射法探査およびボーリング調査により、断層の位置はほぼ特定された。

ボーリングで確認した堆積物は、扇状地性の堆積物と段丘堆積物であるが、深度7.55〜7.70mの扇状地性の堆積物中に姶良Tnテフラ(AT)テフラを確認した。姶良Tnテフラ(AT)は、町田、新井(1992、火山灰アトラス)によると、21,000〜25,000年前(最近の見解では25,000年前、奥野他1997等)とされており、菊川断層の活動履歴を検討する上で、有効な年代指標となると考えられる。また、扇状地性の堆積物は、砂層を主体とするが、所々にシルト層を挟み、いくつかの堆積サイクルが読みとれる。さらに、炭化物を混入するものと推定され、年代測定も可能と考えられる。

したがって、姶良Tnテフラ(AT)およびその上下の地層と断層との関係を明らかにすることにより、25,000年前前後の活動、すなわち、最新活動時期(20,000〜15,000年前)およびその前のイベントを読みとり、再来間隔の検討に重要なデータが得られると思われる。

また、ボーリングでは、扇状地性の堆積物の上位に崖錐性の堆積物を確認している。トレンチ調査により、崖錐性の堆積物と断層との関係も明らかにすることにより、ここでも最新活動時期の把握が可能と考えられる。さらに、下保木地区は、菊川断層の南端に位置することから、中部の上岡枝地区と最新活動時期および単位変位量等を比較検討することにより、菊川断層全体の活動性を評価する上で、貴重なデータが得られると考えられる。

以上のように、トレンチ調査の候補地点としては、上岡枝上流地区、上岡枝下流地区および下保木地区があげられる。

しかし、上記したように、本郷地区および大河内地区等で北部の活動性を評価するようなトレンチ候補地点をあげることはできなかった。北部については、ほぼ全域で、断層の分布位置で更新世後期以後の堆積物が確認されていない。そのため、トレンチ調査で北部の活動性を評価することは困難と考えられる。しかし、北部地区の延長では、海上保安庁水路部(1985)による海域の調査により、菊川断層の海域への延長が推定されている。そのため、北部地域の活動性を明らかにすることは、菊川断層全体の評価を行う上できわめて重要である。海域については、海上保安庁水路部(1985)によるデータはあるものの、その後の探査技術の進歩や堆積物の採取、分析を行うことにより有効なデータが得られるものと考えられる。

以上をとりまとめ、今後の調査計画を表6−3−1図6−3−2図6−3−3図6−3−4図6−3−5にまとめる。