2−7−1 火山灰分析

火山灰分析は、テフロクロノロジー(火山灰編手法)にもとづき、その堆積年代を決めるために行った。

火山砕屑物は、地質学的時間尺度では極めて短時間に広域を覆う特性を有している。この特性を生かした編年法がテフロクロノロジーで、日本では1930年代から土壌調査に用いられ、50年代からは第四紀地史研究や遺跡発掘調査に全面的に適用されるに至った。70年代後半からは、日本列島のほぼ全域を覆う姶良Tnテフラ(AT)の発見を契機として、各年代・各地域の広域テフラ(火山灰)やローカルなテフラが次々と登録され、日本列島及び周辺海域の第四紀層の対比編年の精度が飛躍的に高められた。

火山灰は噴出した火山(給源)や噴火様式によって、鉱物組み合わせ、火山ガラスの屈折率及び火山ガラスの形態等が異なるため、それらを分析することにより火山灰を同定することができる。

今回火山灰分析は,(株)京都フッション・トラックに依頼して行った。以下、分析方法の詳細を示す。

@前処理

まず半湿潤状態の生試料を適宜採取秤量し、50゚Cで15時間乾燥させる。乾燥重量測定後、2リットルビーカー中で数回水替えしながら水洗し、そののち超音波洗浄を行う。この際、中性のヘキサメタリン酸ナトリウムの溶液を液濃度1〜2%程度となるよう適宜加え、懸濁がなくまるまで洗浄水の交換を繰り返す。乾燥後、選別時の汚染を防ぐため使い捨てのフルイ用メッシュ・クロスを用い、3段階の選別(60,120,250mesh)を行い、各段階の秤量をする。こうして得られた120〜250mesh(1/8〜1/16mm)粒径試料を比重分別処理等を加えることなく、封入剤(Nd=1.54)を用いて岩石用薄片を作成した。

A全鉱物組成分析

前述の封入薄片を用い、火山ガラス・軽鉱物・重鉱物・岩片・その他の5項目について1薄片中の各粒子を無作為に200個まで計数し含有粒子数の量比百分率を測定した。

B重鉱物分析

主要重鉱物(カンラン石・斜方輝石・単斜輝石・角閃石・黒雲母・アパタイト・ジルコン・イディングサイト等)を鏡下で識別し、ポイント・カウンターを用いて計数してその量比を百分率で示した。なお、計測する鉱物数は200個体以上であることが望ましいが本試料では重鉱物含有が少なく結果的に総数200個に満たなかった。この際、一般に重鉱物含有の少ない試料は重液処理による重鉱物の濃集を行うことが多く、特に火山ガラスに包埋された重鉱物はみかけ比重が減少するため重液処理過程で除外される危険性がある。また、風化による比重変化や粒径の違いが組成分布に影響を与える懸念があるため、今回の分析では重液処理は行っていない。

C火山ガラス形態分類

前処理で作成した検鏡用薄片中に含まれる火山ガラス形態を、吉川(1976)※(1)に準拠して識別・分類した。なお含有率を測定するため200個の粒子を測定した。その過程で火山ガラスの有無もチェックした。

D火山ガラスの屈折率測定

前処理により調整された120〜250mesh(1/8〜1/16mm)粒径試料を対象に、温度変化型屈折率測定装置(RIMS)※(2)(3)を用い火山ガラスの屈折率を測定した。測定に際しては、精度を高めるため原則として1試料あたり30個の火山ガラス片を測定した。

具体的な測定データは巻末にデータシートとしてまとめ、以下に述べるように表示している。まず最上位に試料名(Serise および Sample Name)、Immersion Oil は測定に使用した浸液の種類を示す。火山ガラスの屈折率ndの式は浸液温度から対応する屈折率を換算するもの、ndは屈折率、tは温度を示す。

温度変化型屈折率測定法※(4)は火山ガラスと浸液の屈折率が合致した温度を測定することにより、各浸液ごとに決められた浸液温度と屈折率の換算式から火山ガラスの屈折率を計算して求める方法である。(As.+De.)/2は液温制御の際の上昇時(Ascent)と下降時(Descent)の平均値を意味する。繁雑さを避けるためここでは測定温度を表示せず、各火山ガラス片毎の屈折率のみを表示した。

測定された屈折率値は最終的にTotalの項にまとめられる。count,min,max,range,mean,st.dev,skewness はそれぞれ屈折率の測定個数、最小値、最大値、範囲、平均値、標準偏差、そして歪度である。屈折率のhistogram の図は縦方向に屈折率を0.001きざみで表示し、横方向にその屈折率を持つ火山ガラスの個数が表現される。*印一つが1個の火山ガラス片の測定結果を示している。

※(1)吉川周作(1976):大阪層群中の火山灰層について.地質学雑誌/82(8),479−515.

(2)横山卓雄・檀原 徹・山下 透(1986):温度変化屈折率測定装置による火山ガラスの屈折率測定.第四紀研究.25(1),21−30.

(3)Danhara T.,Yamashita T.,Iwano H.and Kasuya M.(1992):An improved system for measuring refractive index using the thermal immersion method.

Quaternary International,13/14,89−91.

(4)檀原 徹(1993):温度変化型屈折率測定法.日本第四紀学会編.第四紀試料分析法2.研究対象分析法.149−157.東京大学出版会.♯PAT,1803336,188831