(2)舘山地区トレンチ1の調査結果

トレンチ1の掘削に際しては、当該地点が遺跡指定地に近接していたことから、まず初めに表土だけを掘削し、埋蔵文化財となるような遺跡や遺物の有無を確認した。

遺跡確認の結果、本地点では遺跡に該当するものが存在しないことが明らかとなり、トレンチ掘削を実施した。

トレンチの大きさについては、計画当初は、幅10m、長さ15m、深さ4mであった。しかし、実際に掘削を行った結果、トレンチ南面の最も西側において断層が確認されたため、断層面の西方への延長と、変位量の詳細な把握を目的として拡幅掘削を実施した。拡幅のは、西方へ4mの長さで実施し詳細な地質観察を実施した。

<トレンチ1の地質層序>

表5−4−2に本トレンチの地質層序表、並びに年代測定結果を示す。また、トレンチ壁面写真を図5−4−5、図5−4−6に、トレンチ壁面スケッチ(縮尺1/50)を図5−4−7図5−4−8に示す。

以下に本トレンチで確認された地層の層相を記載する。

・T1−A層:黒ボク

本層は、トレンチの最上位の地層であり、全ての壁面で観察される。層厚は30〜100cmであり全体的にみると平野側(東側)へ行くにつれて厚くなる傾向がある。本層の上部は腐植度が強く、黒〜黒褐色を呈するが、下部へいくほど漸移的に腐植度が弱くなる。また、下位層であるT1−2層との境界は不明瞭である。トレンチ北面においては、3〜5m付近において、本層が下位のT1−B層とT1−C層中に落ち込んでいる箇所が認められるが、これは人工的なものである可能性が高い。一方、南面の6〜7m付近や、西面(南側)においても本層の黒ボクが下位層の粘性土中に落ち込んで分布する箇所があるが、これも人工的に掘られた痕跡であるものと推定される。

本層での年代測定結果は表5−4−2に示すとおり、上部では暦年補正年代で約1,300〜2,700cal y.B.P、下部では暦年補正年代で約6,600〜10,000年前の年代値が得られた。

・T1−B層:粘土〜シルト質粘土〜シルト

本層は、褐色を呈する粘土を主体とし、上部ほどシルト分を混入するようになる。トレンチ西面や南面の掘増し部分では、シルトが主体となる。全体に粘性は中程度で、塊状無層理を呈する。一部に細砂をレンズ状に挟在する。下位のT1−C層との境界は比較的明瞭である。層厚は、北面では30〜50cmであるが、南面は60〜100cmと厚くなる。また、南面に関しては、東へ行くほど層厚が厚くなる傾向がある。

尚、本層において、壁面で観察された木片を数多く採取し、年代測定を実施したが、全て「modern」の値が出たため、地層の形成年代は明らかにならなかった。

・T1−C層:砂〜砂礫

本層は、細粒砂層を主体とし、中粒〜粗粒砂層の小規模なレンズを多数挟在する。トレンチ東端および北部には砂礫層をレンズ状に挟在する。所々に材化石を少量散在する。層厚は、ほとんどの壁面で50〜60cmと一定である。

北面において本層中に取り込まれた腐植質粘土の礫より、約27,000年前の14C年代値が得られた。

・T1−D1層:砂礫

本層より下位は主に扇状地性の砂礫からなり、砂礫層中の基質の層相変化により、T1−D1 〜T1−D3層の3つに区分した。また、本層は、本地区のボーリング結果により区分された地層区分ではTa2層に対比される。

T1−D1層は、基質支持の砂礫で、上部ほど礫径が小さくなる。礫は、細〜中礫サイズの亜円礫を主体とする。下部では少量の大礫が混じる。基質は粗砂を主体とし、上部では粘土分を混入する。インブリケーション(礫の覆瓦状構造)が認められる。層厚は、北面では約80cm程度あるが、南面では30〜50cm程度と小さくなる。

・T1−D2層:砂礫

扇状地性の砂礫からなる。礫支持の砂礫で、礫は中礫〜大礫サイズの亜円礫を主体とする。基質は、細粒〜粗粒砂からなり、側方の粒径変化が認められる。即ち、北面では細粒砂を主体とするが、南面では、中〜粗砂が主体となる。また、インブリケーションが認められる。層厚変化は激しく、北面はほぼ60〜70cmで一定であるが、南面では、最大1.7mに達する。

・T1−D3層:砂礫

扇状地性の砂礫からなる。礫支持の砂礫。礫は、大礫〜巨礫サイズを主体とする。円磨度が上位層よりも高く、円礫を主体とする。基質は粘土を混入する中〜粗砂を主体とする。一部、基質に空隙が多く認められる。また、インブリケーションが認められる。

南面堀増し部において、本層中に取り込まれた腐植質粘土の礫より、約33,000年前の14C年代値が得られた。

<トレンチ1の地質構造と断層>

トレンチ1においては、南面の9〜13mにかけてと、南面堀増し部において、完新世(10,000年前)以降の堆積物を切る断層が確認された。以下に断層の性状について記載する。

断層の位置と連続性については図5−4−7図5−4−8に示し、断層付近の近接写真を図5−4−9、図5−4−10に示した。断層は2条確認され、山地側(西側)のものをF1断層、平野側(東側)のものをF2断層とする。F1断層の走向はN50W18SWであり、南西側が隆起する逆断層センスを示す。断層は、南面堀増し部において砂礫層であるT1−D3層上面に変位を与え、南面の10m付近まで連続する。南面においては、T1−D1層上面に明瞭な変位が認められ、さらに上位のT1−B層下底面まで断層面は追跡できる。

さらに上位のT1−B層内部とT1−A層(黒ボク)には断層面は認められない(図5−4−9、図5−4−10参照)。しかし、T1−B層は、断層付近を境に全体に平野側に(東に)撓んでいるように観察され、変位しているものと推定される。また、T1−A層(黒ボク)の下底面は断層付近を境に平野側に落ち込み、地層の層厚も厚くなる。また、断層の延長部分において、下位のT1−B層が、上位のT1−A層(黒ボク)に入り込んでいる箇所も見られる。従って、T1−A層(黒ボク)についても、少なくとも下底面付近は断層により変位しているものと推定される。

F1断層を挟んだ各地層の垂直変位量は、下位より、T1−D1層上面:13cm、T1−D1層上面:15cm、T1−B層上面(黒ボク下底面):14cm、となり、ほとんど同じであった。

<断層付近堆積物の薄片観察>

断層による変位がどの層準まで及んでいるかを明らかにし、最新活動時期に関する資料を得ることを目的として、断層付近の堆積物の薄片観察を行った。薄片観察を行うことより、粘土鉱物の配列などの微細構造から堆積物の変形の有無を明らかにすることを目的とした。

図5−4−11に薄片を作成した試料の採取位置を示す。試料は、明らかに断層面が見られたT1−C層上面(試料No.1)、T1−B層内部での断層延長部(試料No.2)、T1−B層上面(黒ボク下底面)の断層延長部(試料No.3)の計3箇所で採取した。それぞれの薄片顕微鏡写真を図5−4−12図5−4−13図5−4−14に示す。

試料No.1(図5−4−12)では、断層面が観察され、上盤側の砂層中に含まれる細長い鉱物(雲母類)の長軸が断層面にほぼ平行に配列する状況が観察された。これは、断層運動に伴って、鉱物粒子が再配列したものと判断される。

一方、試料No.2(図5−4−13)と試料No.3(図5−4−14)においては鉱物粒子の配列はランダムであり、一定方向の再配列は生じていないものと推定される。

断層面が認められなかったT1−B層内部とT1−A層(黒ボク)については、微細構造からの堆積物の変形は確認されなかったが、地層全体としては東に撓んでいる構造が露頭スケールでは観察された。従って、少なくともT1−A層(黒ボク)下底面までは撓曲変形を被っているものと考えられる。