(2)トレンチA(スキー場地点)

本トレンチは、大石田町営スキー場南側の谷の出口付近の明瞭な低断層崖の上盤側で掘削した(用地的な制約から下盤側は掘削できなかった)。

トレンチ深度は第1層目の腐植土を確認するため2mとし、トレンチ長さは同腐植土層が水平になるのを確認するために5mとした。壁面の傾斜は約60°としたが、腐植土層下位の砂層からの激しい湧水のため壁面基部の小崩壊が頻繁に発生した。

(1)層相

大石田町横山地区トレンチAの法面で観察される地層を、層相(主に粒度組成)の違いに着目して上位のものから順に、盛土およびA層・B層・C層の4層に区分した。さらにA層を層相や堆積状況の違いに基づいて、A1層〜A4層に細分した。以下にこれらの地層の特徴を述べる。

【盛土】トレンチ法面の最上部に見られる層厚60cm以下の部分で、上部20cmが帯黄灰白色の粘土および黒褐色土であり、下部は暗褐色の細礫混じり細粒砂〜中粒砂層からなる。

【A層】細礫混じり粘土質砂層〜シルト層

本層はトレンチ法面で観察される地層のうちで最も広い範囲を占める地層であり、層厚は1m以下である。主として、粘土成分を含む細粒砂ないし中粒砂で、細礫を含むA1層およびA3層、北東側法面の南東端部のみに観察される中粒砂〜粗粒砂から構成されるA2層、南西側法面の南東側に観察されるA4層に細分される。

A1層とA3層を構成する堆積物は、構成物質に違いは認められないが、A1層は黒褐色(7.5YR3/2)を呈するのに対しA3層は暗褐色(10YR3/4)であり、両者は色調が異なっている。

A1層およびA3層に含まれる細礫は、パミス>泥岩のくさり礫≫深成岩類の亜円〜亜角礫であり、礫径は5mm以下である。A1層は、北東側法面においては南東側が細粒であり、4.5mの位置より南東側では中粒砂粒子がほとんど含まれないシルト層に漸移する。A3層中には葦などの水辺の植物と考えられる原地性植物片が含まれているのが観察される。南西側法面のみに観察されるA4層は、その下限を地滑りに起因すると考えられる剪断面によって規定され、B層およびC層と接している。A4層の層相は、A3層と同様、くさり礫混じりの粘土成分を含む細粒砂ないし中粒砂で、その中にB層起源と考えられる腐植土のブロックを含んでいる。このことから、A4層は小規模地滑りによって再堆積した堆積物であると考えられる。

A1層中部から得られた木片からは533±42y.B.P.の14C年代値が、また、A3層下部から得られた木片からは634±41y.B.P.,同層上部から得られた炭化物からは330±41y.B.P.の14C年代値が得られた。

【B層】腐植質粘土層

本層は層厚約30cmの腐植質粘土層で、中位に厚さ10〜15cmの強腐植質粘土層を挟み、その上・下位は弱腐植質粘土層である。さらに、北東側法面では、0m〜2.5mおよび4m〜5mの位置に上部の弱腐植層の上位に、厚さ10cm程度の腐植混じりの粘土層が存在する。上位・下位の弱腐植層はそれぞれ黒褐色(10YR3/1)および黒色(10YR2/1)を呈し、また、中位の強腐植層は黒色(10YR1.5/1)を呈する。上位の弱腐植層には粗粒砂〜細礫大のパミスおよびくさり礫が少量混入しているのが認められる。

B層の中部に挟まれる強腐植質粘土試料からは1,264±37y.B.P.の14C年代値が得られた。

【C層】粘土〜シルト層および中粒砂〜細礫層

本層はトレンチ法面最下部に観察される地層であり、その下限はトレンチ法面で認めることができないので正確な層厚は不明であるが、少なくとも60cm以上である。層相の変化は激しく、両側の法面において層相が大きく異なる。北東側法面では主として淘汰の良いシルト〜細粒砂から成り、細礫層および粗粒砂層をレンズ状に挟在する。シルト〜細粒砂の部分は、漸移的に南東側ほど細粒になる。レンズ状に挟在される細礫は泥岩>パミスから構成され、本法面で観察された範囲では径2.5cmの泥岩が最大のものである。一方、南西側法面においては、主として中粒砂〜細礫からなるが、一部に、最上部に厚さ15cm以下のくさり礫を含む粘土層が観察される。本層はマトリックスに粘土分を含み、淘汰はあまり良くない。また細礫の配列によって形成されるラミナが観察される。C層は全体的に灰色(5Y4/1〜7.5Y4/1)を呈するが、4〜5mの位置では褐色(7.5YR4/3〜7.5YR4/4)を示す。

(2)地質構造

本トレンチで観察される地層は、ほぼ南北の走向で東に緩く傾斜しており、B層の中位に挟在される強腐植土層の傾斜は1〜7°である。

地層堆積後の変形は、主として、B層およびその周囲に認められる。B層は2.5mの位置より南東側において剪断面とクラックによる地層の変形が観察されるが、その変形はさほど大規模なものではない。観察される剪断面のうち、最も規模の大きいものは、南西側法面の3〜5mの位置に観察される下に凸の円弧状をしたものである。この剪断面の北西端はB層中の強腐植土層を切っているのが確認されたが、B層上面には変位を与えていない。さらに、この剪断面の上部には地滑り性の堆積物(A4層)が存在することなどから、この剪断面は地滑りに伴う円弧滑り面であると考えられる。

この他に南西側法面で観察される剪断面は、正断層型の変位センスを示し、剪断面に沿う変位は大きいものでも10cm程度である。また、これらの剪断面はごく一部のものを除いてB層下底面には変位を与えていない。

一方、本トレンチの法面で観察されるクラックはB層の上面からB層中に伸びるが、B層下面までは達していない。これらB層中に発達するクラックの中にはA層を構成する堆積物が充填しており、A層がまだ未固結の時にクラックが形成されたものであると考えられる。

B層中に観察されるクラックおよび剪断面は、一般にテンション場で形成されると考えられている。これらの構造は、B層の傾斜変換点付近に発達しており、さらにはB層上部にのみ見られ下部までは及んでいない。これらのことから、B層中に観察されるクラックおよび剪断面は、本トレンチの南東側においてB層が屈曲したことに起因して形成されたものであると考えられる。このB層の屈曲の原因については、地下に存在する活断層の断層運動によって形成された撓曲構造である可能性も否定できないが、ボーリングNo.3の結果から下盤側にはB層に相当する地層が存在しないことから、断層運動とは関係の無い変形(例えば扇状地層舌端部のクリープ変形)である可能性が高い。