(1)大寺トレンチ@

<地層記載>

トレンチ@で見られる地層を上位からA層,B層,C層,D層,E層に区分した

A層:トレンチの法面の最上部に見られる黒色土もしくは礫混じりシルト層で、現在の耕作土もしくはこの直下の盛土,暗渠排水の埋め土などである。

B層:トレンチ上部に見られる黒色腐植土もしくは礫混じりの腐植質層である。これを礫や砂の混入程度や腐植の程度から上部の黒色腐植層(B1層),この下位に断続的に見られ下位の黒色腐植層を覆う細礫混じり腐植質層(B2層),より下位に見られる黒色腐植層(B3層)に区分した。B層全体の層厚は約1mで細礫混じりのB2層は10〜30cmの厚さとなっている。

B層では穂植物および礫混じり腐植層で年代測定を行った。この結果、B2層の礫混 じり腐植質層から3,480±60y.B.P.,B2層中に挟まれる薄い黒色腐植層からは3,890±50y.B.P.の年代値が得られた。B3層ではやや上部の腐植層から4,400±50y.B.P.,下部から6,550±90y.B.P.の年代値が得られた。

C層:トレンチ上部に連続する砂礫層で層厚は最大で2mである全体に層相の側方変化が激しく、砂層部分ではラミナが明瞭で礫層中にもラミナの発達が見られる。C層は砂優勢のC1層(上部)と礫優勢のC2層(下部),南側法面の一部に見られるC3層(最下部)に区分した。

このうち上部のC1層はトレンチ法面にほぼ同一の層厚で連続しているが、西側と中央部付近で礫優勢となる。この地層に含まれる礫はほとんどが凝灰質泥岩・凝灰岩であり礫の供給地は西側に位置する山地と考えられる。トレンチ南面の12〜13m付近にはこのC1層中に楔型の擾乱部が見られる。この部分ではマトリックスが腐植質となっている。また、より東側には砂層や礫層中に植物の根が含まれる部分も見られる。この年代値として6,950±40y.B.P.が得られた。

C2層はトレンチの南北法面の東側にのみ分布する砂礫層である。全体に淘汰が悪く礫優勢となっている。礫は凝灰質泥岩や凝灰岩が多いが安山岩もまれに見られる。砂層部分ではラミナの発達が良い。C3層は南側法面の9〜10mの間に見られるシルト混じりの砂層である。上位のC2層に削り込まれ、下位層を削り込むため区分した。

D層:トレンチの南北法面で確認され、西側のみに見られる砂礫層である。全体の層厚は4mを超える。不淘汰で巨礫を含むD1層と比較的淘汰の良い砂優勢なD2層に区分した。D1層には安山岩など須川上流域に分布する巨礫が多量に含まれ、これらの礫のほとんどが円磨されていることからこの地層の堆積時には須川本流がこの位置を流れていたものと判断される。また、D1層にはラミナの発達の良い粗粒砂層も見られるがいずれもレンズ状の分布を示す。

D2層はD1層の下位に見られ、トレンチの西側に分布する。淘汰が良くラミナの発達が良い。また、トレンチ中央部付近にはD2層中に大型の木片が多量に含まれており、ラミナに沿って、炭化物の小片が多量に含まれる部分がある。D1層とD2層はほぼ連続して堆積したと考えられるがD1層の下部がD2層の砂層を削り込む場合もある。D2層に含まれる木片から9,340±60y.B.P.の年代値が得られた。

E層:E層はトレンチの下部、東側に見られる黒色腐植層が優勢なシルト・砂・礫の不規則互層である。層厚は約2mまでが確認されている。この地層は炭化物を混じえる砂層が南側法面にのみ確認された(E1層)。この下位には極細粒砂〜シルト層を挟む厚さ50〜80cmの黒色腐植層(E2層)が見られる。より下位には亜角礫を含む砂礫層であるE3層が見られ、トレンチで確認される最下部は黒色腐植層(E4層)となっている。 これらの地層のうち最下部のE4層から9,670±50y.B.P.の年代値が得られた。

<断層および構造記載>

大寺トレンチ@では南側法面の上段に西傾斜の低角逆断層(fa断層)が確認された。この断層はC1層およびB3層を切り、B1層,B2層に覆われている。断層面は20度程度の傾斜をもちほぼ南北の走向をもつが、断層面は完全な平面とはなっていないため、北側法面には連続せず西側法面に連続して上位のB1,2層に覆われている。断層面沿いで確認される変位量は最大でも30cm程度(垂直成分)であるが、B2層の分布から50cm程度の落差が考えられる。

このトレンチにおいて確認された断層面はfa断層のみであるが、南側法面もC1層には楔型の擾乱が見られ、B3層とC1層の境界付近でも上位の腐植層が砂礫層中に楔型に落ち込む現象が確認された。また、このC1層はトレンチの法面において東西に連続しているが層厚に大きな変化がないにも関わらず基底および堆積頂面に高度差が認められる。

D層中のラミナはほぼ水平となっているが、下位のE層との境界付近に礫の配列などによる不明瞭な面構造が見られる。しかし、この面構造は下部のD2層には連続していない。

E層は黒色腐植層やシルト層からなる不規則互層であるため堆積時にはほぼ水平であったものと判断されるが、トレンチ中央部で西に向かって緩やかに傾斜し、北側法面には西落ち西傾斜の正断層が確認された。ただし、E4層は最終的な増掘によって東側の15m付近まで水平に連続することが確認された。