(7)地質構造解析(変位量、平均変位速度の推定)

 トレンチ周辺の地質構造を把握し、撓曲も含めた変位量、平均変位速度の推定するために、図5.1.4.5のようにトレンチ南側で4本のボーリング(断層上盤側:No.1,No.2,断層下盤側:No.3,No.4)を配置した。

(a) 地層対比

 ボーリングコアとトレンチ内の地層の対比を行った結果を、図5.1.4.11、ボーリング地質柱状解釈一覧表(巻末試料)にまとめた。断層は、No.2孔の深度3m付近を通って20〜30°で西方に傾斜しているものと推察される。推定した根拠を下記に記す。

 ・No.1孔の深度8.0〜8.7m間には埴生累層相当層(固結した砂〜シルト)が存在する。

 ・No.2孔の深度3.0〜3.2m間は、35°で傾斜する砂礫、幅2cmの灰色粘土、幅20cmの暗灰色の砂層が存在し、粘土と砂礫との間には剪断面が認められる。(図5.1.4.12)。

 ・No.2孔で深度2.8mにAT(姶良火山灰)の再堆積層(厚さ5mm)が存在し、剪断面を介して深度3.45mに厚さ10cm前後のATが存在する。後者のATは、ほぼ水平で、付近の地層に乱れはなく、トレンチの上段で確認されたATよりも1.5m下位に位置することから(図5.1.4.13)、断層下盤側のATと判断した。

 トレンチで見られたB,C−D境界、AT(姶良火山灰、D2層)、F−D境界、G−F境界は、断層下盤側で、層相の違い、年代値等から ボーリングコア(No.2,No.3,No.4)において判定できるが、それよりも上位の境界(B−C境界など)についてはコアにおいては判定はできなかった。

 以下に判定根拠を記す。

 B,C−D境界:B層、C層、およびD層はいずれも支流性の堆積物が優勢であり、層相が似ていることから境界の判定は困難であるが、D層に比べるとB層、C層の砂礫層には本流性の礫が混じること、礫径がやや大きい点に違いがある。No.3,No.4孔では、B,C層に相当する層準は礫混じりシルトに移化しており、最終的には年代値と併せて推定した。

 AT位置:ATが確認できたのは、No.2孔のみであるが、No.4孔の深度4.7m付近に厚さ5mm前後の砂混じりの白色火山灰が存在し、おそらくATが再堆積したものと思われる。供給源が近いと予想されるため、断層下盤側でのATの深度は、GL−3〜4m前後と推定した。

 F−D境界:F層は、本流性の多種の礫を多く含む砂礫層主体であり、礫の粒径も最大15cmのもの(柱状コア)を含む。トレンチ内のF2層に対応する。一方、D層としたもののうちATよりも下位は、灰色シルト〜砂(一部支流性礫を含む)が続くこと、シルトの年代値が24,100yrBP(No.4孔、深度5.5m)であることから、トレンチ内のD4層に相当すると判断し、本流性礫とシルト〜砂との境界をもってF−D境界とした。

 G−F境界:G層は、暗灰色の細〜粗粒砂は支流性の砂礫が主体であり、その年代値は一部を除いて45,200〜47,880yrBP(トレンチ内のG1〜G3に対応)であることから、上位のF層との境界は、この一連の砂層が本流性の礫層に移り変わる地点をもって境界とした。なお、G層中には、39,600yrBP(No.3孔、深度17.45m)、39,180yrBP(No.4孔、深度18.96m)と若い年代値を示す層が存在し、断層等による地層の逆転も考えられるが、G層の堆積構造はほぼ水平であり、地層の欠如、不連続が存在するようには見えない。2地点とも腐植土の14C年代値であり、AMSで少量の試料を測定しているため、堆積後の有機物の汚染の可能性も考えられる。

 G層より下位層:G層の下5〜6m間(No.3,No.4孔)は、再び本流性の砂礫層が分布し、さらにその下7〜8m間は支流性の礫を含む砂、シルト層が存在する。おそらく、F,G層を含めて、断層下盤平野部では、厚さ5〜7mの小矢部川本流の堆積物と支流性堆積物とが繰り返し累重しているものと考えられる。トレンチで対応する層はない。

 なおボーリングでは、トレンチで観察したE層(シルトブロックを含む支流性堆積物)は確認できなかった。

 層厚変化が激しいことから、No.2孔とNo.3孔との間に狭小に分布しているものと思われる。

 断層を挟んで上下盤の変位量を推定する上で変位基準面となりうるのは、上記の境界のうち、境界が明瞭なG−F境界、F−D境界、ATである。上盤側では撓曲による引きずりを考慮する必要があり、正確な変位量が求まらないが、トレンチ内で見えている範囲に限定するとそれぞれ下記のとおりとなる。

 G−F境界:10m

 F−D境界:6〜7m

 AT: 3〜4m

 これは、断層による鉛直変位量の最低値である。したがって、変位量は、それぞれこの値以上ということになる。上盤側のひきずりがどこまで及んでいるのかについては、正確にはわからないが、極浅層反射断面、河床における基盤(埴生累層)直上の段丘礫層の厚さの分布等から検討を行った。

(b)極浅層反射断面図との対応

 図5.1.4.14に極浅層反射断面解釈図を示す。図は、反射測線における反射断面をトレンチ(南側側壁)の長軸を通る断面(A−A’)に全体の地質構造(地層の走向)に平行に投影したものである。反射断面からは、断層位置については不明瞭で位置の特定は困難であるが、起点からの距離が25〜50m前後の間で反射面が20〜30°で東へ急傾斜しており、さらにその東(0〜25m)間では、ほぼ水平呈していることから、この間にあるものと予想される。

 基盤(埴生累層)と段丘礫層との境界は、下盤側では、既存ボーリング(温泉ボーリング)結果から深度380mの位置に存在し(図5.1.4.4左下図)、一方上盤側ではNo.1孔のボーリング深度8mにあることから、起点から40〜60m付近では反射断面深度20mの反射面に対応するものと推定される。

 なお、トレンチ南側の古谷川の河床露頭では、基盤直上の段丘礫層は本流性の礫をほとんど含んでいないため、対応する可能性が高い。トレンチ内で確認される基盤(埴生累層)直上のG層の厚さは3〜4mあり、この厚さから考えると、起点から40〜60m間の最上部(反射断面深度17〜18m間)の明瞭な反射面は、G−F境界に対応している可能性が高い。

(c)平均変位速度

 極浅層反射断面図の結果から、おおむね50〜60m付近で上盤側の撓曲は終わっているもの(図5.1.4.14)と推定される。F−D境界、ATの位置は不明であるが、F2層、D2〜D5層が上盤側でほぼ同じ厚さで上載している(E層は消滅)とすれば、それぞれの鉛直変位量は下記のように求められる。

 G−F境界:12m

 F−D境界:9〜10m

 AT   :8.5〜9.5m

 ここで、G−F境界すなわちF層基底の年代はトレンチ内の試料から3.1万年、F−D境界はD4層の基底の年代値から2.56万年、ATは2.4万年(いずれも暦年未補正値)として、変位基準面と変位量との図(図5.1.4.15)に投影し、平均変位速度を求めると、

 0.38m/千年

となる。

 また、断層の傾斜は20−30°であることから、平均25°と見なしてネットスリップを計算すると、0.86m/千年を得る。なお、いずれの計算も断層滑動時期の範囲を考慮せず、原点を通る一時回帰直線にあてはめた。

 図5.1.4.16に法林寺地区の地質構造発達モデル図を示す。当地区では断層活動に伴い、46,880年前以降の4回のイベントによって変位の累積が形成された。当地区では、AT堆積以降1回しかイベントは確認されていないが、安居西地区のイベント情報を加味すると、B,C堆積中、あるいは、堆積以降断層活動があった可能性もある。ここでは、B,C層の上部は変位はないと考え、表現している。