(a)トレンチ内の地質・層序
トレンチ内には断層は存在しないが,反射法探査で確認された断層上盤側の撓曲構造(東へ20〜70°で急傾斜)が観察でき,厚さ1〜3mの粘土層,砂礫層,砂層の互層が分布する (図5.1.4.7)。なお,トレンチ上段の粘土層中には,厚さ10cm〜15cmのAT(姶良−丹沢火山灰)を挟む。法林寺トレンチで確認された地層を不整合あるいは削り込みを基準に上位からA層〜G層に区分した。また、各層について層相の変化が見られる場合にはそれぞれを細分した。以下にトレンチで確認された地層の層相を示す。
<A 層>
現在の耕作土および盛土である。耕作土は東に向かってやや厚くなっている。南側側壁中段13〜14m付近と北側側壁中段の5〜6m付近には暗渠排水設置のための埋め土がある。
<B 層>
南側側壁の9m付近から東側と東側側壁に見られる砂礫層である。小〜大礫で構成され基質は粗粒砂で、南側側壁にはラミナをもつ粗粒砂も見られる。東側側壁では礫層中に炭化木片を含む。
<C 層>
上位からC1層,C2層に区分した。C1層は南側側壁にのみ確認され細〜中粒砂、シルトからなり上部ほど細粒となっている。最上部は腐植質シルトで炭化木片を含む。C2層は南側側壁から東側、北側側壁の中段で確認される砂礫で、巨礫を含む小〜大礫からなる。亜角礫〜円礫が主体で基質は粗粒砂となっている。部分的にレンズ状の粗〜中粒砂を挟み、礫層中に炭化木片を含む。
<D 層>
上位からD1層,D2層,D3層,D4層,D5層に区分した。
D1層南側側壁から東側、北側側壁に確認され、腐植質シルト、シルト、細粒砂の細互層(ラミナ)からなる。層厚にほとんど変化がなく連続し、北側法面と南側法面ではC2層に明瞭に削り込まれる。
D2層は、南側法面から東側、北側側壁に連続する白色の細粒ガラス質火山灰である層厚は約10〜15cmでほとんど変化がない。堆積頂面に乱れが見られたり、層中にわずかなラミナが観察されることがあり、静穏な水中もしくは湿地などに堆積したものと考えられる。火山灰中には無色透明の抱壁型(バブルウォール型)の火山ガラスが大量に含まれており、鑑定の結果、始良−丹沢火山灰(AT)と同定された(後述)。この火山灰の直上、直下は薄いが連続のよい腐植質シルトとなっている。
D3層は、AT直下に見られる細粒〜粗粒砂、シルト、腐植質シルトからなる。層厚に変化はほとんどないか、小規模な地層の擾乱が見られる部分がある。
D4層は腐植質シルト・シルト・細粒砂のやや不規則な互層状の堆積物であり、北側法面中段で下部がやや厚くなるものの、確認される範囲で層厚の変化はほとんどなく部分的に炭化物混じりの層準が見られる。
D5層は層厚約2mの砂礫層で、中粒〜粗粒砂をレンズ状に挟む。磯径は比較的小さく円〜亜円礫が主体となっている。北側側壁では層厚が薄くなっており、下位の地層を明瞭に削り込む。
<E 層>
上位からE1層,E2層に区分した。
E1層は北側側壁中・下段から東側側壁下段、南側側壁下段に確認されるが、南側側壁中段ではD5層に削り込まれるため分布しない。主にシルト、腐植質シルト、細粒砂からなる地層で、北側側壁上段では2m弱の層厚が確認される。上部ほどシルト優勢で下部には細礫を含む粗〜中粒砂が見られる。
E2層は層厚1〜3mの砂礫層で、細粒砂・シルト・腐植層をブロック状に取り込む堆積物となっている。円礫が優勢で軟質な泥岩・砂岩などの支流もしくは背後の山地に分布する地層から供給された礫が多い。北側側壁下段から東側側壁下段にかけて層厚を増しており、この部分に下位層から取り込んだシルトなどのブロックが集中する。また一部は上位のE1層中に楔状に食い込む様な形状を示す。イベント堆積物の可能性がある。
<F 層>
上位からF1層,F2層に区分した。
F1層は北側側壁下段に確認されたシルトからラミナを持つ細粒砂によって構成される。層厚は30cm程度が確認されるのみだが、E層中のシルトブロックの中にF1層からもたらされた思われるブロックが存在することから、F1層は、本来ある程度の層厚をもつシルト層、腐植質シルト層であったものが、E層によって削られたと推定される。
F2層は巨礫を含む中〜大礫中心の砂礫で、基質は粗粒砂である。トレンチ内で確認できる範囲では層厚は3〜4mである。礫中心の部分とやや粗粒砂優勢の部分が見られるが、ほぼ一連の砂礫層となっている。粗粒砂優勢の部分では弱いラミナの発達がみられ、下位の地層から取り込んだシルトのブロックや細粒砂のブロックが確認された。
<G 層>
上位からG1層,G2層,G3層に区分した。
G1層は軟質な砂岩・泥岩の円礫が極めて優勢な砂礫層で礫径は小さく支流から供給された堆積物の可能性が高い。部分的にシルトのブロックや下位層を取り込んでいる。
G2層は層厚30cm前後のシルト、細粒〜中粒砂からなり、確認できる範囲では層厚の変化が少ない。炭化物、木片を含み細粒砂の部分ではラミナの発達が良い。
G3層はトレンチで確認される地層の最も下位の地層であるため地層の下限は確認されない。軟質な砂岩、泥岩の礫が極めて優勢な円礫主体の砂礫層で礫径は小さい。
(b)堆積構造および変形構造
トレンチ内で観察される地層はすべて河川性の堆積物であるが、その供給源は、北流する小矢部川(本流)に由来するものと西方山側の支流を起源とするものが存在する。F2層以外は、砂岩・泥岩礫を多く含む支流性の堆積物、あるいは、支流性と本流性の双方の礫を含むと見られるが、F2層は、礫種が多彩であり本流性の堆積物である。従って、F2層の堆積頂面は、本来東方平野側へ傾斜をもっていたわけではないにもかかわらず、トレンチ内の地層はいずれも東に傾斜している。このことから、F2層は、構造運動の影響を強く受けているものと考えられる。
D5A層からD1層は、原傾斜ははっきりしないが、最大40°前後傾斜しているにもかかわらず、地層の厚さはほとんど変わらない。またD1層〜D4層までは、シルト〜砂層であることから、傾斜地に堆積したとは考えられない。このことから、D層についても構造運動の影響を受けているものと考えられる。また、トレンチで確認される最も下位の地層であるG層(G2層)についても、地層の層厚が大きく変化しないこと、地層がシルトや細粒砂で構成されること、この中に細かなラミナの発達が見られることから堆積時の水平を支持する可能性が高く、現在の傾斜は、構造運動によると考えられる。一方B層・C層は、本来もっていた堆積頂面の傾斜がはっきりしないことから、構造運動の影響を受けたかどうかは定かではない。
上記の地層のうち、G2層は平均30〜40°東傾斜,F1層は70°東傾斜,E1層およびD1〜D4層は25°前後の東傾斜を示している。F1層よりも下位のG2層の方が見かけ傾斜が緩いように見えるが、G2層は局所的にしか見えておらず、掘削面下ではもう少し急傾斜している可能性がある。
実際、トレンチ全体を見ると、F2層の傾きを、扁平な礫や砂礫層中に見られるラミナなどから判断すると東ほど大きく傾斜し、西側ではやや緩やかなものとなる。
断層は後述するようにボーリング調査結果から、トレンチ東端直下1m前後の位置にあることから、その直上では、引きずりに伴う地層の変形量が最大となる。
(C)イベントの解釈
地層の変形の仕方の違いから判断できる当地域のトレンチで確認できたイベント境界は、少なくとも4つ存在する(図5.1.4.7)。いずれも,断層そのものとの関係が確認されているわけではないが,不整合の上下の地層の間に明らかな構造差があり,ほぼ確実にイベントが存在する。いずれも東方道路下に伏在する西傾斜の主断層の活動に伴うイベントと見ることができる。
・イベント1(D−C境界)(図5.1.4.8)
トレンチ南北両側壁東上端、東側側壁で確認される(図5.1.4.8は、南側側壁中段のAT付近)。
同一変形したD1層からD4層までの腐植質シルト〜細粒砂,AT,D5A層の砂礫層を不整合にC層以上が覆い,C層はD層の変形に参加していないことから,D〜C間には少なくとも1回以上の断層活動に伴う何らかの変形があったと推定できる。D1層からD5A層間は,連続的に堆積していて同一変形をしているため,少なくともこの間には,断層の活動はなかったものと考えられる。
・イベント2(D5A−D5B境界)(図5.1.4.9)
トレンチ北側側壁の最下段において,60〜70°で東に急傾斜するD5B層をD5A層が傾斜不整合に覆っている。堆積構造だけでこのような急傾斜が形成されたとは考えにくく、D5A層堆積前,D5B層堆積後に何らかの断層活動に伴う変形運動が起こったと考えられる。
・イベント3(F−E境界)(図5.1.4.9)
F1層(シルト層),F2層(砂礫層)は,60〜70°で東に傾斜している。F1層は,上位のE2層によって傾斜不整合に覆われており,この間に1回以上のイベントがあったと思われる。F1層は,明らかに下位のF2層とは整合関係であるため,ブロックではない。E2層は地すべり性堆積物であり内部構造は複雑であるが,トレンチ最下段においては,明らかにF1,F2層の急傾斜構造と斜交していることから,この間に少なくとも1回以上の断層活動に伴う変形があったと思われる。E層は,局所的であり,西に向かって急激にその厚さを減ずる。後述するようにトレンチ東方のボーリングからは、E層に相当する堆積物は存在しない。このため,断層活動に伴うイベント堆積物であると予想される。この堆積物がF−E間で起こったイベントと別個の時期に堆積したかどうかは不明である。
・イベント4(G−F境界)(図5.1.4.10)
トレンチ最下段の西端において,細粒〜中粒砂からなるG2層は,左右に波打つ変形をし,全体的に30〜40°で砂礫主体のG1層,G3層とともに東へ傾斜している。F1層以上の地層はこの変形運動には参加しておらず,F2層はG1層の上に傾斜不整合に上載している。このことから,G1層とF2層との間には,少なくとも1回以上のイベントがあったと考えられる。