(a)ピット内の地質・層序
ピット内には、厚さ1〜2mの粘土層、砂層、砂礫層が分布し、全体に10〜60°で西へ傾斜している(図5.1.2.4、付図参照)。
反射法探査結果では、撓曲構造を示す明瞭な反射面は認められないが、ピット直下(深度10〜20m)に東傾斜のバックスラストの存在が予想される。
ピット内には、地層の傾動、f1〜f4の4本の西傾斜の逆断層が見られるが、東傾斜のバックスラストは存在しない。
地層の傾動については局所的であり、その傾動量も大きいことから、バックスラストの地表延長部における引きずり変形を反映している可能性がある。
f1、f3断層は、1万年前後の地層を断層に沿いに60cm以上変位させており、主断層とバックスラスト一連の活動と同時期に形成された可能性が高い。1989年当時の道路法面写真(図5.1.2.1)に見られる4本の断層のうち西側の2本がf1、f2(あるいはf3)に相当するものと思われる。
なお、ピット中央下底付近には、60°前後で西に傾斜する白色火山灰層(AT:姶良火山灰)が存在するが、ピット東端の北側側壁では、ATはほぼ水平を呈している。f1、f2、f3の3本の断層を介しているため、その間ではATは欠如するが、下位の粘土層とともに撓曲しながら階段状に西傾斜、西上がりの構造を持っていると思われる。即ち、ピット中央下で変形量が最も大きいと思われる。
ピット内で確認された地層を不整合、削り込みを基準に上位からA層〜D4層に区分した。また、各層について、層相の変化が見られる場合には、それぞれを細分した。
以下にピットで確認された地層の層相および断層の特徴を示す。
<A 層>
現在の耕作土および盛土である。耕作土(A1)は西端でやや厚くなる。ピット西端の耕作土の下に泥礫を含む黒色シルト〜細粒砂が存在し、西側側壁のA2層基底付近に木杭(径5cm)が存在することから埋土と思われる。
<B 層>
上位からB1層、B2層と区分した。
B1層は、細礫を含む細粒砂であり、南側側壁上端に狭小に分布する。
B2層は、灰色シルト〜暗灰色シルトであり、南側側壁上端にのみ狭小に分布し、B1層がこれを削り込んでいる。
<C 層>
上位からC1層、C2層、C3層、C4層、C5層に区分した。
C1層はピット南西上端にのみ分布し、細粒砂、暗灰色中粒砂からなる。地層の傾斜は、N8゜E16゜Wである。
C2層は、ピット南西端に見られ、斜交葉里が発達した灰色細粒砂と黒灰色腐植土〜腐植質シルトとの互層である。C1層が不整合にC2層を覆う。下位のC3層とは傾斜不整合関係である。
C3層は、ピット西縁の3側壁に認められる。灰色シルト〜中粒砂からなり、中〜上部には炭化木片を多く含み腐植質シルトを挟む。
C4層は、ピット中央〜西縁の南北両側壁に見られる。炭質物のラミナを含む灰色シルト〜細粒砂であり、強腐植土層、中粒砂層を挟む。強腐植土層は、炭化木片、材化石を多く含む。灰色シルト〜細粒砂はラミナが発達し、上方細粒化が見られる。全体に20〜30°で西に傾斜する。
C5層は、北側側壁と南側側壁で確認され、1〜5cmの亜角礫主体の砂礫層である。礫種は、砂岩、泥岩、チャート、安山岩等など支流性の礫が多く、花崗斑岩、凝灰岩礫を伴う。基質は粗粒〜細粒砂であり、ラミナが発達する。下位のD層を傾斜不整合に覆っている。
<D 層>
上位からD1層、D2層、D3層、D4層に区分した。
D1層は、ピット中央のAT直上に位置し、AT(D2層)とともに60°前後で西に急傾斜している。主に粗粒砂〜礫混じり粗粒砂からなる。
D2層は、幅5cm前後の白色火山灰(AT)であり、ピット中央部とピット東端に見られる。
D3層は、D2層の直下のシルト〜粗粒砂であり、D1層よりもやや細粒分に富む。
D4層は、当地点では最下位の地層に相当し、ピットの南北両側壁の東半に見られる。灰色シルトからなり、厚さ1〜2cmの細粒〜中粒砂の薄層、レンズを挟む。f1断層を挟んで西側では、西に30〜40°で傾斜するが、断層よりも東では、ほぼ水平である。ただし、断層東側の灰色シルトは、D1層と別層準を見ている可能性もある。
f1断層:ピット南北両側壁の東端に位置する。N30〜40E38W。西上がりの逆断層。
断層の剪断面は確認できるが、粘土は挟まない。ピット北側側壁では断層東側のATが少なくとも断層面に沿って1m以上変位している。また、ピット南側側壁では、ATは見えていないが、ATを削り込んで堆積したと思われる砂礫層(C5層かどうかは不明)を少なくとも1.2m以上変位させている(図5.1.2.5:ねじり鎌の長さが約30cm)。当断層は、ピット内においては、それを被覆する地層が無いため、活動時期は不明である。
f2断層:f1断層のすぐ西側に位置する。f1断層の分岐断層の可能性あり。N25E50〜60W。当断層は、D4層に変位を与えているが、それ以降の地層との関係は不明である。
f3断層: ピット中央下に位置する。N5E58W。C4層以下の地層に変位を与えているが、それ以上の地層との関係は不明である。変位量は、C5層基底で約20cmである。
f4断層:ピット北側側壁西下端に位置する。N15E22〜33W。C4層以下に変位を与えるが、C3層以上には変位を与えていない。C4層の腐植土層基底の変位量は、60cmである(図5.1.2.6)。
(b)イベントの解釈
地層の変形の仕方の違い、断層と被覆層との関係等から、当ピット内で確認できた活動イベントは主なものとして4つ存在する。
・イベント1(C−現在)(図5.1.2.7)
ピット南側側壁上端には、褐灰色〜灰色の砂層(B1層)、および腐植土を含む灰色のシルト層が存在する。これらはいずれもほぼ水平な堆積構造を持っており、C層以下と同様に西側への傾動はしていない。分布が狭いため、B層とC層との関係は直接確認できない。ただしC層以下は、山側(西方)から供給された支流性の堆積物であるのもかかわらず、明らかに西へ10〜20°傾斜している。このことから、C層堆積以降、現在までの間に少なくとも1回以上のイベントがあったことは確実である。
・イベント2(C3−C2境界)(図5.1.2.7)
ピット西側側壁、南側側壁の西端には、C3層をC2層の基底の砂礫層が削り込んで堆積している。C3層、C2層いずれも細粒砂〜シルトからなり、水平を支持できる。C2層は、木片や炭質物を多く含む腐植土層とシルト層が互層状を呈しており、その傾斜は10〜40°である。その傾斜方向は南西方向であり、C3層の西傾斜と斜交する。C3層とC2層との間に構造差はさほど大きくなく(10°前後)、堆積構造でも説明できないわけではないが、この間に傾動を伴うようなイベントが存在した可能性は高い。
・イベント3(C4−C3境界)(図5.1.2.6)
ピット北側側壁西端のf4断層(N15E22W〜N15E33W)は、C4層に変位を与えているが、C3層には変位を与えていない。したがって、C4層堆積後、C3層堆積前にイベントが存在したことは確実である。
・イベント4(D1−C5境界)(図5.1.2.8)
ピット中央には、AT,D4〜D1までの砂層を挟む灰色シルト層が60°前後で西に急傾斜している。C5層以上の層はこれを傾斜不整合に覆っており、明らかに下位のD層よりは傾斜は緩い。即ち、D1層の堆積以降、C5層の堆積以前に少なくとも1回のイベントが存在することは確実である。なお、C5層〜C4層までの間は、一部、不整合と読めるところもあるが、明瞭な構造差は存在しない。
上記のうち、イベント3以外は、複数のイベントが含まれる可能性がある。特に地層の堆積時期の間隔が長いイベント4にその可能性が高い。