(3)試料分析結果

地形面・堆積物の年代を推定するために試料分析を行った。以下に結果を示す。なお、分析結果の詳細は巻末資料としてまとめた。

○放射性炭素年代測定

分析機関:樺n球科学研究所

試料採取:井口村赤祖父ため池右岸

分析試料:礫・シルト互層のシルト層準から得られた木片試料

分析方法:AMS法

年 代 値:50760±*** y.B.P

一応年代値として得られてはいるが、測定限界に近いものであり、かつ誤差範囲も特定できないことなどから、デッドカーボンとして考えていいものと思われる。

試料採取:福光町川西地内

分析試料:低位段丘X構成層中の古土壌

分析方法:AMS法

年 代 値:2070±50 y.B.P

この試料は大雨の災害で崩壊した道路脇斜面被災箇所の地表近くで採取された試料である。写真判読による面区分の年代より若干若い。表層の植物などのコンタミの可能性も考えられる。

○花粉分析

分析機関:パリノ・サーヴェイ

試料は赤祖父ため池右岸側工事用道路法面に露出した礫・シルト互層から2箇所採取した

上位層準(試料bP)からはトウヒ属・ツガ属が優先する、寒冷な気候(冷温帯上部〜亜寒帯(亜高山帯)針葉樹林)を示す花粉が多産するが、下位層準(試料bQ)ではスギが卓越しハンノキ、ブナ、コナラなどが分布する、やや寒冷な気候(冷温帯下部〜温暖帯上部)を示す花粉が多産する。

・考 察

試料採取堆積物の堆積年代は層相および層準、メタセコイヤ属が検出されないことなどから更新世中期〜後期であると予測される。この時代の他地域での既往調査事例では以下のような結果が得られている。

下位層準のbQではスギ属が卓越し、上位層準のbPではトウヒ属とツガ属が優占するように花粉群集の変化が見られる。これを野尻湖・諏訪湖における調査例と比較してみると、これらの地域では、酸素同位体比層序のステージ5においてスギ属が多産または卓越し、ステージ2〜4において、トウヒ属、ツガ属などの針葉樹が優占している(野尻湖花粉グループ,1984,1987,1990,1993;野尻湖発掘調査団,1993;大嶋ほか,1997)今回分析したbQの花粉化石群集はスギ属の多産または卓越するステージ5、bPはトウヒ属とツガ属が多産するステージ2〜4の花粉化石群集との対比が考えられる。年代的にはbQが約7〜12万年前、bPが約1〜7万年前に相当することになる。この事例は標高が高い地域の調査結果でありそのまま対比することはできない。

両層の関係は層厚にして約2mであり、環境の激変を示すとは考えにくい。層相から考えると後背地からの崩壊土砂が堆積した事も考えられるが、堆積当時の植生は寒冷帯・温暖帯の境界付近の植生であったとも考えられる。野尻湖・諏訪湖での既存調査結果と直接の対比はできないが、オーダー的には中位段丘相当の堆積物と位置づけられるのではないかと思う。

放射性炭素年代測定結果および花粉分析結果より、赤祖父ため池右岸に認められた急傾斜した(一部断層で切られた)礫・シルト互層は、中位段丘相当の堆積物と考えられ、これらが堆積以降に大きく変形を被っていることから、数万年前程度は、「[新編]日本の活断層」に示された山側の断層が活動的であったことを示唆している。

<段丘堆積物から得られた火山灰試料について>

高清水断層によって変位している、庄川町金屋地内 製材所脇の段丘堆積物(低位段丘V)露頭と、井口村蛇喰地内 耕地整理箇所の段丘堆積物(低位段丘W)露頭、井口町宮後地内 斜面崩壊箇所の段丘堆積物(低位段丘W)露頭から得られた火山灰試料について、全鉱物組成分析、屈折率測定などを実施し、広域テフラとの対比を試みた。

分析機関:葛椏sフィッショントラック

○庄川町金屋地内 製材所脇の試料(低位段丘V構成層)

かなりコンタミの多い結晶質テフラ。風化のため火山ガラスは検出されない。緑色普通角閃石・紫蘇輝石・黒雲母を含む。このうち紫蘇輝石は100面の良く発達した清澄な短冊状を呈し、その屈折率は1.702〜1.707である。また緑色普通角閃石は1.676〜1.682に大部分が集中する。以上の岩石記載的特徴、採取地点、層位から、本テフラは大山倉吉(DKP:約46,000年前)テフラに対比される。

○井口村蛇喰地内 耕地整理箇所の試料(低位段丘W構成層)

ややコンタミが認められるものの純度の高いガラス質テフラ。典型的な無色透明のバブル・ウォール型ガラスを含む。火山ガラスの屈折率は1.497〜1.500であり、よく集中する。ガラスの水和層厚は約10μm、かつスーパーハイドレーションは観察されず本試料がおよそ2〜3万年前のものと推定される。重鉱物は微量で、斜方輝石・単斜輝石、緑色角閃石、青色角閃石、黒雲母を含む。以上の岩石記載的特徴、採取地点、層位から、本テフラは姶良Tn(AT:約24,000年前)テフラと判断される。

○井口村宮後地内 表層崩壊箇所の試料(低位段丘W構成層)

ややコンタミが認められるものの純度の高いガラス質テフラ。典型的な無色透明のバブル・ウォール型ガラスを含む。火山ガラスの屈折率は1.498〜1.500であり、よく集中する。ガラスの水和層厚は約10μm、かつスーパーハイドレーションは観察されず本試料がおよそ2〜3万年前のものと推定される。重鉱物は極微量で、斜方輝石、緑色角閃石を含む。軽微な再堆積の可能性もある。以上の岩石記載的特徴、採取地点、層位から、本テフラは姶良Tn(AT:約24,000年前)テフラと判断される。