2−2−3 精査重力探査

〔目的〕

 既往重力データの解析結果をふまえ、呉羽山断層付近により密に測定点を配置し、断層の概略の位置を把握することを目的として実施した。

〔調査範囲〕

 測定点は、既存資料による呉羽山断層の区間を取り囲むように配置した。測定点数は、呉羽丘陵にほぼ直交する方向に測線状に502点(標高は二等水準測量の精度で決定)、測線間を補間するように153点(標高は1/5,000地図中の独立標高点を利用)、富山地方気象台内の重力基準点で1点の合計656点である。これらの測定点の重力値は、全て重力基準点の絶対重力値と結合されている。解析範囲は、これらの測定点のほぼ全体を含む6km×14kmの範囲である(図2−2−6 精査重力探査測定点配置図を参照)。

〔測定機器〕

 測定には、Scintrex社(Canada)製のサーボ制御型重力計CG−3Mを用いた。表2−2−2に機器の仕様を示し、図2−2−7に重力計の測定原理を示す。

●重力検出部は、図に示す定位型のスプリング・おもり系から構成されている。

●重力が増減すれば、それに応じてスプリングが伸縮する。この時のおもりの変位を検出し、このシグナルをフィードバックすることによりおもりを元の位置に戻す(ゼロ位法)。

〔測定方法〕

 測定は、図2−2−8の模式図に示すような閉環測定によって行った。この方法は、任意に設けた基準点(基点)を出発して、測定点1,2,3,・・・,i,i+1,・・・と重力測定を行い、再び基点に戻って測定するものである。このとき、基点での閉合差がある許容誤差の範囲に納まれば測定を終了し、もし、閉合差が大きければもう一度その環の測定をやり直すことになる。閉合差とは、閉環測定の最初と最後の基点での測定値の差である。今回の測定では、以上のような閉環測定を1日に1〜2回実施し、データの良否の確認を行った。

〔解析結果〕

(1)フィルター処理結果

 図2−2−9に重力データの処理と解析の流れをまとめて示す。同図に示すように解析の手順としては、以下の3つのステップがある。

@調査地で得られた測定デ−タを補正して、各測定点での重力値を求める。

Aその重力値に、さらに種々の補正を施して、重力異常値(ブーゲー異常値)を計算する。

Bさらにこの重力異常値の分布に、スペクトル解析・フィルタ−処理を適用することなどによって地下の密度構造(巨礫の分布範囲)を推定する。

 図2−2−10に、フィルター処理前のブーゲー異常図を示す。なお、ブーゲー異常を求める際、地形補正には、国土地理院編集の数値標高データ「KS110−1」を使用した。このオリジナルのブーゲー異常分布に図2−2−11に示したフィルター特性により、フィルター処理を施し、トレンド成分・ノイズ成分を除去しシグナル成分を抽出した。なお、図2−2−11に示したフィルター特性は、既存データの解析におけるトレンド成分・長波長成分・ノイズ成分と同特性の波長を取り除くフィルターである。フィルター処理の結果を図2−2−12に示す。

 図2−2−13は、図2−2−12のフィルター処理の結果のうち、主に数km程度より以浅の地下構造異常を抽出したと考えられる、シグナル成分である。

 全体的な傾向としては、コンターは北東−南西方向に延びており、北西から南東に向かって重力異常値が低くなっている。これは既存重力データの解析結果に一致する。

 細かく見ると、中央部に高重力異常の尾根筋が北東−南西方向に延びており、この尾根筋から南東に向かって重力異常値が急激に低くなっている。これは、富山大学付近で深度約32mで第三紀層が確認され、神通川の右岸側で深度800m付近で第三紀層を確認したという、既存のボーリング資料と定性的には一致している。すなわち、この尾根筋の部分では第三紀層が比較的浅い深度にあり、南東側に向かって第三紀層が深くなり、第四紀層が厚くなっていくという状況を反映しているものと推定される。

 また、この尾根筋の北西側に、尾根筋にほぼ平行な低重力異常の谷筋が見られる。この低重力異常は、既存資料による呉羽山断層、及び友坂断層の位置にほぼ一致する。

 その他に図の左上と右上に高重力異常部が認められる。左上の高重力異常部は、射水丘陵に一致する。右上の高重力異常部は、地形的には平坦な低地であるが、何らかの、周囲に比べ高密度の地質構造が存在することが推定される。

(2)重力鉛直一次微分分布

 得られた重力異常分布(シグナル成分重力分布、図2−2−13)は、波長約30km−500mのバンド・パスフィルタ−処理後のものであるため、概ね、数km以浅・100m程度以深の地下密度構造異常を重ね合わせて反映したものであると考えられる。

 一方、活断層調査にとって、深度500m程度以浅といった浅所の地下密度構造異常を反映した成分を強調して検討することは、断層運動に伴う浅所の密度構造異常に起因するリニアメント構造等の平面的な分布状況を把握する上で重要な情報を提供する。

 図2−2−14は、このような観点から、シグナル成分重力分布から計算によって求めた重力鉛直1次微分分布である。この計算には、重力分布が(重力ポテンシャル分布と同様に)ラプラスの方程式を満たす、という性質を利用している。重力鉛直1次微分分布は、重力の鉛直勾配の分布と同等であり、元の重力分布(シグナル成分重力分布)に比べて波長の短い成分を強調したことになっている。したがって、元の重力分布に比べて分解能力が高く、より浅い地下密度構造異常の影響を強調してみていることになる。

 重力鉛直1次微分分布にみられる諸特徴は、以下のとおりである。

(1) 呉羽丘陵の伸びの方向と平行して、その北東側約1.5kmの位置(地形的には平坦な地域)に極めて顕著な高異常の尾根筋が認められる。

(2) この高異常の尾根筋は南西側にもさらに延長しており、全体として顕著な高異常帯を形成している。このことは、元の重力分布(シグナル成分)からは必ずしも明瞭には認められなかったことである。

(3) 特に調査範囲の南西側半分(距離程0m−6,000m付近まで)においては、上記の高異常帯とその北西側に平行する幅約500mの低異常帯とが極めて顕著な対をなして認められる。この反面、調査範囲の北東側半分においては、北西側の低異常帯の幅が1km程度と広くなっている。このことは、距離程6,000m付近を境として、その北東側と南西側とで浅所地下密度構造に変化があることを示唆している。

(3)2次元断面モデル計算による検討

 図2−2−13の精査重力データのフィルター処理後のシグナル成分は、広域トレンドがほとんど無い(フィルター処理前のオリジナルに近い)ものである。これは、既存重力データの解析の際と同特性のフィルターをかけた結果である。このシグナル成分において、西側に比べ東側で重力異常値がぐっと低くなっているのに対して、深部反射法探査結果では、東西の端でほぼ水平層構造となっており、かつP波速度値も全体として西側に比べ東側の方が大きくなっており、速度大→密度大という定性的な傾向を考えると、反射法探査と重力探査結果は必ずしも合致していない。

 フィルター処理において、どの波長成分がシグナル成分で、どの波長成分がトレンド成分、ノイズ成分に相当するかは、調査対象と地下構造により異なり、通常、試行錯誤を伴うものである。ここでは、深部反射法探査で東西の端でほぼ水平層構造となっている結果を受けて、東西の端で重力異常値が一定となるようなトレンドを考え、オリジナルブーゲー異常値からトレンドを差し引いた残差(トレンド残差)と、2次元密度モデル計算結果とを比較検討する。

 図2−2−15(2)にオリジナルブーゲー異常値とトレンド、及びトレンド残差を示す。オリジナルブーゲー異常値は、深部反射法探査とほぼ同一測線上の測点データから計算されたものである。仮定したトレンドは、オリジナルブーゲー異常値の東西の端のそれぞれにおけるブーゲー異常値の変化の傾きの平均をとったものである。

 図2−2−15(1)にモデル計算に用いた密度モデルを示す。基本的に、反射法探査結果の解釈に、ボーリング調査などによる密度情報を加味したものである。中央部の三角地帯(砂岩層)は、C孔の密度測定結果よりP波速度1800[m/s]の部分を密度2.0[g/cm3]とし、P波速度2200[m/s]の部分を密度2.1[g/cm3]とした。他の部分については、原則的にP波速度2200[m/s]前後の部分を密度2.1[g/cm3]とし、P波速度2300[m/s]以上の部分を密度2.2[g/cm3]とした。また、左上部は中央部の三角地帯の密度値の平均である2.05[g/cm3]とした。

 モデル計算では、図2−2−15(1)の密度モデルを形状によって100m〜400m程度の区間に分割し、それぞれの区間を直方体モデルとして近似した。ただし、境界条件として、図の左右の延長、及び図に直交する方向の延長は深度・密度値が変化しない平板モデルとした。また、計算点は、100mピッチで、標高は一定値(0m)とした。

 図2−2−15(3)に、モデル計算結果にトレンド残差を重ね合わせた結果を示す。全体的な傾向を以下に挙げる。

@重力異常の振幅差(高低差)はモデル計算結果、トレンド残差のどちらも約2.4[mGal]程度でほぼ一致している。振幅差は主に密度差によって変化するものであり、密度差を増やせば振幅差も大きくなり、密度差を減らせば振幅差も小さくなる。このモデル計算結果は、モデルの密度差0.2[g/cm3]が、深度1000m程度以浅の構造においてほぼ妥当なものであることを示唆している。

A距離程1500m〜4000m区間(浅部反射法探査実施区間にほぼ相当)においては、モデル計算結果、トレンド残差の形状、すなわち距離程0mから見て山→谷→山と重力異常が変化していく形状が良く一致している。この結果は、反射法探査結果に見られる背斜構造、及び断層部の位置、形状が重力探査結果からも支持されることを示唆するものである。

B一方、測線の端ではモデル計算結果、トレンド残差の形状は一致していない。この要因としては、測線の端で水平層構造となると仮定したトレンド、及び境界条件からのずれ、あるいは与えた密度モデルの実際の構造とのずれ等が考えられる。特に測線東側(神通川方面)では、砂礫層と基盤(第三紀層?)との境界位置、及び性状の違いを密度モデルとして吟味する必要もあると思うが、反射法探査では必ずしも明瞭にとらえられてなく、密度情報にも乏しいため、現状、これ以上のモデルは考えなかった。