(1)<栃本南方断層の活動時期の推定>

栃本南方断層の活動年代を直接示す調査結果は得られなかった.しかし,ボーリング調査で基盤岩上を覆う被覆層の構成が明らかになった結果,現在は湿原となっている地形が,大きな環境変遷を経て形成されたものであることが明らかになった.この環境変化は断層活動と関連している可能性があることから,堆積物の層相やそれらから類推される堆積環境の変化から断層活動時期の推定を試みた.

(1)溶岩流形成時期

扇ノ山を起源とする溶岩流が流下し,固結した.この時期は,既存資料によると更新世中期以前である.

(2)玉石混じり砂礫層の形成時期

この砂礫層は,礫径のかなり大きな玉石が混じる一方で,マトリックスには粘性土がかなり含まれることから,土石流的な堆積物であると考えられる.溶岩流上の凹地もしくは谷を厚く埋積するような,かなり流動的な堆積環境であったと推定される.

(3)礫混じり腐植混じり粘土層から腐植質粘土混じり砂礫層の形成時期

腐植質粘土層が形成されていることから,平常時は平坦に埋積された谷間の静かな湛水域で,湿原状の堆積環境であったと考えられるが,洪水時などは砂礫が流れ込むような流動的な環境になったと考えられる.礫混じり腐植混じり粘土層の14C年代の結果から,この砂礫層の形成時期は約9,600年前以降と考えられる.

(4)腐植土層の形成時期

(3)に引き続き湿原状の堆積環境であった時期で,さらに礫の流入が希な浅い静かな湛水域へと変化し,腐植土が形成されたと考えられる.腐植土層の14C年代の結果から,この時期は約1,800年前程度の時期であったと考えられる.

(5)礫混じり粘土層の形成時期

現在に近い堆積環境になった時期.粘土が形成されていることから,平常時は静かな湛水域であるが,洪水時などは時折礫が流れ込むようなやや流動的な環境にもなったと推定される.したがって,現在の湿地の出口付近の環境に近いと考えられる.

これらの堆積史の中で,環境が大きく変化したのが,(2)と(3)間である.この時期に,下流部で河川をせき止めるような変化が生じた可能性が考えられる.下流部で河川をせき止めるような変化は,地形的に見た栃本南方断層の西上がりの運動や,ボーリング調査で明らかになった西側の基盤岩の上昇と調和的である.したがって,栃本南方断層は,(2)と(3)の間に活動した可能性がある.