(2)断層露頭f17

平成9年度の調査で発見された断層露頭f17は,郷路川支流源頭部の崩壊地に形成された露頭である(図3−2−4−1図3−2−4−2図3−2−5−1図3−2−5−2).露頭を整形するとともに,露頭の左側や右肩上部も合わせて整形し,全体の詳細な観察を行った(図3−2−6写真3−2−2−1写真3−2−2−2).

露頭は中央部を境に凹型に弯曲しているが,スケッチ右側の崖面の走向はほぼ東西方向で北を向いており,左側はほぼ南北方向で西を向いている.また,f17露頭の右肩上部を南へ廻り込んだf17’露頭はほぼ南北方向で西に向いている.

露頭での層序については,次の項目であるトレンチ調査結果(TO−2トレンチ)と合わせて検討するために,便宜上共通の地層番号である@〜R'を付けた.対比について表3−2−2に示す.

f17露頭およびf17’露頭の各層について上位の層より記載する.

@表土

腐植分を含む土壌.大部分は未分解の葉片,木根からなる.黒茶色を呈する.

断層の上盤側およびf17’露頭で断層を覆って分布する.

A'砂礫層

礫径20〜40mmの円礫を主体とする砂礫.礫は硬質で,ほぼ水平に配列する堆積構造を示す.茶色を呈する.

断層の上盤側に分布し,@層に覆われ,B'層を覆う.

B'腐植土層

有機質なシルト層.左側(露頭西側)に向うにつれて砂分を含有する.粘性が高い.暗茶色を呈する.

断層の上盤側に分布し,@層とA層に覆われ,L層以下の層を覆う.

B''腐植土層

非常に腐植質である.黒茶色を呈する.

f17’露頭の断層の下盤側のみに分布する.下位のF'層,H層の引き裂かれたようにブロック化している隙間を埋めるように堆積している.B''層自体も乱れた構造になっており,ブロック化している.1層に覆われ,F'層を覆う.

F'砂層

微細砂層.全体に均質.灰色.

断層の下盤側のみ分布する.上位のB''層,下位のH層,J'層とともに引き裂かれたような形態を示し,ブロック化している.B''層に覆われ,H層を覆う.

H火山灰層(AT)

均質で火山ガラス質の火山灰層.非常に固く,締まっている(半固結状).TO−2トレンチの南側壁面において採取された試料の火山灰分析の結果,姶良Tn火山灰(AT:約2.5万年前)と同定された(巻末資料参照).褐灰色を呈する.

断層を挟んで両側に分布する.断層を挟んでの鉛直変位量は,110cm以上である.上盤側のものおよび下盤側の一部のものは引き裂かれて礫状となっている.上盤側では@層に覆われ,I'層を覆う.下盤側ではF'層に覆われ,J'層を覆う.礫化している部分では,I'を覆っている.

I'砂層

中砂主体の砂層.茶褐色を呈する.

断層を挟んで両側に分布する.上盤側ではH層に覆われ,J'層を覆う.下盤側ではJ'層を覆う.下盤側のものは,引き裂かれたようにブロック化し,断層に沿って分布している.

J'礫質シルト層

非常に不均質なシルト層.亜角礫主体の礫径 10〜30mm,最大礫径 40mmの風化凝灰岩の礫を混入するが,混入率は不均一である.明褐灰色を呈する.

断層を挟んで両側に分布する.f17’露頭では,下位のK'層やL層を削り込んで堆積しているようにみえる.断層を挟んでの鉛直変位量は,f17露頭では50cm以上,f17’露頭では90cm以上である.f17露頭では上位層は欠如しているが,K'層を覆う.f17’露頭では,上盤側はI'層に,下盤側はH層に覆われ,K'層を覆う.

K'粘土層

粘土層.茶色を呈する.

断層を挟んで両側に分布する.層厚は20cm程度だが,連続性はよい.断層を挟んでの鉛直変位量は,f17露頭では60cm以上,f17’露頭では70cm以上である.f17露頭,f17’露頭ともにJ'層に覆われ,L層を覆う.

L火山灰層(DKP)

軽石質の火山灰層.火山灰分析の結果,含有鉱物として緑色普通角閃石(GHo),紫蘇輝石(Opx),黒雲母(Bi)を含んでいた.Opxの屈折率はγ=1.702〜1.707,GHoの屈折率はn2=1.497〜1.501でよく集中していた.また,わずかに残る火山ガラスの屈折率はn=1.506〜1.507である.以上の岩石学的な特性から,大山倉吉軽石層(DKP:約5万年前)と同定された(巻末資料参照).褐灰色を呈する.

断層を挟んで両側に分布する.f17露頭では上盤側と下盤側では層厚が異なり,上盤側は下盤側の約半分の厚さしかない.断層を挟んでの鉛直変位量は,f17露頭では200cm程度,f17’露頭では少なくとも60cm以上である.f17露頭ではK'層に覆われ,M'層を覆う.f17’露頭でもK'層に覆われる.

M'シルト層

シルトを主体とする層である.断層の上盤側と下盤側とでは,層相に少し違いが認められる.上盤側をM'−1層,下盤側をM'−2層とした.

M'−1礫混じりシルト

シルト主体層.礫径5〜20mmの風化礫が混入している.灰白色を呈する.

断層の上盤側のみにレンズ状に分布し,L層に覆われ,O'層を覆っている.

M'−2シルト

シルト主体層.明灰色を呈する.

断層の下盤側のみに薄層状に分布するが,連続性はよい.L層に覆われ,N'層を覆っている.

N'砂礫層

砂礫を主体とする層である.層相から2つに区分できる.

N'−1シルト質砂礫

礫径5〜40mmの風化礫を主体とする.最大礫径は100mmである.マトリックスはシルト分を含む.明灰色を呈する.

断層の下盤側の東側壁面(左側)にのみ分布する.上面は断層によって切られている.

N'−2砂礫

全体に不均質な砂礫層である.礫径30〜70mmの風化凝灰岩礫を主体とするが,礫の混入率,礫径に変化がみられる.所々にシルトの薄層を挟在している.茶褐色を呈する.

断層を挟んで両側に分布する.下盤側ではスケッチの範囲外にも広がっており,層厚は少なくとも5m以上あることが確認されている.断層を挟んでの鉛直変位量は,少なくともf17露頭では70cm以上である.M'層に覆われる.

O'有機質シルト層

有機質なシルト層.暗灰色を呈する.

断層の上盤側のみに分布する.上盤側における分布の形態は複雑で,上下の2箇所に分かれてみられる.上側のO'層は,M'−1層とL層に覆われ,下位のP'−1層を覆う.一方,下側のO'層は,P'−1層とP'−2層に覆われることから上下関係が逆転している.

f17露頭のすぐ南側で掘削したTO−2トレンチの調査結果とも合わせて判断すると,西に向かって凸な西傾斜の撓曲構造を,露頭壁面が高角で切り取っているためと考えられる(図3−2−10−3参照).O'層の下側(上面側)は断層で切られている.

P'シルト層

シルトを主体とする層である.層相から2つに区分できる.

P'−1礫混じりシルト

礫径5〜30mmの風化凝灰岩礫を混入する.礫は風化が進行して軟化しており,指で容易に割れる.ほぼ鉛直方向に潜在亀裂があり,壁面整形の際には壁面が剥離した.乳白色〜灰白色を呈する.

断層の上盤側のみに分布する.上盤側における分布の形態は複雑で,露頭北端(左端)部分では,弯曲して逆「つ」の字形に分布する.O'層同様,西に向かって凸な西傾斜の撓曲構造を,露頭壁面が高角で切り取っているためと考えられる.

O'層に覆われ,P'−2層あるいはQ'層を覆う.

P'−2シルト質砂礫

礫径5〜20mmの風化凝灰岩礫を主体とする.砂分は粗砂が主体.マトリックスはシルト分を多く含むが,全体にやや不均質で,含有量に変化がある.褐色を呈する.

断層の上盤側のみに分布する.分布の形態は複雑で,ほぼドーナツ形(上部の一部が途切れている)を示す.O'層同様,西に向かって凸な西傾斜の撓曲構造を,露頭壁面が高角で切り取っているためと考えられる.

見かけ上はP'−1に取り囲まれ,Q'層を内部に包み込むことから,P'−1層に覆われ,Q'層を覆うと考えられる.

Q'有機質シルト層

全体に不均質である.所々に礫径 5〜20mmの礫を混入している.また,炭化木片も混入しており,特に露頭壁面中央部付近では,巨木が5〜40mmの木片状になったものを多量に混入している.この木片を14C年代測定用試料として採取し,測定した結果,40,120±870Y.B.P.との結果を得た(表3−2−3).したがって,Q'層は約40,000年前以降に堆積したものと考えられる.暗灰色〜黄褐色を呈する.

断層の上盤側のみに分布する.分布の形態は複雑で,ほぼドーナツ形を示す.O'層同様,西に向かって凸な西傾斜の撓曲構造を,露頭壁面が高角で切り取っているためと考えられる.見かけ上はP'−2に取り囲まれ,R'層を内部に包み込むことから,P'−2層に覆われ,R'層を覆うと考えられる.

R'シルト混じり砂礫層

砂礫層.礫径5〜50mmの礫を混入する.最大礫径は100mmである.シルト分の含有率には変化があり,全体に不均質である.ほぼ鉛直方向に潜在亀裂があり,壁面整形の際には壁面が剥離した.褐色を呈する.

断層の上盤側のみに分布する.O'層同様,西に向かって凸な西傾斜の撓曲構造を,露頭壁面が高角で切り取っているため,窓状の分布を示すものと考えられる.見かけ上Q'層に取り囲まれていることから,Q'層に覆われていると考えられる.

なお,露頭の中央付近には,表層から深さ1.5m程度まで瓦片を含む崩積土の落ち込みがみられ,人工的に掘られた穴の痕跡と考えられる.

表3−2−2 断層露頭f17およびf17'とTO−2トレンチ調査壁面における地層対比表

また,断層露頭f17およびf17'の壁面から14C年代測定試料を採取し,年代測定を実施した.結果を表3−2−3に示す.また,壁面の1/20スケッチは付図として添付した.

表3−2−3 断層露頭f17の14C年代測定結果

f17露頭では,弯曲している露頭の右肩(西側上部)から中央にかけては,左下(中央下部)に傾き下がる断層が,露頭の中央から左側(北側)にかけてはほぼ水平な断層が確認できた.露頭の右側(東西走向の北向き壁面)では,N'層以降J'層までが断層によって切られていた.断層面の走向傾斜は,N18゜W,48゜Eと測定された.露頭の中央部から左側(南北走向の西向き壁面)では,断層はほぼ水平となり,N'層とO'層の境界と一致している.これは,露頭面の走向が断層の走向とほぼ一致しているためと考えられる.露頭の弯曲を考慮すると,この断層は東へ傾斜した,東側隆起の逆断層と推定される.

露頭壁面に出現した地層の年代を推定するために,壁面から採取した試料の火山灰分析を行った結果,L層が大山倉吉軽石層(DKP:約5万年前)と同定された.L層であるDKPの下面を基準とすると鉛直変位量は200cm程度と見積もられる.

地層の変形の程度や,断層を挟む分布状況からみると,L層(DKP)の層厚は,断層を挟んで大きな差が認められる.このことから上盤側のL層のみが浸食されるような状況があったと推定され,K'層堆積以前,L層堆積中もしくは堆積後,断層活動があったと推定される.

また,N'層より上位の地層は断層を挟んで両側に分布しているが,O'層以下の層は断層の上盤側のみ分布しており,西にやや凸な急傾斜の撓曲構造をなしている.O'層以下の地層の変形は,N'層より上位の地層のそれと比べて有意に大きいことから,O'層とN'層の間に断層活動があった可能性がある.

17露頭から南へ廻り込んだf17’露頭(南北走向の西向き壁面)においても,ほぼ水平な断層が確認できた.これは,露頭の方向が断層の走向とほぼ一致しているためと考えられる.f17’露頭では,TO−2トレンチでATと同定された9層を含む,L層(DKP)以降F'層までが断層によって切られていた.H層の鉛直変位量は110cm以上である.

f17露頭では,DKPより上位の地層が下盤側には欠如しているため,雨滝−釜戸断層の最新活動時期を絞り込むことができなかった.そのため,f17露頭の近傍でトレンチ調査を行うことにより,最新活動時期がしぼり込める可能性が高いと判断された.

なお,露頭でみられる断層の性状,活動履歴に関する検討は,次の項目であるトレンチ調査のTO−2トレンチの調査結果と合わせて行う.