(1)断層露頭f16

平成9年度の調査で発見された断層露頭であるf16露頭は,郷路川上流部の左岸に形成された露頭で,露頭直下は水流となっている.露頭を整形し,詳細な観察を行った(図3−2−2写真3−2−1−1写真3−2−1−2).

f16露頭では,下部に凝灰岩が,上部に段丘堆積物および崖錐堆積物が認められた.

凝灰岩は,露頭の左半分(北側)の幅約2.2mにわたって著しく破砕されている.層相の変化が著しく,粘土化している部分や破砕の程度の低いものなどが混在しているが,全体として破砕帯を形成している.露頭の左端(北端)には破砕されていない凝灰岩の新鮮な硬岩が露出している.破砕帯の右側(南側)は,川の水面ぎりぎりの位置に,やや風化した凝灰岩が露出している.

凝灰岩は,露頭の中央付近の破砕帯の右端(南端)を境として,右側(南側)が大きく落ち込み,全体として南西落ちの逆断層となっているのが判明した.断層を挟んで,凝灰岩の上面の比高は75cmに及んでいる.破砕帯中みられる粘土や線状構造の走向傾斜は,N50゜E, 60゜N,N20゜W, 62゜N,N35゜E, 70゜Nで,走向はかなりばらつくが,いずれも高角度の北傾斜を示す.破砕帯の右端(南端)の境界をなす断層は,露頭で観察する限り断層面が不明瞭で,走向傾斜を計測できなかった.

露頭右側(南側)の落ち込んだ凝灰岩を不整合に覆って段丘堆積物1が分布するが,露頭左側(北側)の凝灰岩上には分布していない.また,露頭右側(南側)の段丘堆積物1と露頭左側(北側)の凝灰岩の破砕帯を覆って露頭の中部全体に段丘堆積物2が分布する.さらに,段丘堆積物2を覆って露頭上部全体に崖錐堆積物が分布する.

以下に露頭f16で観察される被覆層の各層について,上位の層より順に記載する.

<被覆層>

@崖錐堆積物

崖錐堆積物は,礫径50mm以下の亜円礫を含む砂礫層で,礫の混入率は15〜20%程度である.マトリックスは中砂を主体としている.ほぼ水平な堆積構造を示す.現世の木根,草根が多く入り込んでいる.崖錐堆積物の底面は,ほぼ水平で,段丘堆積物2を覆っている.

A段丘堆積物2

段丘堆積物2は,最大径が800mmに及ぶ礫を含む淘汰の悪い礫層で,礫は亜円礫〜亜角礫で,礫径は50〜200mmである.礫の混入率が段丘堆積物1に比べると多く,40〜50%程度である.マトリックスはシルト分を含有した中砂〜粗砂が主体である.現世の木根,草根が多く入り込んでいる.段丘堆積物2中に含まれる扁平な礫は,長軸がほぼ水平に堆積しているものが多く,礫の弱い配列が認められる.段丘堆積物2の底面は,多少の凹凸がみられるものの,露頭中央部の破砕帯上で最も高く,右側の段丘堆積物1上ではわずかに低くなっている.

B段丘堆積物1

段丘堆積物1は,最大径が600mmに及ぶ礫を含む淘汰の悪い礫層であるが,後述する段丘堆積物2に比べると全般に礫径が小さく,礫の混入率も平均的には20%程度である.礫は亜円礫〜亜角礫で,礫径は20〜200mmである.マトリックスはシルト分を多く含有した中砂が主体である.現世の木根,草根が多く入り込んでいる.露頭右側上部(南側上部)にはシルトと砂の薄層を挟在しており,この砂層から14C年代測定用試料を採取し,測定した結果,6,460±40y.B.P.との結果を得た(表3−2−1).したがって,この段丘堆積物1は約6,500年前以降に変位を受けたと考えられる.

表3−2−1 断層露頭f16の14C年代測定結果

露頭左端(北端)の断層破砕帯の近傍の礫は,礫径が100〜200mm程度の亜角礫が多く,礫の長軸の方向がばらついている.破砕帯の右端を区切る断層が,上位の段丘堆積物2に変位を与えているか否かを明瞭にするために,段丘堆積物1の破砕帯近傍の礫と,段丘堆積物2の破砕帯右端(南端)上部の礫の回転について調査した.礫の長軸の方向を測定し,その法線方向をステレオネット(Schmidt net)で処理した結果を図3−2−3−1図3−2−3−2に示す.

図3−2−3−1 段丘堆積物2(上位の砂礫層)に含まれる礫の長軸方向Schmidt net

図3−2−3−2 段丘堆積物1(下位の砂礫層)に含まれる礫の長軸方向Schmidt net

下位の段丘堆積物1の破砕帯近傍の礫の長軸の方向はかなりばらついており,N42゜E〜N4゜W(法線でN48゜W〜N94゜W), 18゜〜35゜EとN12゜W〜N18゜E(法線でN78゜E〜N108゜E), 18゜〜35゜Wにやや集中する傾向がみられる.傾斜はやや低角度で傾斜方向は2方向に分かれる.いずれも破砕帯中の構造の走向と傾斜とは異なる.礫の長軸方向の測定個数が少ないためにばらつきが大きく,断層の影響による明確な傾向は得られなかったが,断層近傍の礫は断層活動により何らかの影響を受けている可能性が考えられる.

上位の段丘堆積物2の礫の長軸の方向は,N35゜E〜N65゜E(N25゜W〜N65゜W)間に集中する傾向がみられる.傾斜は0゜〜10゜以内のものが多く,最大でも35゜である.現河川の郷路川の方向がN64゜Eで,礫の長軸方向とほぼ一致していること,礫の傾斜が小さく水平に近いことから,imbricationのような堆積構造を示している可能性が高い.したがって,上位の段丘堆積物2の礫は堆積構造を保持していることから,断層による変位を受けていないと考えられる.

断層露頭f16における鉛直変位量は,上位の段丘堆積物2が破砕帯および段丘堆積物1を不整合で覆っていることから,少なくとも破砕帯の落差である75cm以上と考えられる.

断層露頭f16における破砕帯右端(南端)の断層の活動時期は,この断層に切られている段丘堆積物1の上部のシルト層の14C年代が約6,500年前であることから,6,500年前以降と考えられる.