(2)分析結果

花粉分析の結果を表6−3−2に示す。解析を行うために計数の結果にもとづいて、花粉化石群集図を作成した(図6−3)。出現率は、木本花粉(Arboreal pollen)は木本花粉の合計個体数、草本花粉(Nonarboreal pollen)とシダ植物胞子(Pteridophyta spores)は花粉・胞子の合計個体数をそれぞれ基数とした百分率である。

以下に各試料ごとに記述する。

表6−3−1 青梅市藤橋地区試料の微化石分析試料一覧

(1)トレンチB

・F1試料

木本花粉ではアカガシ亜属,コナラ亜属,スギ属が多産,ブナ属,クマシデ属−アサダ属,モミ属等を伴う。草本花粉ではイネ科とカヤツリグサ科が多産する。

カシ類からなる照葉樹林が発達し、ナラ類・シデ類などの落葉広葉樹を混交し、スギなどの温帯針葉樹も分布していたと考えられる。暖温帯の温暖な気候が推定される。

多摩丘陵中南部(鶴川第二地区遺跡調査会 1988)では約2200年前以降ナラ類・シデ類などの落葉広葉樹に常緑広葉樹のカシ類等からなる森林が成立しており、スギが漸増する。マツ属複維管束亜属(いわゆるアカマツなどのニヨウマツ類)の増加は約440年前以降である。八王子市石川天野遺跡(八王子市石川天野遺跡調査会 1984)においても酷似した花粉化石群集の変遷がみられる。

これにより本試料の年代は約2200年前から440年前の間と推定される。

・F2試料

本試料はF1試料とよく似た花粉化石群集で、これと較べてスギ属がやや少なく、モミ属が多い。

カシ類からなる照葉樹林が発達し、ナラ類・シデ類などの落葉広葉樹を混交し、スギ・モミなどの温帯針葉樹も分布していたと考えられる。

本試料の年代は約2200〜440年前と推定されるが、スギ属が少ないことからF1試料によりは古いと推定される。

・F3試料

木本花粉では、トウヒ属,ツガ属,マツ属単維管束亜属(いわゆるゴヨウマツ類)などの針葉樹,ハンノキ属,コナラ亜属などの落葉広葉樹からなる。F1およびF2試料において産出したアカガシ亜属は全く産出しない。

トウヒ属,ツガ属,マツ属単維管束亜属などからなる亜寒帯(亜高山帯)針葉樹林が発達し、林内にはナラ類などの落葉広葉樹も生育していたと推定される。古気候は寒冷な亜寒帯と考えられる。

このような寒冷な気候を示す花粉群集から、寒冷期の堆積物と考えられるので、約2万年前を中心とした最終氷期最寒冷期の堆積物と推定される。

・F4およびF5試料

両試料は花粉化石の産出が非常に少ないので、古植生・気候および時代について解析することが困難である。

(2)ボーリング(97−4孔,97−5孔,97−6孔,97−7孔)

・F−4−1,2,3試料(97−4孔)

これらの3試料は、木本花粉ではアカガシ亜属,コナラ亜属が多産,ブナ属,クマシデ属−アサダ属,モミ属,スギ属等を伴う。草本花粉ではイネ科とカヤツリグサ科が多産する。

カシ類からなる照葉樹林が発達し、ナラ類・シデ類などの落葉広葉樹を混交し、スギ・モミなどの温帯針葉樹も分布していたと考えられる。暖温帯の温暖な気候が推定される。

花粉化石群集は、F2試料と酷似していることから、これと同様に本試料の年代は約2200〜440年前と推定される。

・F−5−1試料(97−5孔)

コナラ亜属が卓越し、ハンノキ属を伴う。その他に、ニレ属−ケヤキ属,クマシデ属−アサダ属などを僅かに産出する。何れも落葉広葉樹である。

ナラ類の卓越した温帯落葉広葉樹林が発達していたと推定される。

コナラ亜属が卓越する花粉化石群集は、晩氷期から完新世の初期にかけてみられるので、約1万年前を前後する時期の堆積物と推定される。

・F−5−2試料(97−5孔)

本試料は花粉化石の産出が非常に少ないので、古植生・気候および時代について解析することが困難である。

・F−6−1試料(97−6孔)

木本花粉の花粉化石群集はコナラ亜属が卓越し、エノキ属−ムクノキ属,ブナ属,クマシデ属−アサダ属等を伴う。また、僅かながらアカガシ亜属を産出する。

ナラ類を主体にして、エノキ属−ムクノキ属,ブナ属などからなる暖温帯落葉広葉樹林が発達していたと推定され、照葉樹も僅かに分布していたといえよう。暖温帯の気候が推定される。

このような花粉化石群集は、F−5−1試料の温帯落葉広葉樹林からF2試料の暖温帯照葉樹林への移行期のそれであり、時代的にもその間にはいると考えられる。

・F−6−2試料(97−6孔)

木本花粉の花粉化石群集はコナラ亜属とクリ属が優占し、エノキ属−ムクノキ属,ブナ属,クマシデ属−アサダ属等を伴う。また、僅かながらアカガシ亜属を産出する。

ナラ類を主体にして、エノキ属−ムクノキ属,ブナ属などからなる暖温帯落葉広葉樹林が発達していたと推定され、照葉樹も僅かに分布していたといえよう。クリ属の多産は虫媒花であることから、近隣にクリが分布していたものと考えられる。暖温帯の気候が推定される。

このような花粉化石群集は、F−6−1試料と同様にF−5−1試料の温帯落葉広葉樹林からF2試料の暖温帯照葉樹林への移行期のそれであり、時代的にもその間にはいると考えられる。

・F−7−1,2試料(97−7孔)

産出する化石の中には、トウヒ属やマツ属単維管束亜属などの寒冷要素がみられるので、寒冷期の堆積物の可能性が考えられる。しかし、両試料ともに花粉化石の産出か非常に少ない。古植生・気候および時代について十分な解析を行えない。

<参考文献>

鶴川第二地区遺跡調査会(1988):「東京都町田市 真光寺・広袴遺跡群U 入生田南遺跡・山新久遺跡・入生田遺跡調査報告」.

図6−3 青梅市藤橋地区試料の花粉化石群集

図6−3−2 青梅市藤橋地区試料の花粉分析結果