(1)芝川町大久保地区

芝川町大久保地区では、芝川断層の活動履歴を把握するため、地形地質調査の他に、比抵抗映像法探査100m、ボーリング調査2孔(OK−1、OK−2)およびトレンチ調査(小規模)を実施した。以下にその結果を示す。

(1)地形・地質調査結果

図3−2−1に調査地付近の地表踏査結果図を、図3−2−2に調査地付近の平面図を示す。

芝川流域には新富士火山噴出物の芝川溶岩(SW1)が流下し、谷を埋没している。大久保付近ではその溶岩を浸食して、段丘堆積物が堆積しており、これらをロ−ム層が覆っている。

調査地は、芝川溶岩と段丘堆積物からなる地形面が、上流側と比較すると約5m低くなっており、空中写真判読から断層による変位地形であると判断した。

地表踏査の結果で、調査地の南側の道路沿いの斜面の露頭で、溶岩の分布高度に差があることが確認できたが、しかし、断層露頭は確認できなかった。

(2) 比抵抗映像法探査結果

地形・地質調査結果から推定した断層位置の地下地質の概略を把握することを目的として推定断層位置を中心に測線長100mで実施した。測線位置は図3−2−2に示す。

図3−2−3に比抵抗映像法探査結果図を示す。

調査地付近に、分布する地質は砂礫と溶岩であるため、全体に2,000Ω−m以上の高比抵抗値を示す。

付近の地質状況からこの高比抵抗値を示す部分は溶岩に対応すると考えられるため、測線の35m付近で溶岩上面に約15mの比高差が認められると判断された。

図3−2−1 大久保地区付近の地表踏査結果図(縮尺1/2,500)

図3−2−2 大久保地区の平面図(縮尺1/500)

(3)ボーリング調査結果

ボーリング調査は、断層付近の地質状況を直接確認するためにOK−1(L=24m)とOK−2(L=21m)の2孔で実施した。調査位置を図3−2−2に示す。

図3−2−4−1図3−2−4−2にボーリング柱状図を示す。なお、ボーリング柱状図およびボーリングコア写真は、別冊資料集にとりまとめて添付した。

ボーリング調査で確認された地質は、上部よりローム層、段丘堆積物の砂礫、芝川溶岩および旧河床堆積物である。

図3−2−3に示すように、推定したように高比抵抗部は溶岩の位置とほぼ一致している。

図3−2−5に調査地の推定地質断面図を示す。

ボーリング調査で確認された溶岩の基底に約6.5mの高度差が認められた。断面図に示した溶岩位置は比抵抗断面図から推定した。

(4)トレンチ調査結果

トレンチ調査は、長さ約12m×幅約5m×深さ約3mの規模で掘削した。図3−2−6−1にトレンチ展開図を、図3−2−6−2図3−2−6−3図3−2−6−4のトレンチスケッチ図を示す。なお、スケッチ図は付図としてとりまとめ、写真とともに別冊資料集に添付した。

トレンチ内に分布する地質は段丘堆積物およびローム層であり、崖付近で両者が接している。

断層によるせん断面は認められないが、ローム層が崖付近で急傾斜しており、その変形したローム層を砂礫の崩積土が押しつぶしたような形態を示すことから、この地質構造は断層運動により生じたものと判断できる。

段丘堆積物は、径1〜15cm程度の亜円礫を主体とする暗灰色砂礫であり、上部はやや風化して暗黄灰色を呈する。

ローム層は、下位よりローム混り砂礫、砂質ローム、黒ボク土、砂混りロームおよび、黒ボク土からなる。

このうち断層活動による変形をうけている地層は、下位の黒ボク土までであり、その上位を崩積土が覆っている。さらにその上位に砂混りロームと黒ボク土が分布している。 図3−2−4−1 大久保地区ボーリング柱状図(OK−1)

図3−2−4−2 大久保地区ボーリング柱状図(OK−2)

図3−2−5 大久保地区推定地質断面図(縮尺1/500)

図3−2−6−1 大久保地区トレンチ展開図(縮尺1/100)

芝川町大久保に認められる断層崖でトレンチを実施した。

断層面は認められなかったが、崖を境に暗灰色の砂礫層とローム層が接しており、崖に沿ってローム層の変形と崩積土が認められた。

図3−2−6−2 大久保地区トレンチスケッチ図(北壁)

図3−2−6−3 大久保地区トレンチスケッチ図(西壁)

図3−2−6−4 大久保地区トレンチスケッチ図(南壁)

したがって、トレンチ内に認められる断層の活動時期は下位の黒ボク土堆積以後、砂混りローム堆積以前の1回である。ただし、上位の黒ボク土堆積以後の活動については不明である。

また、変位量は、トレンチ内で確実に連続する地層が確認できないため不明であるが、段丘堆積物の砂礫の上部に認められる巨礫の並びから垂直変位量は約6mと推定される。

(5)試料分析結果

トレンチ調査から推定された芝川断層の活動時期を特定するため、図3−2−6−2に示した位置から試料を採取し、火山灰同定(4試料)と地質年代測定(2試料)を実施した。データシートは全て別冊資料集に添付した。

火山灰同定では、赤褐色のスコリアが点在するものの、指標となるテフラとは同定できなかった。

地質年代測定では、下位の黒ボク土は約7,500年前、上位の黒ボク土は約4,800〜3,300年前の年代が得られた。したがって、下位の黒ボク土は富士黒土層に対比される。

(6)まとめ

大久保地区で確認された芝川断層の活動履歴は、以下のとおりである。

@断層の活動時期

大久保地区で確認された断層の活動時期は1回であり、断層の活動時に生じた崩積土が、富士黒土層を覆い、上位の黒ボク土に覆われることから、断層の活動時期は約4,800〜7,500年前となる。

A変位量

変位量は、トレンチ内に連続する地層が認められないため、確実なものは求められないが、トレンチ南壁で径30〜70cmの巨礫がほぼ段丘堆積物上面に連続して認められ、この巨礫の比高差から断層活動による変位量は約5mと推測される。

B平均変位速度

段丘堆積物の上面に約10mの比高差が認められることから、段丘堆積物の堆積年代を約1万年とすると、平均変位速度は約10m/1万年=約1.0m/103年となる。