(2)地形・リニアメント調査結果

地形面解析は、国土地理院発行の縮尺1/25,000「蒲原」「富士宮」を用いて行ったが、必要に応じて各自治体発行の縮尺1/10,000地形図を使用した。

空中写真判読は、静岡県撮影の縮尺1/10,000を用いたが、人工改変等の影響が大きかったため、原則として昭和27〜28年の米軍撮影のものを使用した。

 リニアメントの判読に際し、国土地理院(1996)「空中写真による活断層の判読法」を参考に実施し、表3−1−2のように区分した。

表3−1−2 リニアメント区分表

判読したリニアメントの分布図を図3−1−1に、接峰面図を図3−1−2に示す。またリニアメントの性状一覧表を表3−1−3に示す。

図3−1−1 調査地域のリニアメント分布図(縮尺1/50,000)

図3−1−2 調査地域の接峰面図(縮尺1/50,000)

表3−1−3 リニアメント性状一覧表

表3−1−3に示すように、変位地形の可能性のあるリニアメントは、入山断層、芝川断層、中山断層、善福寺断層と安居山断層南方延長部の5つで、いずれもN−S系または、NE−SW系のリニアメントである。また、文献に示されたE−W系、NW−SE系の断層は山地高度の差が認められないことや新しい時代の地形面に低崖等が全く認められないことから活断層の可能性のあるリニアメントとは判読できなかった。

判読した5条のリニアメントの状況をまとめ、以下に示す。

@入山断層

入山断層は、芝川町古田〜由比町北田の間の約10.8kmのリニアメントとして認められる。

変位地形が明瞭な区間は由比町福沢〜阿僧の間で、リニアメントは連続する急崖と由比川沿いに発達する段丘面中に認められる低崖からなる。

この段丘面は河岸段丘と考えられるが、後述するように現河川勾配と段丘面の勾配の比較から低位段丘面と判断される。

この段丘面中に認められる低崖に累積的な変位が認められることから、ランクAに区分した。

その他の区間も直線谷または傾斜変換線等が明瞭であるため、山地高度の差が明瞭な区間をランクB、不明瞭な区間をランクCに区分した。

図3−1−3に入山断層南部の接峰面図を、図3−1−4に入山断層南部の水系図を示す。入山断層南部では、由比川の西側で南北方向に明瞭に連続する急崖が認められ、リニアメントは連続性のよい急崖からなるという特徴をもつ。

図3−1−3に示すように入山断層の両側では、丘陵上の地形が標高80m〜200m間に認められる。

その丘陵地と山地が接する傾斜変換線は、断層より東側では150m、西側では約200〜300mで、断層の西側と東側では約50m〜150mの比高差がある。このことから丘陵地の侵食平坦面形成後に西側が隆起したことが推定される。

一方、水平方向については、上記の傾斜変換線は由比川の下流で海岸線と平行となり旧海食崖状を呈すが、その位置に南北方向の差はほとんど認められない。また、図3−1−4の水系図でも入山断層沿いに水系の屈曲は認められず、入山断層の水平方向の変位は認められない。 図3−1−3 入山断層南部の接峰面図(縮尺1/10,000)

図3−1−4 入山断層南部の水系図(縮尺1/10,000)

A芝川断層

芝川断層は、調査地域内では芝川町大久保〜芝川町羽鮒(古田地区)間の約3.7kmのリニアメントとして認められる。北方延長は調査地域外なので図示していないが、芝川町上柚野付近まで連続し、長さは全長で約7kmと推定される。

調査地域内のリニアメントは段丘面または溶岩面中に認められ、低崖と比高差約20mの逆向き低崖からなる。リニアメントより下流側に段丘面が発達し、段丘面形成以降の下流側(南西側)の相対的隆起が想定されることからランクAと判定した。

図3−1−5に芝川断層付近の水系図を示す。

芝川断層沿いに明瞭な横ずれ地形は認められないが、芝川町羽鮒付近に左横ずれ屈曲する水系が1条認められる。屈曲量は約50mである。

図3−1−5 芝川断層南部の水系図(縮尺1/10,000)

B中山断層

中山断層は、富士川町中山から由比町舟場にかけての約3.5km間のリニアメントとして認められる。リニアメントは連続する急崖からなる。

リニアメントを挟んで山地高度の差は明瞭であるが、山地上に認められる小起伏面が同じ時代の地形面であるかどうか判断できないため、ランクをBとした。

C善福寺断層

善福寺断層は、蒲原町善福寺から蒲原海岸にかけての約2.1km間のリニアメントとして認められる。リニアメントは直線状の谷地形からなる。

リニアメント両側の丘陵地の高度に明瞭な差が認められないことから、ランクをCとした。

D安居山断層南方延長部

安居山断層は、富士川以北にその存在が認められるが、それより以南は不明瞭とされている。

ここでは富士川以南、富士川町大北〜由比町福沢間の約6.1km間に認められるリニアメントを、安居山断層南方延長部と考えた。

図3−1−6に安居山断層南方延長部の山地高度の比較図を示す。

山地高度は全区間にわたりほぼ約70mの差が認められる。したがって、表3−1−3に示すように安居山断層南方延長部については、直線状の谷地形が明瞭な区間をランクB、不明瞭な区間をCに区分した。

以下、各リニアメント付近の全景写真を示す。

図3−1−6 安居山断層南方延長部の山地高度比較図

写真1 入山断層全景(由比町阿僧から北方を望む)

写真2 由比町海岸付近全景(由比町東山寺より南西方を望む)

写真3 入山断層南部の急崖(由比町東山寺から西方を望む)

写真4 由比町室野付近の段丘地形(由比町東山寺より北西方を望む)

写真5 芝川断層全景(芝川町羽鮒から北方を望む)

写真6 芝川断層沿いに認められる逆向き低崖(芝川町羽鮒)

写真7 中山断層全景(富士川町中山地区より南方を望む)

写真8 善福寺断層全景