(2)試料分析

新しい時代の堆積物の堆積年代を求めるため、トレンチ壁面のほかに露頭やボーリングコアから採取した試料を用いて、火山灰同定(9試料)、微化石分析(5試料)および、地質年代測定(40試料)を実施した。なお、分析データシートまたは分析報告書は別冊資料集に添付した。

以下に各項目についてその方法の概要を示す。

(1)火山灰同定

1)前処理

まず半湿潤状態の生試料を適宜採取秤量し、50゚Cで15時間乾燥させる。乾燥重量 測定後、2リットルビーカー中で数回水替えしながら水洗し、そののち超音波洗浄を行う。この際、中性のヘキサメタリン酸ナトリウムの溶液を液濃度1〜2%程度となるよう適宜加え、懸濁がなくまるまで洗浄水の交換を繰り返す。乾燥後、選別時の汚染を防ぐため使い捨てのフルイ用メッシュ・クロスを用い、3段階の選別(60,120,250mesh)を行い、各段階の秤量をする。こうして得られた120〜250mesh(1/8〜1/16mm)粒径試料を比重分別処理等を加えることなく、封入剤(Nd=1.54)を用いて岩石用薄片を作成した。

2)全鉱物組成分析

前述の封入薄片を用い、火山ガラス・軽鉱物・重鉱物・岩片・その他の5項目について1薄片の各粒子を無作為に200個まで計数し含有粒子数の量百分率を測定した。

3)火山ガラスの屈折率測定

前処理により調整された120〜250mesh(1/8〜1/16mm)粒径試料を対象に、温度変化型屈折率測定装置(RIMS)を用い火山ガラスの屈折率を測定した。測定に際しては、精度を高めるため原則として1試料あたり30個の火山ガラス片を測定するが、火山ガラス含有の低い試料ではそれ以上の個数となる場合もある。

(2)微化石分析

1)試料の調整

基質の種類にもよるが、乾燥重量1−2gがめやすとなる。砂質のものは適宜分量を増やす。定量分析を行う時は、乾燥重量(g)あるいは容積(ml)をあらかじめ測定する。

2)処理

最も簡便なKOH法、広く利用されるアセトリシス法、重液を用いる比重選別法、無期物質を溶解するHF法、その他がある。

ここでは一般的な方法の概略を述べる。

・KOH法 

   @試料を遠沈管にとり、10%KOH法を加え、ガラス棒で攪拌する。

   A沸騰している湯煎器中で15−20分加熱する。

   B遠沈して上澄液をすて、残渣に水を加え攪拌し、遠沈洗浄を数回繰り返す。

・HF法 

普通、KOH法やアセトリシス法と併用する。残渣をプラスチック製遠沈管に移し、25−50%HFを加え、沸騰中に湯煎器内でシリカ質が  溶解するまで反応させる。遠沈洗浄中は、フッ化水素酸(HF)は有毒ガスを出すので、ドラフト内でゴム手袋をつけて操作する。

3)封入

グリセリンまたはグリセリンゼリーで封入する。定量分析の場合は一定体積に調整し、マイクロピペットを用いて一定量を封入する。絶対花粉数の測定方法には体積法のほかに重量法、標識混入法がある。

4)検鏡

普通400−600倍の倍率で行うが、必要に応じ油浸レンズを用いる。1試料につき最低1枚のプレパラート全面を検鏡する。

5)統計処理

分析結果の表示は樹木花粉数を基本数として、各植物群の出現を百分率で示す。

(3)地質年代測定

地質年代測定は、14C法を用いて実施した。以下にその測定原理及び方法について示す。

@測定原理

壊変定数を用いた年代測定では、指標核種(14C)の初期量(CO),壊変量(CO−Ct),現在量(Ct)のうち2つの量を測定し、壊変定数(λ)を用いて年代(A)を算出する。一般に初期量の一部は壊変して減少しているから、実際の測定は、壊変量(CO−Ct)と現在量(Ct)について行うことになる。

年代を算出する一般的な式は、

A=−(1/λ)*ln( Ct/(CO−Ct))+Ct=( 1/λ)*ln(CO/Ct)

で示される。

壊変定数(λ)と、半減期(T1/2)の関係は、CtがCOの1/2になるときの年代(A)がT1/2であるから,T1/2・λ=ln2=0.6931である。

[指標核種] 放射性炭素(14C), [壊変定数] λ=1.22×10−3/年

[壊変生成核種] (窒素)     [半減期]  T1/2=5568年

[測定可能年代範囲] 0〜3×104年(GPC),(閉鎖系、減衰法、破壊法)

   0〜6×104年(AMS)

[測定方法・機器] ガス比例計数管(GPC),加速器質量分析計(AMS)

[測定対象試料] 生物遺体

[測定される年代の意味] 生物体の死滅した時期

成層圏で窒素原子と中性子の原子核反応によって生じた反射性炭素は、炭酸ガスとして対流圏に入り、大部分は直接大洋に溶け込むが一部は光合成を通じて植物体内に入り、食物連鎖を通して広く生物圏に広がる。 生物体の生命活動が停止すると 新たな放射性炭素の補給は行われず、放射性炭素は5,730年の半減期で減衰していく(初期の測定値と整合性を保つため、5,568年が用いられている)。

試料をメチレンなどの気体にしてガス比例計数管(GPC)で測定する。β線計数法では、測定時間内に新たに壊変した放射性炭素の量から放射性炭素の残存量を推定する。

A測定方法

測定する前に試料の前処理および調整を行う。

前処理は、不純物の量により、酸やアルカリを用いて洗浄を行ったあと、ガス比例計数管(GPC)では炭素をベンゼンに、加速器質量分析計の場合は炭素を石墨に調整する。

測定値は、現在(AD1950年)から何年前(y.B.P.)かを算出した年代を示すが、炭素の安定同位体比(13C/12C)を測定して測定値を補正する。

さらに今回測定をおこなった米国ペンシルベニア大学では、年代既知の樹木年輪の14Cの値から補正曲線を作成し、暦年代を求めている。