(1)浅層反射法探査

(1)目的

浅層反射法探査では、地表で人工的に地震波を発生させ、地下の地層境界で反射して地表に戻ってくる反射波をとらえることにより、地下の地質状況を探査する方法である。地表での探査により、地下の地質構造の視覚的なイメージを得ることができる。今回の浅層反射法探査においては、測線下の深度数百m程度までの地質構造イメージを詳細に得ることを目的とする。

(2)探査の概要

本調査では、以下の2個所で浅層反射法探査を実施した。

・由比測線…庵原郡由比町由比地区、主要県道富士由比線、測線長:1.0km  

・蒲原測線…庵原郡蒲原町蒲原海岸、測線長:1.0km

次に、探査の仕様を示す。 

震源の種類と垂直重合数(各発震点でのショット数)以外は両測線共通である。由比測線では発震装置として重錘落下型震源装置を用いた。この震源は、約400kgの重錘を油圧装置を用いて約1〜3mつり上げた後に、これを地面上に落下させることによって、地震波を発生させるものである。

蒲原測線では震源としてダイナマイトを用いた。この震源は、地表下約1mの地点に500gのダイナマイトを装填し爆発させた。受振器としては固有周波数10Hz、12連のジオフォンストリングスを用いた。またデータ収録装置としてはOYO Geospace社製のDAS−1を用いた。DAS−1は、シグマデルタ方式のA/D変換器を搭載した地震探査装置で、24ビットという高い分解能を有する。本探査の観測に使用した機器の一覧を表2−3−1に示した。

表2−3−1 浅層反射法探査使用機器一覧

<浅層反射法探査仕様>

@震源…重錘落下(由比測線)及びダイナマイト(蒲原測線)

A波種…P波

B発震点間隔…10m

C総受振点…204点(1,000m)

D展開方式…インラインエンドオンオフセット展開(ただし一部で受振点固定展開)

E最小オフセット距離…10m

F最大オフセット距離…485m

G受振点間隔…5m

H受振器数/グループ…12個

I受振器間隔…1m

J記録長…1,600msec

Kサンプリング間隔…1msec

L同時受振チャンネル数…96

M垂直重合数…8回(由比測線)及び1回(蒲原測線)

(3)測定作業

浅層反射法探査の観測に先立って測量を実施した。

測量では測線を設定し、受振点間隔が5mとなるように受振点位置の測量を行い、杭の敷設またはマーキングを行う。これら受振点のうち奇数番(10m単位)の点を発震点とした。別冊に測量結果を添付する。

反射法探査の観測では、以下に述べる受振器・ケーブルの設置作業、発震作業、データ収録作業を全測線にわたって繰り返し行った。図2−3−1に浅層反射法探査の観測作業の概要を示す。また巻末に観測状況の写真を添付する。

1)受振器・ケーブルの設置

図2−3−1に示すように、測量で設定した各受振点に受振器(ジオフォストリングス、12連)を設置する。本探査の観測では、各ジオフォンの間隔を1m、アレイ長を11mとした。次に受振器とデータ収録器を専用ケーブル(CDPケーブル)で接続する。また発震時刻を知らせるために、震源からトリガーケーブルをデータ収録器に接続する。

2)発震作業

<由比測線>

重錘の落下点が測量で設定した発震点位置となるように起振車を移動し、重錘を高さ1〜3mまで引き上げる。落下点には、舗装面の保護のためウレタンマットを敷きその横には地震計の落下を感知するトリガーセンサーを設置する。本部の合図を受け、重錘を落下させる。

<蒲原測線>

各発震点の地表下約1mの地点にダイナマイトを装填した。薬量は1地点につき5本(500g)とした。雷管をダイナマイトに埋め込み、発破母線をブラスターにつなぎ、本部からはトリガーコードを伸ばしブラスターにつなぐ。本部の合図を受け、発破する。

図2−3−1 浅層反射法探査の観測作業概要

3)データ収録

<由比測線>

観測本部では、発震点位置に応じて受振する96点の受振器を選択し、設定を行う。発震点の準備ができたら、受振点におけるノイズ状況をモニターする。そして、比較的ノイズの小さい時に発震点に連絡し、重錘を落下させる。重錘が落下すると、その横に置いたトリガーセンサーからの信号を受け、データ収録器が各受振器からのデータを収録する。観測者はそのデータを観察し、良好であると判断した場合、そのデータをハードディスクに保存する。

同様に同一発震点において、8回の記録を収録・保存した後、発震点を次の点に移動させる。このように同一発震点において収録した記録は、解析時にノイズを多く含んだトレースを削除した後に、スタック(垂直重合)した。

<蒲原測線>

由比測線の場合と同様、ノイズ状況のモニターを行い、比較的ノイズの小さい時に発震点に連絡し、ダイナマイトを発破する。雷管につないだ発破母線から、トリガーコードを介して信号を受け、データ収録器が各受振器からのデータを収録する。各発震点での垂直重合数は1回とし、発震点 を次の点に移動させる。

なお、本探査の観測では、観測地盤条件等を考慮して、由比測線では測線の終点側(測点1,000m側)から、蒲原測線では測線の始点側(測点0m側)から観測を始めた。原則として、発震点からの距離が最も近い受振点が10m、最も離れた受振点が485mとなる、インライン展開とした。また、測線の終端(由比測線では0m側、蒲原測線では1,000m側)では、受振器の移動は行わなず、受振器位置を固定のままで96チャンネルの観測を行った。

(4)解析処理方法

観測時で得られた記録中には、通過する車両や構造物の中の大きな機械より発する振動等のノイズや、電磁波によるノイズ、また屈折波や表面波といった発震に伴うノイズ(コヒーレントノイズ)等さまざまなノイズが含まれている。反射法の解析処理の主な目的は、これらのノイズを多く含んだデータから必要な反射波だけを抽出することである。

現場でハードディスクに収録した各発震毎のデジタル記録は、ワークステーション(SUN Ultra)に転送し、反射法探査解析システムProMAX(LandMark社製)を用いて処理を行った。図2−3−2に解析処理のフローチャートを示す。

以下に主要な処理の概要を述べる。

1)ジオメトリ編集

各観測波形データと、それが得られた震源位置、受振点位置などを関連づけるための処理である。

2)静補正

測線が起伏に富んでいたり、弾性波速度が非常に小さい表層の層厚変化があった場合、仮に地下深部の反射面が水平であっても、反射波の到達時間にばらつきが生じる。このような地表付近の不均質に起因する時間ずれを補正する処理が静補正である。

静補正にはいくつかの方法があるが、ここでは、屈折波の初動走時を読み取り、この走時より各発震点・受振点におけるDelay Timeを求め、このDelay Time(表層部の伝播時間)で補正を施す処理(Refraction Statics)を用いた。

3)バンドパスフィルター(band pass filter)         

周波数フィルターの一種。観測された記録には、表面波のような反射波以外の波やバックグラウンドノイズが含まれている。これらのいわゆるノイズと反射波の周波数帯域の違いに着目して、反射波の信号と異なる周波数を持つノイズを減少させる処理である。

図2−3−2 浅層反射法解析フローチャート

4)デコンボリューションフィルター(deconvolution filter)

観測された反射波形は、地層の音響インピーダンス変化にともなう反射係数列と地下を伝わる波の基本波形のコンボリューションであると考えられる。したがって、基本波形の逆特性を持つフィルターを設定し、これに観測波形を入力すると、地下の反射係数列を得ることができる。このような処理をデコンボリューションフィル ターと呼ぶ。この処理により、多重反射波が除去され(弱められ)、反射波はインパルスに近い(周波数が高く独立している)波に変換される。

5)AGC(Automtic Gain Control)            

観測された記録は、屈折波や表面波の振幅が大きく、反射波の振幅はこれらの波に比べて小さいのが普通である。このような振幅の小さい反射波を初動付近の波の振幅と同程度の大きさになるように強制的に増幅する処理をAGCと呼ぶ。

6)CDPソーティング(CDP Sorting)

観測に際しては、1回の発震で96の受振点の波形記録が得られ、1発震点毎の記録として収録される。以後の処理を行うためには、すべての記録がCDPギャザーごとに並んでいる方が扱いやすいため、発震点毎の記録をCDPギャザーごとに並び変える作業を行う。この並び変えを、CDPソーティングと呼ぶ。

<CDPギャザー>

図2−3−3中の(a)に示したような発震点受振点配置の観測データを並び替え、図2−3−3中の(b)に示すように反射点が共通な記録、すなわち発震点と受振点の中点が同じ位置となる記録を集める。このような記録群をCDPギャザーと呼ぶ 最終的には 微弱な反射波を強調させる目的でこの記録群内の記録を加算する。このような手法は、CDP重合法(CDPスタック)と呼ばれ、反射法探査の標準的な解析法として用いられている。

図2−3−3 CDPギャザーの概念

7)速度解析

速度解析は、CDPスタックを実行する際に必要な速度を知るために、CDPギャザー内の反射走時Ti(X)が、オフセット距離X(発震点と受振点の距離)、2−way time T(X=0での反射面までの往復走時)、CDPギャザー内での反射位相のみかけの平均速度Vstkによって次式のように表されることを利用し、VstkとTを決定する作業である。

   Ti(X)={(T,I)2 +(X/Vstk,I)2 }/2         

    ここに、 i :i番目の反射面を表す添字

         X :オフセット距離

         T :垂直(X=0での)往復走時

        Vstk:CDPギャザー内の反射位相のみかけの平均速度    

8)NMO補正、ミュート、CDPスタック

CDPスタックの目的は、CDPギャザー内の記録を加算(重合)し、CDP位置における地下情報を表す1個の波形記録を作成することである。CDPスタックに先立ち、CDPギャザー内の各オフセット距離の波形記録をオフセットがゼロの場合の記録に変換する必要がある。この処理を、NMO(Normal Moveout)補正と呼ぶ。

次にNMO補正によって波形が大きく歪んだ部分や初動付近のの屈折波等の不要な部分を消去する。この処理をミュートという。

最後に、CDPスタックして各オフセット距離の波形記録を重合する。CDPスタックを行うことによって、速度Vstkを持つ反射位相だけが重ね合わされ強調され、一方、多重反射波や表面波など、このVstkと異なる速度を持つ波の振幅は相対的に抑制される。重合後は、各CDP地点につき1本の波形記録となり、各々CDP点の記録として断面表示される(時間断面)。

9)マイグレーション

 CDPスタックにより得られる時間断面は、反射面が傾斜していたり、凹凸があった場合には見かけの構造しか示さない。このような時間断面を真の構造に近い断面に変換する処理をマイグレーションと呼ぶ。ここでは、周波数―空間領域で真の傾斜へ変換するF−Kマイグレーションを用いた。

10)深度変換

 ここまで述べたような処理を行って得られる時間断面において、その縦軸は時間を表している。縦軸を深度で表す深度断面を得るためには、速度解析で求めた速度値あるいは、VSP探査やボーリング資料から推定された速度値を用いて、時間を深度に変換する必要がある。この処理を深度変換という。