(2)丸山トレンチ

丸山トレンチは、関ヶ原町丸山の丸山閉塞丘と北野閉塞丘の西側で中田池の下流部に位置する。低位段丘T面は、地形地質踏査で推定されたF−1−2断層を覆って分布していると推定される。ただし、F−1−2断層トレンチは存在は確実と考えられるものの、断層露頭は発見されておらず、分布位置を推定する根拠は丸山・北野両閉塞丘の間をとおることのみである。したがって、丸山・北野両閉塞丘間の西側直近で低位段丘T面を南北方向に掘削する計画としたが、用地の都合上、トレンチ(丸山Aトレンチ)では、推定断層線上の全てを掘削することができなかった。場合によっては、掘削できなかった北側数メートルの範囲に断層線が位置する可能性もある。そこで、掘削不可能区間を補足するために、平面的には丸山Aトレンチの西北西部85mの位置の低位段丘U面上で丸山Bトレンチを実施した。

トレンチの壁面観察は、両トレンチとも西側法面,東側法面の2面で実施した。

1)丸山Aトレンチ

@トレンチ壁面の地質

丸山Aトレンチは、F−1−2断層線を対象に、雛壇状に水田として利用されている低位段丘T面で実施した。平面的には丸山閉塞丘と北野閉塞丘の境界部の西部直近の位置にあたる。

トレンチは断層線を横断する方向で長さ13.5m深さ最大5.0m掘削し、トレンチの底面には基盤岩(中・古生層泥岩)の破砕帯が全面に出現し、その上部には河川性の堆積物が分布している。堆積物は、表層の耕作土を含めると堆積環境の違い及び連続性の良い削り込みにより、上位の地層から大きく分けてT層〜Y層の6層に区分した。

A) T 層及び盛土

下位のU層及びX層を覆う黒灰色の粘土からなる現在の水田土壌とその床土及び水田を造成した際の黄褐色の盛土である。トレンチの南側半分では、φ50〜200mmの砂岩礫を多量に混入しており、東側法面のT層の基底部に凹凸が認められる。

B) U 層

下位のV層を不整合に覆う黄褐色の崖錐堆積物である。東西両法面の北側半分に分布し、南側ほど層厚が大きくなり、上面が平らなため、2m以上の層厚を持つ崖錐斜面を切土し、上位のT層を造成したものと判断できる。崖錐堆積物はやや締まった砂状を呈し、少量のφ10〜150mm大の砂岩角礫を混入する。トレンチの南側半分にはU層の分布が認められないこと,東側法面のT層の基底部に凹凸が認められることから、河川が存在していたものと考えられる。

C) V 層

下位のW層及びX層を不整合に覆い上位のU層に整合に覆われる黒褐色の黒ボク土である。V層の分布もU層同様東西両法面の北側半分に分布する。V層の上部半分は上位のU層(崖錐堆積物)により汚染を受けている。黒ボク土層にはφ5〜10mmの砂岩角礫を多量に、またφ100〜200mmの砂岩角礫を少量混入しており、礫の長径方向がV層と平行に配列している。

D) W 層

下位のX層を不整合で覆い、上位のV層に不整合に覆われる黄褐色の古い崖錐堆積物である。W層の分布もU層・V層同様東西両法面の北側半分にのみ分布する。W層は、シルト混じりの砂を主体に、φ2〜10mm大の砂岩円礫を多量に混入し、φ50〜200mmの砂岩角礫を僅かに混入する。

西側法面では下位のX層を削り込んでいるように見えることから、降雨時にのみ小規模な流水を伴う崖錐性の堆積物と判断できる。

E) X 層

下位のY層を不整合に覆い、上位のU層,V層に不整合に覆われる黄褐色〜黒褐色の砂礫層である。砂礫層は、φ50〜200mm(最大φ350mm)の砂岩,チャート亜円礫、及び、φ5〜30mmの砂岩円礫を多量に混入し、マトリックスはよく締まった中〜粗砂からなる砂礫層である。細礫の配列により平行ラミナや斜行ラミナが認められ、水流のある河成性堆積物であると判断できる。

西側法面では、チャネル構造によりX−1〜X−5の5層に区分できるが、東側法面では5層の区分及び区分された層の対比が困難である。唯一対比可能なX−4層の分布から、トレンチの西側法面付近に水流の中心があったものと推定できる。

X層の基底面付近にはマンガンの沈殿(析出)が認められる。

F) Y 層

下位の中・古生層(美濃帯)を不整合に覆い、上位のX層に不整合に覆われる褐灰〜灰褐色の砂礫層である。東側法面には基盤を覆って広く分布するが、西側法面では上位のX層の削り込みにより北側半分に分布が限られる。

Y層の上面付近には連続性の良い青灰色の砂層が分布し、砂層中にはラミナが明瞭に認められ、木片や炭化した植物片を多量に含んでいる。砂層は含水比が高く、やや締まっている。

砂層の下方の砂礫層は、φ200mm以下の砂岩,チャートの亜円〜円礫を主体とし、同種の亜角礫を少量混入した中〜粗砂からなる。砂礫層中の礫の配列により堆積構造が確認できる。

Y層もX層同様、水流のある河成堆積物であると判断できる。

G) 中・古生層(美濃帯泥岩)

中・古生層はトレンチの底盤に全面露出する。露出する中・古生層は、全面が破砕帯であり、黄褐色〜暗灰色の断層ガウジや破砕された岩盤が認められる。断層ガウジの周辺には緑色岩のブロックが認められる箇所がある。

A 考察

a) 堆積物の層序区分

全ての地層からは14C年代試料を採取できなかったため各層の対比や統廃合は行えなかった。

地層の14C年代値は、V層,Y層から、それぞれ黒ボク土1試料、木片2試料を採取し年代を測定した。黒ボク土は10000yBPを予想した。年代測定の結果、全ての試料の年代値が得られ、結果に矛盾はなかった。

したがって、トレンチ壁面の地質観察により区分をそのまま採用し、T層〜Y層の6層とした。

B) 断層の有無

トレンチ底面全面に認められる基盤岩は、全面に破砕が認められ、連続性がある厚さ10〜40cm程度の断層ガウジが2条存在する。その内1条は走向N66Wであり断層線の伸長方向と良く一致する。また、もう1条は、N50Wであり丸山閉塞丘の南端方向へ伸びる。しかし、傾斜方向は東西両法面で異なる様にバラツキが大きい。

破砕帯の存在から、丸山閉塞丘と北野閉塞丘の間の鞍部は、F−1−2断層により形成されたものと考えられる。ただし、この鞍部が断層の活動により形成されたものなのか,また、破砕帯が侵食されてできたものなのか,は積極的な根拠がないため、不明である。

断層ガウジの上部に分布する堆積物基底面の変位や堆積物中の断層は認められない。

したがってこの地点では、Y層の堆積以降には基盤岩中の断層は活動していない。Y層の堆積年代は14C年代測定により16,000〜17,000yBPである。

ただし、用地上、谷部をすべて覆う形では掘削できず、掘削できなかった北側数メートルの間に断層線が位置する可能性もある。

C) 地層の変形の有無

地層の変形は認められず、全て堆積構造で説明できる。

D) 堆積環境の変化等

河成堆積物と判断したV層〜Y層は、14C年代測定の結果10,000〜17,000yBPの地層であると判明した。上位のT層・U層は人工改変を受けた痕跡が認められるため、歴史時代に形成された地層であると考えられる。

したがって、V層(10,000yBP)とU層(歴史時代)の堆積年代に10000年程度のギャップを示す(約10000年間の地層の欠如がある)。このギャップは、流路の変化(西側へのシフト)や堆積環境の変化の可能性がある。

図2−5−5−2 丸山Aトレンチ地層区分及び解釈結果図

2) 丸山Bトレンチ

@トレンチ壁面の地質

丸山Bトレンチは、丸山Aトレンチを補足するすることを目的にF−1−2断層線を対象に、水田として利用されている低位段丘T面で実施した。平面的には丸山Aトレンチの西北西部85mの位置にあたる。

トレンチは断層線を横断する方向で長さ16m深さ4.5m掘削し、トレンチの底面には中・古生層(美濃帯泥岩)の破砕帯が全面に出現し、その上部には土石流成の堆積物が分布している。堆積物は、表層の耕作土を含めると堆積環境の違い及び連続性の良い削り込みにより、上位の地層から大きく分けてa層〜g層の7層に区分した。

A) a 層

下位のb層及びc層を覆う暗褐色〜黒褐色の粘土・シルトからなる現在の水田土壌である。この水田土壌の層厚は、東側法面で厚く、西側法面で薄い。また、何れの法面でも南側で厚く、北側で薄い。これらから、水田化される前はトレンチの南端部北東方向から南西方向に流れる小河川が存在しており、小河川を盛土して現在の水田が造成されたものと判断できる。

B) b 層

下位のc層を不整合に覆う褐色〜明褐色の砂礫層である。東側法面では水平距離0〜4m付近に分布し、西側法面では水平距離9〜13m付近に分布する。C層基底部の比高差は約1m存在し東側法面が低い。砂礫層はφ50〜300mmの亜角礫〜亜円礫で、マトリックスはルーズな粘土混じりの中砂〜細砂である。礫種はチャート、頁岩、砂岩であり、小栗毛池に流れ込む河川の上流部に分布する岩種と差異はない。マトリックスにラミナ(堆積構造)が認められないことや東側法面では塊状のシルト混じり砂礫ブロックを含んでいるため土石流堆積物と判断される。

C) c 層

下位のd層,e層,f層を不整合に覆い、上位のb層に不整合に覆われる灰〜灰褐色の砂礫層である。東西両法面に広く分布し、基底面の凹凸は小さく、東側法面で基底部が相対的に40〜50cm程度低い。砂礫層はφ50〜300mmの礫を主体とし、最大φ500mm程度の巨礫を含む亜角〜角礫によって構成され、マトリックスはややルーズな粘土混じりの粗〜中砂である。礫種はチャート、頁岩、砂岩であり、小栗毛池に流れ込む河川の上流部に分布する岩種と差異はない。マトリックスにラミナ(堆積構造)が認められないことから土石流堆積物と判断される。

D) d 層

下位のe層,f層を不整合で覆い、上位のc層に不整合に覆われる黄灰〜褐灰色の砂礫層である。D層は西側法面の水平距離5m〜南端のみに認められ、東側法面には分布が認められず、西側法面の水平距離8m付近で基底の分布深度が最も深い。D層中には水平距離8〜9m深度3m付近と水平距離9〜13.5m深度1.5〜2.5付近に塊状〜層状のシルト混じり砂礫ブロックが分布している。水平距離9〜13.5m深度1.5付近に層状に分布するシルト混じり砂礫ブロックは、比較的グレーディングがよくラミナも認めれれるため、独立した地層であるかc層に含まれる可能性もあるが、色調がd層中に含まれるブロックと同一であることからd層の一部と判断した。

砂礫層は、φ50〜300mmの礫を主体とし、最大φ600mm程度の巨礫を含む亜角〜角礫によって構成され、礫種はチャート、頁岩、砂岩であり、小栗毛池に流れ込む河川の上流部に分布する岩種と差異はない。礫の長径方向が比較的そろっている箇所が認められる。マトリックスはややルーズな粘土混じりの粗〜中砂である。

マトリックスにラミナが認められないことや、塊状〜層状のシルト混じり砂礫ブロックを含んでいるため土石流堆積物と判断される。礫の長径方向がそろっていることやd層の分布が西側法面に限られることから、西側法面に斜行した河川を流れた土石流である可能性が高い。

E) e 層

下位のb層を不整合に覆い、上位のc層,d層に不整合に覆われる褐〜明褐色の比較的細粒分に富む砂礫層である。E層は東西両壁面の北端から水平距離6〜7m付近深度1.5〜3.5m付近に分布するし、基底にはマンガンの沈殿(析出)が認められる。

砂礫層は、φ30〜60mmの礫を主体とする亜角によって構成され、礫の粒度が比較的そろっており、礫の系統的な北傾斜の配列により堆積構造が不明瞭に認められる。礫種はチャート、頁岩、砂岩であり、小栗毛池に流れ込む河川の上流部に分布する岩種と差異はない。マトリックスはややルーズな、比較的粘土分の多い粘土混じりの中砂である。

E層も土石流堆積物と判断される。

東西両壁面には、中・古生層から最大e層まで鉛直方向に連続した開口亀裂が存在している。

F) f 層

下位のg層及び中・古生層(美濃帯)を不整合に覆い、上位のc層,d層,e層に不整合に覆われる褐灰〜黄褐灰色の砂礫層である。F層は東西両壁面の北端から南端まで深度2.5〜3.5m付近に分布し、基底面の標高は東西両法面でほぼ等しい。基底にはマンガンの沈殿(析出)が認められる。

砂礫層は、φ20〜200mmの礫を主体とし、最大φ400mmの亜角〜角礫によって構成され、マトリックスはややルーズな比較的粘土分の多い粘土混じりの中砂である。礫種はチャート、頁岩、砂岩であり、小栗毛池に流れ込む河川の上流部に分布する岩種と差異はない。

F層も土石流堆積物と判断される。

東西両壁面には、中・古生層から最大e層まで鉛直方向に連続した開口亀裂が存在している。

G) g 層

下位の中・古生層(美濃帯)を不整合に覆い、上位のf層に不整合に覆われる丸山Bトレンチでは最古の灰褐色の砂礫層である。G層は東側法面では北端から南端まで分布するが、西側法面では水平距離11m以南に分布が限られる。

砂礫層は、φ10〜100mmの礫を主体とする亜角礫によって構成され、マトリックスはややルーズな粘土混じりの中砂である。礫種はチャート、頁岩、砂岩であり、花崗岩礫が混入していることが特徴としてあげられる。小栗毛池に流れ込む河川の上流部に分布する岩種と差異が認められる。

礫の長径方向が系統的に20°程度の北傾斜を示している。

G層も土石流堆積物と判断される。

東西両壁面には、中・古生層から最大e層まで鉛直方向に連続した開口亀裂が存在している。

H) 中・古生層(美濃帯砂岩・泥岩)

中・古生層(美濃帯)はトレンチの底盤に全面露出する。露出する中・古生層(美濃帯)は、全面が破砕帯であり、黄褐色〜暗灰色の断層ガウジや破砕された岩盤が認められる。また、東西両壁面には、基盤岩から最大e層まで鉛直方向に連続した開口亀裂が存在している。この開口亀裂の周辺部及びg層・f層の境界付近は黄褐色の酸化状態を示し、これ以外では暗灰色の還元状態を示す。

A 考察

a) 堆積物の層序区分

全ての地層からは14C年代試料を採取できなかったため各層の対比や統廃合は行えなかった。

地層の14C年代値は、c層,d層,e層,f層中の微小な炭化物7試料を採取し年代を測定した。その内、d層で2試料,f層で1試料の年代値が得られ、結果に矛盾はなかった。

その結果、トレンチ壁面の地質観察による区分をそのまま採用し、a層〜g層の7層とした。

得られた年代値に対して、トレンチ調査地点の位置する地形面は、空中写真判読では低位段丘T面に区分され、その形成年代は鈴鹿山脈東縁地域の研究事例(太田・寒川,1984)を引用し、2〜3万年と考えた。これに対し、得られた

14C年代値は220〜390yBPと2オーダー新しい。また、トレンチ観察時の定性的な(地層のツラツキや固結度からの)判断では、丸山Aトレンチと同様な年代を示すことが予想されたが、予想とは異なる年代値が得られた。これらのことから、完新世の植物根等が混入したものを測定している可能性も否定できない。

したがって、今後調査を繰り返し行った場合には、堆積物中に確実に含まれる試料を採取し、今回の解釈結果の見直しを行う必要がある。

B) 断層の有無

トレンチ底盤に分布する中・古生層(美濃帯)には、数条断層ガウジが確認できるが、上位に分布する土石流積物中の断層や基底面の段差は認められない。

また、基盤である中・古生層(美濃帯)から土石流堆積物g層・f層・e層へ連続する開口亀裂が確認できたが、開口亀裂に切られている中・古生層中の小断層のズレはなく、開口亀裂は断層とは考えられない。

したがってこの地点では、断層ガウジを直接覆うg層の堆積以降には、中・古生層中の断層は活動していない。G層の堆積年代は得られなかったが、f層の堆積年代は14C年代より390yBPである。

C) 地層の変形の有無

基盤である中・古生層から土石流堆積物g層・f層・e層へ連続する開口亀裂が確認できた。開口亀裂の下方の連続性は確認できていない。この亀裂は基盤である中・古生層を開口させているため、地下水脈によるパイピングとは考えられない。地すべり地形も認められず地すべりの可能性もない。また、遠地地震により地割れが発生した事例はあるが、中・古生層(基盤岩)まで開口がおよんでいる事例は知られていない。

したがって、極近傍の強い地震動により形成された可能性が高い。

この、開口亀裂はe層〜g層を確実に開口(d層の開口は不明である)させており、c層を開口させていないため、g層堆積以降c層堆積前までの期間と考えられる。確実に開口しているg層の14C年代は390yBPが得られたが、開口していないc層以降の堆積年代は得られなかったた。したがって、390yBP以降に形成されたことになる。

D) 堆積環境の変化等

トレンチで確認された地層の内、最下位のg層には上流の山地には分布が確認できていない花崗岩の礫が存在している。周辺地域の花崗岩の分布については、伊吹山の北西部に狭小に分布することと琵琶湖北縁に広く分布している。礫が土石流堆積物に混入する可能性については、基盤岩である中・古生層を直接覆うg層にのみに花崗岩礫を含むことから、現在は分布しない中位段丘堆積物,高位段丘堆積物,東海層群に花崗岩礫が含まれており、ここから流出したものがg層に混入したものと考えられる。

少なくとも基盤の中・古生層に認められるF−1−2断層の活動によるテックトニックなものではない。

図2−5−5−3 丸山Bトレンチ地層区分及び解釈結果図