(1)秋葉トレンチ

秋葉トレンチは、関ヶ原町秋葉の秋葉閉塞丘の北側に分布する東西に狭小な谷底に位置する。谷沿いには地形地質踏査でF−1断層が分布していると推定された。トレンチは、谷底を南北に横断する形状で掘削し、その掘削面の観察、スケッチ及びサンプリングを行った。

トレンチの壁面観察は、西側法面,東側法面の2面で実施した。

1) 観察結果

観察の結果、本トレンチでの地層は、下位より河川成〜湖沼成の堆積物,および埋土・耕作土・表土からなる表土層である。トレンチ壁面の写真は5−3項に示した。

@ トレンチ壁面の地質

秋葉トレンチで観察された地層を上位の地層から順にA〜F層と基盤岩の中・古生層(美濃帯砂岩)に区分した。区分の基準は不整合もしくは明瞭で連続の良い削り込みが見られることとした。以下に各層の層相を記載した。

A) A 層

下位の黒色の腐植土、暗灰褐色の砂混じりシルトからなる。腐植土層の上位には盛り土がのる。下部に見られる暗灰色〜暗灰褐色シルトは植物痕を多く残すことや還元相をもつことなどから過去の水田土壌層であると考えられる。

耕作土の頂面はほぼ水平となっているが、西側法面と東側法面では高度差があり、水田としては別の区画となっており、耕作土の中に礫を含む灰褐色シルト層がレンズ状に挟まれる。この地層は西側法面では見られないことから背後の斜面からの崩落(崩壊)物質の可能性が考えられる。トレンチの南側では、この地層の基底部に小規模な凹地が見られる。これは水田耕作時の水路跡と判断した。

B) B 層

水田耕作土の直下に見られる地層で西側法面では5m地点から18m付近までの間に連続するが、東側法面では17m〜18m間にのみ堆積している。この地層は、東西の連続と堆積の状況から水田耕作以前の小河川の堆積物とこれに連続する湿地性の堆積物であると考えられる。砂礫優勢部分は小河川の流路中心部の可能性が高い。堆積物の最上部からは土器片(土師器片:13世紀後半〜14世紀)が発見された。土器片のを含むこの地層は14世紀以降の堆積物であると判断される。

C) C 層

下位のD,E層を不整合に覆う砂礫層とこの上位のシルト層、砂質シルト層、黒色〜暗褐色腐植土層からなる。砂礫層は巨礫を含む亜角〜亜円礫によって構成されマトリックスはシルト混じりの粗粒〜中粒砂である。砂礫を構成する礫種は砂岩,泥岩,チャートが優勢であるが、近接する山地斜面には分布が確認できていない花崗岩片が少量認められる。

西側法面の北側の−1m〜2m付近にかけてはこの砂礫層の礫径が小さくなる凹状の堆積部とラミナが見られる。これは礫層堆積後の河川流路を示すもので堆積の後半には河川の掃流力が低下した可能性がある。

これより上位には、腐植土層とシルト層が堆積している。腐植土層は礫層直上のもの、シルト層に挟まれ南に向かってしだいに高度を減じるものが見られる。シルト層は白色〜淡灰色のシルト層と暗灰色のものが見られる。いずれも礫が点在し不明瞭な堆積構造をもつ。

西側法面の1〜9m付近と東側法面の2〜6mの区間では、白色のシルトが見られる。このシルト層は腐植土層と指交関係である可能性があり、この時期の堆積環境が極めて穏やかなものいであると同時に側方変化が幅の狭い間隔で起こっていたものと考えられる。

D) D 層

下位のE層を削り込む砂礫層とこれを覆うシルト層・細〜粗粒砂層・腐植土混じりシルト層からなる。最下部の砂礫層は亜角〜角礫が優勢で大礫〜中礫が多い。基底面に複雑な凹凸が観察され下位層の削り込みと砂礫層の堆積が短時間で起こった可能性がある。砂礫層のマトリックスはシルト優勢であるが、礫の配列による不明瞭なラミナも観察することができる。

この砂礫層の上位には砂礫層から漸移する細礫混じり粗粒砂層とより上位の腐植土混じりシルト層が見られる。腐植混じりシルト層は西側法面では上位の地層に削り込まれるが、東側法面では9〜13.5m間は上位の砂層が整合で覆い、14〜15m間ではより上位の腐植土層に漸移している。また9m付近では下位の砂礫層と指交関係にある。

より上位のD層では礫径はやや小さくなり、砂が優勢となっている。最上部にも腐植土混じりシルトが見られる。このシルト層・腐植土混じりシルトも法面北側では粗粒な砂礫層と、法面南側では細粒物質と指交関係にあることが観察される。

このようにD層の堆積は基底部では土石流の堆積物のような性格をもちながら、上位では穏やかな堆積環境と流水の影響による堆積環境が幅の狭い間隔で同時に存在していた可能性が高い。

E) E 層

小〜細礫を含むシルト〜細粒砂からなる。不明瞭なラミナが発達し、シルト・細砂の薄層を挟む。下位のF層を削り込んで堆積し、南側では崖錐堆積物に漸移する。含まれる礫は砂岩優勢で泥岩も含まれる。西側法面の2〜9mの間には砂・細礫・シルトのラミナが見られるが、傾斜はほとんどない。6〜8m区間で緩やかな上方凸部(7m付近が中心)がみられる。

東側法面の6〜9m区間では白色シルト薄層がほぼ水平に連続していることが観察される。堆積状況から弱い水流による堆積物と考えられる。

埋め戻し前に、トレンチの中心部3〜15.5m付近を堀り増し、西側法面の観察を行った結果、8〜12m付近までは堀増し前に観察された地層が連続し、12〜15.5mには砂岩礫を大量に含むほぼ水平な堆積構造を持つシルト質砂礫層へと漸移していることが確認された。このシルト質砂礫層は、トレンチ南側の崖錐層へも漸移する。これら堆積状況からも、弱い水流による堆積物と考えられ、水流の中心は12〜15.5mと考えられる。

F) F 層

角礫を含む暗灰色〜灰色シルト、腐植質の暗灰色シルトからなる。トレンチ北側ではこの層の最下部を構成するシルト質角礫層が中・古生層(美濃帯)の砂岩に接している。最下部の角礫層は淘汰が悪く、マトリックスは灰色のシルトである。一部に白色の粘土が角礫の礫間を重点していることが観察される。

本層は全体に南に向かって緩やかに傾斜している。

埋め戻し前に、トレンチの中心部3〜15.5m付近を堀り増し、西側法面の観察を行った結果、E層の下位の腐植土層や腐植土混じり砂礫層が広く分布することが確認された。E層の下位では、側方変化が激しく、上方のシルト質砂礫層の削り込みにより、北側からの地層の連続がとぎれる。E層の下位に分布する腐植土層や腐植土混じり砂礫層の層区分は14C年代測定の結果を参考に決定する必要がある(結果として、F層として一括できた)。

G) 中・古生層(美濃帯砂岩)

トレンチの南側および北側に露出する。灰色の砂岩もしくは暗褐色の風化砂岩となっている。北側では、ブロック状に破砕され一部に白色の粘土が節理中に観察されこの一部はF層の角礫中にも連続するが、剪断面などは連続して観察されない。南側の砂岩は風化が進行しており、小礫サイズに容易に分離する。

A 考察

a) 堆積物の層序区分

埋め戻し前に掘り増しにより確認した地層も含めB層を除く地層から17試料の14C年代試料を採取し、年代測定を行った。その結果、埋め戻し前に掘り増し時に確認したE層下位の地層はF層の年代値と整合的でありF層とした。ただし、F層中の材化石2試料(試料名7および13)は、F層中の他の試料に比べ3000〜4000年程度新しい年代値,および20000年程度古い年代値を示した。試料名13の年代値は測定誤差も大きい。また、採取位置も上位の砂礫層の直下であることから、二次的な混入および再堆積と判断し棄却データとした。

これ以外は、全て整合的な年代値が得られ、結果に矛盾はなかった。

したがって、トレンチ壁面の地質観察により区分をそのまま採用し、A層〜F層の6層とした。

B) 断層の有無

トレンチ底面には、基盤岩が露出していないが、トレンチ西側で実施したボーリングB−4によれば基盤岩の分布深度は9.67mである。B−4の9.67〜15.00mまでには、基盤岩である中・古生層(美濃帯)の泥岩を確認し、破砕がおよんでいることを確認している。

しかし、トレンチ法面の観察結果からは、法面に露出したA層〜F層に、断層は認められない。したがってこの地点では、F層の堆積以降の断層運動は認められない。F層の堆積年代は14C年代測定により15,000〜16,000年頃と判明した。

C) 地層の変形の有無

最下位のF層は、南に向かって緩く傾斜しているが、本層の下部は粗分が多く混入する礫も角礫を示す(原位置性である)ことや、基盤である中・古生層(美濃帯)近傍に水平に近いラミナが認められることから、地層全体を変形させた断層運動に伴うと考えられる二次的な変形は受けていないものとした。

また、堆積構造で説明できない局所的な変形としては、トレンチ西側壁面でのE層中への小規模なD層の二次的な落ち込みが2箇所認められる。D層の上部の堆積構造及びC層の基底面に変形がないことから、この落ち込みは、D層堆積中に地震動を受け形成されたものと推定した。この落ち込みの形成時期は、E層・D層の14C年代測定により12,000yBP前後と考えた。この地点の剥ぎ取り標本を作成した。

D) 堆積環境の変化等

トレンチで確認された地層の内、中位のC層には上流の山地には分布が確認できていない花崗岩の岩片が存在している。周辺地域の花崗岩の分布については、伊吹山の北西部に狭小に分布することと琵琶湖北縁に広く分布している。礫がC層のみに混入する可能性については、以下の2つが考えられる。

・中位段丘堆積物,高位段丘堆積物,東海層群に花崗岩礫が含まれており、ここから流出したものがC層に混入した。

・河川の流路が現在と異なり、花崗岩礫を流出する河川と連結していた。

また、D層(10,000〜12,000yBP)とC層(1,000yBP)の堆積年代に10000年程度のギャップを示す(約10000年間の地層の欠如がある)こと,C層のみに花崗岩礫を含むこと,から、両者の間に堆積環境の変化が起こった可能性がある。

ただし、気候・海水順変動に伴うものなのか,テクトニックによるものなのか,判断が難しいが、C層の下位の地層に断層変位や断層によると考えられる地層の変形が認められないことから、少なくともF−1断層の活動によるものではない。

図2−5−5−1 秋葉トレンチ地層区分及び解釈結果図