(3)データ処理

データ処理の目的は、記録された波形を処理して、地下構造を表す断面を作ることである。データ処理の手順を図2−3−1−3−2に示し、その概略を説明する。本処理には反射法探査解析システムProMAX を用いた。

@ 前処理

a) データの転送と編集

磁気テープから処理装置(SUN Sparc20)にデータを転送する。次に不必要なショットレコード及びトレースを除く。フィルターテストの結果R−1,R−2,R−3測線のデータには200Hz以上のシグナルに乏しかったので1msecから2msecにリサンプルした。RS−1測線のデータも同様の理由から、0.5msecから1msecにリサンプルした。

B) ジオメトリーの定義

測量によって得られた受振点及び発振点の座標を入力する。各ショットの受振点パターンを定義する。処理ラインを設定しCDP ビンのサイズを定義する。ビンの測線方向の間隔は、R−1,R−2,R−3測線で5m,RS−1測線で1mとした。

A 重合前フィルター

a) デコンボリューション・フィルター

このフィルターは振源波形,地層特性等反射地震記録にコンボリューションの関係で含まれている基本波形をインパルスに短縮するフィルターの一種である。入力波形は以下の条件を有すると仮定する。

イ)反射係数時系列は無規則(ランダム)で定常である。

ロ)基本波形(基本ウェーブレット)は最小位相型である。

一般に反射記録は反射係数時系列に基本波形がコンボリューションされたものと考えられる。基本波形が既知であれば、これをインパルスに変換するフィルター(これを逆フィルターと呼ぶ)は正確に設計できる。しかし、反射記録の性質上基本波形を正確に知ることは非常に困難であるためデコンボリューションフィルターでは、上記最小位相型の仮定を設けることにより統計的に処理されている。

デコンボリューションフィルターの具体的な効果は以下のとおりである。

イ)様々な周波数成分をもつ間延びした反射シグナルをインパルスに近い(高周波かつ分解能の高い)シグナルに変換する。

ロ)主として浅部の影響による重複反射波を除去または弱め独立した反射波に変換する。

本処理ではスパイキング・デコンボリューションを用いた。

B) 帯域通過フィルター

信号である反射波とノイズである他の振動との周波数帯域が異なっている場合には、反射波の帯域のみを通す帯域通過フィルターをかけることにより、S/N比の向上が期待できる。そのためには周波数領域でフィルターを設計し、それをフーリエ変換して時間領域のフィルターオペレータを求め地震記録にコンボリューションする。

B 静補正

図2−3−1−4に静補正の概念図を示す。

表層付近での弾性波の速度差による反射波の遅速,表層の厚さの変化による反射波の遅速,発振点及び受振点の標高差等を補正する。これを実施しない場合には構造解釈に誤りをおかしたり、水平重合法において反射波そのものを破壊することがある。 具体的には、ある基準面(Datum Plane)を設けて、あたかもその基準面上で測定が行われたかのように各発振,各受振点の記録を上下する。

以下に図2−3−1−4を用いて概説する。

(a) のモデルに対する反射波の走時は(b) の○印のようになる。(a) において実際の標高(○印)の移動平均をとりその標高値を×印で表した。受振点j の実際の標高をHj,移動平均標高をAj,風化層以下の伝幡速度をV とすると受振点j の補正値Rj は、

Rj = (Hj − Aj)/V

となり、発振点I の補正値Si は、

Si = (Hi − Ai)/V

となる。各トレースについて、

T(I,j,k) = T(I,j,k−(Rj+Si)/Δt) (Δt はサンプリングレート)

となるように時間をずらす。具体的には(b) の×印のようになる。(c) はb) の○印(標高補正行わず)の反射波を重合したものであり、(d) は×印(標高補正実施後)の反射波を重合したものである。単純な水平多層構造であるにもかかわらず、(c) では複雑な地下構造であるかのような結果となっているが、(d) ではほぼモデルの地下構造を再現している。

ここでは地形の補正のみについて説明したが風化層補正の場合も同様に処理できる。具体的には風化層の厚さによる各点の走時差を Wsi,Wrj とすると上式は、

T(I,j,k) = T(I,j,k−(Rj+Si+Wsi+Wrj)/Δt)

となる。補正値Wsi,Wrj は、各トレースの初動から屈折法的解析を行って求められる。

本処理では、屈折法的解析の風化層補正を地形補正とともに実施した。

C 速度解析

CDP重合に用いる重合速度分布を求める処理である。速度解析の方法としては、定速度走査法と定速度重合法があり、本処理では両者を用いた。ここで求める速度は、重合速度と呼ばれ水平多層構造を仮定した場合はRMS速度に一致する。

D NMO補正及びCDP重合

図2−3−1−5にNMO補正及びCDP重合の概念図を示す。

CDPアンサンブル(各 CDP[発振点−受振点の中点]毎に対応するトレースを集めたもの)を発振点・受振点間距離の違いによる反射波の到達時間の遅れを補正し、発振点と受振点が同じ場合(ゼロオフセット)の時間に合わせる操作が NMO補正である。NMO補正を行うにはあらかじめ地下の速度分布を設定する必要があり、通常は速度解析により得られた速度分布を用いる。このNMO補正後のCDPアンサンブルを足し合わせて、反射シグナルを強調する操作が水平重合(CDP重合)である。図2−3−1−5は、6重合の場合のNMO補正とCDP重合(水平重合)処理の概念図である。共通反射点Pでは、A−P−a,B−P−b,C−P−c,D−P−d,E−P−e 及びF−P−f の各々異なった経路をもつ反射記録(I) が得られる。P点からの反射波の走時は、水平距離Xの増加とともに遅くなっている。次に速度解析で得られた速度を用いてp−P−p の経路の仮想の記録に合わせる(NMO補正)とP点からの反射波はいずれの経路のものもほぼ同じ走時の記録(ii) が得られる。さらにこれらを足し合わせる(水平重合)とランダムなノイズは打ち消しあい、反射波以外のシグナルは相対的に弱くなり、逆にP点からの反射波は加算されて反射波が強調された記録(iii) が得られる。

測線長の長いR−1・R−2測線についてオフセット距離が長く深部からの反射波に乏しいので、CDPの近傍50chの観測データを重合して処理を行った。解析精度均質化を図るためR−3測線もこれに習った。

図2−3−1−5 水平重合法(NMO補正及びCDP重合)の概念図

E 残差静補正

表層補正や高度補正を施した後でも、初動屈折波と反射波の経路の違いによる時間の不規則性や2層構造仮定を採用したために、局地的な速度の異常に関するものは完全には補正されず、CDPアンサンブル内での同一反射の到達時間は一定ではないのが普通である。水平重合反射法弾性波探査においては、最適なCDPアンサンブル群が得られるように統計的処理を施してこの時間差を補正し、各発振点及び受振点における2次補正値を求める。

F 重合後フィルター

帯域通過フィルター,F−Kフィルター,デコンボリューションフィルター,コヒーレンシーフィルターなどが使用される。

G マイグレーション

傾斜している反射面を空間的に正しい位置に戻す操作である(図2−3−1−6 参照)。 マイグレーションの具体的な方法としては、ディフラクションマイグレーション,反射事象のピッキングマイグレーション,波動方程式マイグレーション,F−K領域マイグレーションがある。本処理では波動方程式マイグレーションを用いた。

図2−3−1−6 マイグレーション概念図

H 深度変換

NMO補正で用いた重合速度を用いて得られた反射断面の縦軸を時間から深度に変換する。

図2−3−1−3−2 デ−タ処理フローチャート

図2−3−1−4 静補正の概念図