(2)地質精査

地質精査は、地形判読及び地質概査の結果により抽出された4地区(精査範囲:5.4km2以上)を対象に、関ヶ原断層の位置の絞り込みや構造把握及び活動性評価を目的として実施した。また、地質精査で関ヶ原断層の諸元が把握できなかった場合の具体的調査手法や仕様を検討した。

地質精査の結果として1/2,500の地質図を作成した。

精査地区及び結果の概要は、以下のとおりである。

@秋葉・丸山地区

A笹尾山地区

B玉地区

C県境地区

@ 秋葉・丸山地区(図2−2−3−2−1図2−2−3−2−2参照)

・本地区では、北側の山地及び閉塞丘に中・古生層(美濃帯)の砂岩・泥岩が広く分布し、南側には低位段丘堆積物(低位段丘U堆積物)が広く分布する。東海層群は、図面中央部の山地山麓と秋葉神社の位置する閉塞丘の西端及び東端に露頭する。既存ボーリングの記載から南側に広く分布する低位段丘堆積物の下位にも東海層群の分布が推定できる。

・秋葉神社の位置する閉塞丘(以下「秋葉閉塞丘」と呼ぶ),北野神社の位置する閉塞丘(〃「北野閉塞丘」),丸山のろし場の位置する閉塞丘(〃「丸山閉塞丘」)の3箇所が、断層変位地形と考えられる。

・北野閉塞丘の北側1箇所,丸山閉塞丘の東の大栗毛川河床付近の3箇所,の合計4箇所で断層露頭・破砕帯が確認された。また、大栗毛川河床付近の東側延長部では中・古生層(美濃帯)と東海層群の近接露頭を確認し、秋葉閉塞丘南西端の東海層群では北傾斜を確認している。

・以上の事実から、秋葉閉塞丘の北側と北野閉塞丘の北側もしくは南側を結ぶ断層(以下「F−1」と呼ぶ)が推定できる。F−1は、北野閉塞丘の北側に伸びるF−1−1と北野閉塞丘の南側に伸びるF−1−2の2条に分岐しているものと推定できる。F−1断層の北側には変位地形や破砕帯等は認められない。

・秋葉閉塞丘南側と丸山閉塞丘南側にも中・古生層(美濃帯)と東海層群の地質境界となる断層が存在する可能性があり、この位置が中・古生層(美濃帯)露出の南限であることから両者を結んだ断層(以下「F−2」と呼ぶ)を推定する。

・これらの他にも、秋葉閉塞丘の北側と丸山閉塞丘の南側を結んだ断層線,秋葉閉塞丘の南側と丸山閉塞丘の北側を結んだ断層線,が存在する可能性がある。(根拠に乏しいので図示しない)

・推定されたF−1・F−2断層線を覆い低位段丘堆積物が分布するが、段丘面上には低断層崖等の変位地形は認められない。

・具体的な調査としては優先順位の高い順に次の調査が提案できる。

優先順位T

a) F−1断層線の通過が確実な秋葉閉塞丘北側の低位段丘堆積物分布域でのトレンチ調査

b) F−1・F−2断層の存在・分布を把握する物理探査(浅層反射法,高密度電気探査)と確認のためのボーリング調査,その結果による活動性評価手法の検討

優先順位U

c) 低地部の伏在断層の有無確認のための物理探査(浅層反射法)及び反射面対比のためのボーリング調査

d) a)の結果が不調だった場合のボーリング調査やトレンチ調査の検討

e) b)の結果によるボーリング調査やトレンチ調査の検討

図2−2−3−2−1 秋葉・丸山地区(1/2)地質平面図(1/2,500)

注)推定断層の位置については、露頭情報や地形情報に乏しいため

地層境界となるものを除き、その位置は数10m程度の幅を含んでいる。

図2−2−3−2−2 秋葉・丸山地区(2/2)地質平面図(1/2,500)

注)推定断層の位置については、露頭情報や地形情報に乏しいため

地層境界となるものを除き、その位置は数10m程度の幅を含んでいる。

A 笹尾山地区(図2−2−3−3−1図2−2−3−3−2参照)

・本地区では、北側の山地に中・古生層(美濃帯)が広く露出し、南側には低位段丘が広く分布する。笹尾山トンネルの北西−南東に伸びる尾根の南端及び南西端の山麓部には東海層群が分布する。既存ボーリングの記載から低位段丘の下位にも東海層群の分布が推定できる。

・笹尾山尾根線の屈曲と笹尾山光成陣跡北側の鞍部の2箇所が、断層変位地形と考えられる。

・踏査と北小学校の工事記録からは、断層露頭や破砕帯の確認できなかった。笹尾山トンネルの工事記録は入手できなかったが、笹尾山トンネル坑口の2孔の既存ボーリングの記載では、高有機質土が深度99m,67.5mまで(いずれも孔底まで)記載されており、地質分布から解釈される地質構造とは異なる地層が、地下深部まで分布している。

・以上の事実から、笹尾山光成陣跡北側に鞍部と中・古生層(美濃帯)/東海層群境界が存在し、東西方向の断層(以下「F−3」と呼ぶ)が推定できる。F−3は、トンネル坑口北西部の中・古生層(美濃帯)/東海層群地質境界をとおり、北西方向に伸びると推定される。F−3上の既存ボーリングでの深度37.5mまでの高有機質土の記載は断層破砕帯をみている可能性がある。F−3と秋葉・丸山地区のF−2との関係は不明である。

・また、北小学校北部の既存ボーリングの記載では深度20.01mまで礫・粘土が記載されており東海層群の分布が推定される。北側の山地は中・古生層(美濃帯)であることから、道路法面付近に断層が存在する可能性がある。笹尾山尾根線の屈曲延長部にこの断層線は連続する。この断層線は、広域的に判断すると秋葉・丸山地区で推定されたF−1に連続する。

・推定されたF−3・F−1断層線を覆い低位段丘堆積物が分布する(北小学校西部及び北東部)が、段丘面上には低断層崖等の変位地形は認められない。

・具体的な調査としては優先順位の高い順に次の調査が提案できる。

優先順位T

a) F−1・F−3断層把握のための物理探査(浅層反射法,高密度電気探査)

優先順位U

b) a)の結果によるボーリング調査やトレンチ調査の検討

c) 低地部の伏在断層の有無確認のための物理探査(浅層反射法)及び反射面対比のためのボーリング調査

図2−2−3−3−1 笹尾山地区(1/2)地質平面図(1/2,500)

注)推定断層の位置については、露頭情報や地形情報に乏しいため

地層境界となるものを除き、その位置は数10m程度の幅を含んでいる。

図2−2−3−3−2 笹尾山地区(2/2)地質平面図(1/2,500)

注)推定断層の位置については、露頭情報や地形情報に乏しいため

地層境界となるものを除き、その位置は数10m程度の幅を含んでいる。

B 玉地区(図2−2−3−4参照)

・本地区では、北東側の山地に中・古生層(美濃帯)が広く分布し、南側には東海層群が広く露出する。玉集落には低位段丘堆積物,集落北東部には中位段丘堆積物が東海層群を覆って分布する。

・本地区北東側の北西−南東方向に連続する鞍部が、断層変位地形と考えられる。本地区中央部の北東−南西方向の渓流部で露出が良く、渓流の(北側)上流側の(南側)東海層群/(北側)中・古生層(美濃帯)地層境界付近で中・古生層(美濃帯)砂岩・頁岩の破砕部や中・古生層(美濃帯)中の断層粘土を確認した。したがって、連続する鞍部を東海層群を変位させている断層と考える。この断層線は、広域的に判断すると笹尾山地区で推定されたF−3に連続する。 

・藤古川との合流部付近で、(南側)中・古生層(美濃帯)/(北側)東海層群の境界断層(以下「F−4」と呼ぶ)を確認した。断層面はほぼ南北走向,60°東傾斜を示し、断層面を段丘堆積物が覆う。段丘堆積物はこの断層により切られていない。F−4の連続性は、低位段丘に覆われ、低位段丘面上に断層変位地形が認められないため不明である。F−4はF−1・F−2・F−3と逆のセンス(相対的に南側隆起)の断層であり、変位量等活動性の評価をしておく必要がある。

・推定されたF−3断層線上に、低位段丘面と推定される平坦面が分布するが、堆積物の確認ができなかった。この低位段丘面上には、低断層崖等の変位地形は認められない。

・具体的な調査としては優先順位の高い順に次の調査が提案できる。

優先順位T

a) F−3断層線上の段丘堆積物の確認及びトレンチ調査

(段丘堆積物の露頭がなく、現在植林地であり人工改変された平坦地の可能性もある。また、杉の植林地であるため施工が困難)

b) F−4断層線の連続性確認のための物理探査

(極浅層反射法が望ましいが適した測線が存在しない)

優先順位U

c) F−4と同じセンスの断層が関ヶ原市街地にも伏在している可能性があり、関ヶ原市街地での物理探査(浅層反射法もしくは極浅層反射法)

図2−2−3−4 玉地区地質平面図(1/2,500)

注)推定断層の位置については、露頭情報や地形情報に乏しいため

地層境界となるものを除き、その位置は数10m程度の幅を含んでいる。

C 県境地区(図2−2−3−5参照)

・本地区では、北東側の山地及び調査地南部の藤古川右岸山地に中・古生層(美濃帯)が広く分布し、両者の間には東海層群が分布する。低位段丘堆積物が東海層群を覆って分布する。

・本地区には、三角末端面や尾根・谷の屈曲が断層変位地形として存在する。

・本地区東側中央部の地層境界部に杉山ほか(1994)で報告されている逆断層露頭が確認できた。断層面の走向傾斜はN78W,22Nであり、南側の東海層群の上位に中・古生層(美濃帯)頁岩が衝上している。断層面付近5〜8cm(最大15cm)の東海層群は粘土化しており、中・古生層(美濃帯)は広範囲にわたり、原岩組織が認められないほど破砕され、全体に粘土化〜土砂化している。

このほかに、ややもまれた中・古生層(美濃帯)露頭1箇所を確認した。確認できた境界断層は広域的にみて玉地区のF−3断層と連続する。F−3断層の200m西部には中・古生層(美濃帯)中の断層露頭,さらに120m西部にはややもまれた中・古生層(美濃帯)露頭が存在する。この分布位置は境界断層の走向方向と調和的であり、地層境界にF−3断層の破砕帯と考える。

・藤古川右岸の中・古生層(美濃帯)中に2箇所の断層露頭及び破砕帯を確認した。中・古生層(美濃帯)中の断層面の走向方向は、藤古川支流の両岸に分布する低位段丘面南西側の段丘崖方向と調和的であり、段丘崖が断層崖の可能性がある。以下「F−5」と呼ぶ。

・本地区東端の藤古川左岸にも中・古生層(美濃帯)が分布し、東海層群との間に境界断層が推定される。この推定断層は玉地区のF−4断層とセンスが同じ((南側)中・古生層(美濃帯)/(北側)東海層群)と推定されるため仮にF−4’と呼ぶ。この北西延長上には低位段丘面が存在し、段丘面上には調和的な段差がある。段丘面は、針葉樹の植林地であり、人工的な段差か断層変位地形か判断が難しい。また、F−3に収斂するか否かは不明である。

・具体的な調査としては優先順位の高い順に次の調査が提案できる。

優先順位T

a) 段丘堆積物下位でのF−3・F−4’の分布確認のための調査(物理探査(高密度電気探査)・ボーリング調査)及びトレンチ調査

(現在植林地であり人工改変の可能性もある。また、施工が困難)

b) F−5断層線の連続性確認のための調査及びトレンチ調査の検討

(中・古生層(美濃帯)中の断層のため東海層群や段丘堆積物分布域での連続性把握)

優先順位U

c) b)の結果によるトレンチ調査

図2−2−3−5 県境地質平面図(1/2,500)

注)推定断層の位置については、露頭情報や地形情報に乏しいため地層境界となるものを除き、その位置は数10m程度の幅を含んでいる。