(1)地質概査

1)地質概要

本調査地に分布する地層を表2−2−3−1地質層序表に示す。また関ヶ原断層帯を対象とした調査地の地質平面図(1/25,000)及び関ヶ原断層を対象とした地質平面図(1/10,000)を付図として添付した。

調査地に分布する地質は,古い時代から概ね、以下のように大別される。

@中・古生層堆積岩類(地体構造区分で美濃帯に属する)

(二畳〜ジュラ系)

A第三紀鮮新世〜第四紀更新世(?)の東海層群

B岩屑流堆積物

C段丘堆積物(中位段丘堆積物,低位T・U段丘堆積物)

D扇状地堆積物

E沖積層

F沖積錘

G崖錐

2)地質各説

地質の各説を以下に示す。

@中・古生層(美濃帯)

中・古生層は本調査地の基盤岩となっており、山地を形成し広く分布している。地体構造区分で美濃帯に属する。砂岩・泥岩・頁岩・チャート・石灰岩などからなるが、今回の調査では中・古生層(美濃帯)として一括して扱った。

A東海層群

関ヶ原地域の東海層群の時代については、研究事例が全くない。調査範囲の東側の南部に分布する牧田層(東海層群)と層相が類似しており、本地域の湖成〜河成の堆積物(泥(シルト)、砂、礫)を東海層群とよぶこととした。

関ヶ原周辺地域の東海層群の時代については、三重県員弁地域(鈴鹿山脈東縁)を対象とした竹村(1984)があり、最上位の地層中に挟在する火山灰のフィッショントラック年代から1.2Maを報告している。関ヶ原地域では、鈴鹿山脈東縁の東海層群と同時期もしくは時代的に新しいと推定できる。

調査地の東部では垂井町宮代付近に分布する。淡褐色のシルト、細〜粗粒砂、礫混じりシルトの不規則互層からなる。全体に水平もしくは緩やかな北〜東傾斜を示すが、朝倉運動公園付近では東落ちの急傾斜と東海層群を切る小断層が認められた。

関ヶ原町では東町東部の山地の一部、秋葉山付近と松尾−小関より西に東海層群の分布が見られる。秋葉山付近では確認箇所は少ないが、秋葉山の南西で南落ちの急傾斜が確認され、この北側では、東海層群と中・古生層(美濃帯)が断層によって接している可能性をうかがわせる露頭が確認された。この地域では、東海層群の層厚は数m〜20m程度の可能性が高く中・古生層(美濃帯)を不整合に覆うものと思われる。

松尾山ではシルトと角礫混じりシルトの互層となっており、層理面はほぼ水平となっている。玉付近では東海層群の露出がよく、角〜亜円礫を含むシルト優勢の礫・砂・シルトの不規則互層となっているI。南部では緩やかな北傾斜、北部ではほぼ水平な層理面が観察される。藤古川沿いでは東海層群と中・古生層(美濃帯)が断層によって接していることが観察されたが、より南部にも東海層群の分布が見られこの地域では東海層群は中・古生層(美濃帯)をほぼ水平な不整合で覆う。また、岩倉山の南では中・古生層(美濃帯)と東海層群の不整合が露頭で確認されている。

滋賀県内では伊吹町藤川の左岸に東海層群が認められる。このでは、東海層群はほぼ水平に堆積しているが、岩倉山の北東では層理面の傾斜が南落ち約40°となっている。浅井町小野寺付近にも断片的に分布が認められたが、地層の対比など詳細は不明である

B岩屑流堆積物

伊吹山南西麓に分布する。石灰岩、チャートなどが角礫状〜ブロック状となっている。中・古生層(美濃帯)の組織・構造は残されるが全体に破砕されている。姉川沿いの地域では、この岩屑流の堆積物が流れ山を形成している。岩屑流の発生年代については研究された年代はない。平図的な分布から、中位段丘形成時期よりも古いと考えられる。

C段丘堆積物

段丘面を構成する段丘堆積物は、更新世後期の中位段丘堆積物・低位段丘T・U堆積物と、更新世後期〜完新世の低位段丘V堆積物は分類可能であるが、低位段丘V堆積物は沖積層と層相の差異がなく、地形面の分布も谷底平野内であることから沖積層に一括した。

中位段丘堆積物は、伊吹町大清水の東で炭化物を多量に含む基底部とより上位の角礫混じりシルト〜砂層とが30mを超す厚さで観察された。ただし、堆積物中には下位層を削り込む部分もあり最上部の砂礫層が中位段丘堆積物である可能性がある。最上部にはやや赤色化したローム質シルトが約1mの厚さで覆っている。

低位段丘堆積物は低位段丘T堆積物と低位段丘U堆積物に区分した。堆積物の確認は極一部に限られ、また、地域による差が大きい。低位段丘Tは、藤古川の上流部と関ヶ原町緑が丘と野上付近から垂井町宮代付近に分布する。東部地域では堆積物が確認されないが藤川の上流部では、巨礫を伴う砂礫層が5m以上の層厚をもっていることが確認された。

低位段丘U堆積物は関ヶ原町の平坦部から垂井町にかけての地域に連続している。この地域では関ヶ原町玉地区や相川沿いの地域で層厚5m以下の円礫層が確認されている。滋賀県側では伊吹町弥高地区、伊吹地区や姉川沿いに分布し、浅井町鍛冶屋地区などにも断片的に分布している。

D扇状地堆積物

伊吹山の南麓に広い範囲で分布し、七尾山の南麓〜西麓にも分布する。沖積低地および低位段丘Uとの関係から完新世の堆積物と判断される。伊吹町伊吹では岩屑流を覆う砂礫層が確認され最上位には、50cm〜1mの黒色土壌が見られる。また、浅井町小野寺付近ではシルトや粗粒砂の薄層を挟む亜角〜亜円礫層が見られた。

E沖積層

地域全体の河川や支線の小河川の谷底部に分布する現河床堆積物及び低位段丘V堆積物である。秋葉付近では、秋葉閉塞丘の北側の小河川内には、分布標高が高い沖積層が分布している。河川規模により礫径は異なるが中・古生層(美濃帯)起源の砂岩,泥岩,チャート,石灰岩の亜角〜円礫やシルト・粗粒砂で構成される。

F沖積錐

調査地西方の山地と平地の境界部に分布が限られる。淘汰の悪い礫混じりシルトで構成される。

G崖錐

地域全体の山地と平地の境界部に分布する。秋葉付近では中・古生層(美濃帯)の中に刻まれた谷にも分布する。また、松尾山の東では推定断層線付近にやや厚い崖錐が分布している。淘汰の悪い礫混じりシルトで構成される。

3) 断層露頭及び断層の存在を示唆する露頭

地質概査では、関ヶ原断層帯を構成する4断層により形成されたと考えられる断層断層露頭や断層の存在を示唆する(破砕帯や時代の異なる地層の近接)露頭が26箇所確認できた。図2−2−3−1−1図2−2−3−1−2にこれらの露頭位置を示し、表2−2−3−2に断層露頭等の概要を示す。表2−2−3−2では、関ヶ原断層帯を構成する4断層ごとに仮に区分して示した。

図2−2−3−1−1図2−2−3−1−2及び表2−2−3−2から、関ヶ原断層と宮代断層については多くの断層の分布を示す根拠となる露頭が発見できたが、鍛冶屋断層・醍醐断層については、多くの情報は得られなかった。

発見された露頭の内、第三紀鮮新世〜第四紀更新世の東海層群を変形させている断層露頭は、6カ所(Sk3,5,19,My3,4,5)である。

Sk3及びSk5は東海層群と中・古生層とが断層関係で接している。Sk3については、断層面を定位段丘堆積物が覆い、低位段丘基底面に変位を与えていないことが確認できている。

My3は、東海層群を切断する小断層群であり、箇々の断層変位は20cm以下と小さいものの、東海層群の構成層をすべて同一センス(断層面の走向傾斜:N28〜40W,56〜68S)で切断しており、構造運動に伴う断層群であると考えられる。これらの3露頭は重要露頭であると考え露頭観察カードを作成した。

中・古生層中の断層露頭については、Kj1は鍛冶屋断層と考えられる唯一の露頭であり、杉山ほか(1994)の報告と比較して、破砕帯の規模が大きいことが判明したので露頭観察カードを作成した。関ヶ原断層に関するSk7と宮代断層に関するMy1も重要露頭と考え露頭観察カードを作成した。また、Sk4は断層の走向傾斜が段丘崖の方向と整合的に見えるので重要露頭と考え露頭観察カードを作成した。

露頭観察カード作成箇所一覧を表2−2−3−3に示す。

図2−2−3−1−1 断層露頭及び断層の存在を示唆する露頭位置(1/2)

図2−2−3−1−2 断層露頭及び断層の存在を示唆する露頭位置(2/2)

表2−2−3−2 断層露頭及び断層の存在を示唆する露頭の概要

表2−2−3−3 露頭観察カード作成箇所一覧

4) 第四紀層を変位・変形させている断層露頭

断層変位地形の連続する推定断層線上及び近傍で、第四紀の地層(東海層群以降の地層)が切られる断層が確認されたのは、関ヶ原断層に関連するSk3(露頭観察カード2)、Sk5(〃4)、Sk19の3箇所と宮代断層に関連するMy3(〃7)、My4、My5の3箇所の合計6箇所である。また、東海層群と中・古生層の近接露頭(Sk8)があり、その近傍に顕著な破砕帯が存在するSk7(〃5)についても、確実に東海層群を変形させていると考えられる。

Sk19、My4、My5については東海層群中の一条の小断層であり、詳細な記載は省略する。

以下に、Sk3、Sk5、Sk7、My3の第四紀層を変位させている断層露頭の状況を記載する。

@ Sk3(露頭観察カード2参照)

伊吹町藤川で見られた断層露頭Sk3は、杉山ほか(1994)「柳ヶ瀬−養老断層系ストリップマップ」に示された断層露頭である。断層面の走向傾斜はN78W,22Nである。

低角な断層面の下位には東海層群の砂礫・シルト互層が分布し、断層面から5〜15cmの範囲は粘土化している。断層面の上位には中・古生層泥岩(美濃帯)が衝上している。

断層面の北側に分布する中・古生層泥岩は、著しく破砕し粘土化〜土砂化している。断層露頭の北側では東海層群は分布せずこの断層が中・古生層(美濃帯)と東海層群の境界断層となっている。東海層群に大きな変形は見られないがこの地点から南へ数十m間の東海層群では最大40°の南傾斜が見られる。

この露頭の西側には、低位段丘U面上に段差地形が存在し、断層の走向方向と調和的であるが、断層との関係は明らかではない。

A Sk5(露頭観察カード4参照)

関ヶ原町玉地区でみられた断層露頭Sk5は、北側に東海層群の砂礫・シルトの互層が分布し、N20°W,63°Nの断層面を挟んで、南側には中・古生層(美濃帯)の砂岩・泥岩が分布している。断層面には未固結の断層粘土が確認されている。断層は上位の砂礫層に覆われ、この基底を変位させていない。砂礫層は地形区分から低位段丘Uもしくは、これをわずかに削り込んだ堆積物であると考えられるためこの断層の完新世の活動はなかったと考えられる。この断層は東海層群と中・古生層(美濃帯)の境界となっているが、これより南の地域にも東海層群が分布しており、この断層は北落ちの正断層として活動した可能性が高い。

B Sk7(露頭観察カード5参照)

関ヶ原町玉地区でみられた断層露頭Sk7は、中・古生層中の断層露頭である。Sk7の下流側には東海層群と中・古生層の近接露頭(Sk8)が存在しており地質境界となる境界断層がSk8付近に推定される。Sk7は境界断層の活動により派生した断層及び破砕帯の一部をみているものと考えられる。

断層露頭では、3条の暗灰色の断層粘土が確認された。断層粘土の走向傾斜は、N50W,70Nであり。

この付近では、破砕された中・古生層や中・古生層中の小断層を多くみることができる。

C My3(露頭観察カード7参照)

垂井町宮代地区でみられた断層露頭My3は、東海層群中の小断層群の露頭である。My3では、東海層群を構成する砂・シルト・砂礫層を系統的に各々20cm以下の変位量で切っており、2mm以下の断層粘土しかもたない3〜4条の小断層と5〜15cmの厚い断層粘土を有する比較的変位の大きい1条の断層が観察できる。断層面の走向傾斜はN22〜40W,56〜68Nとすべて系統的である。

断層粘土の薄い小断層は、いずれも逆断層のセンスである。

断層粘土の厚い断層の変位量は、断層面の下位にある砂層を切っているが、露頭の範囲内では切られた砂層に連続する葉理が認められないため、1.5m以上の変位があるものと考えられる。

これら第四紀層を変位・変形させている断層は、いずれの断層露頭でも第四紀更新世後期の堆積物を切っていない、もしくは堆積物が存在しない。

そのため、地形調査(空中写真判読)及び地質調査(概査)の結果から、断層の更新世後期の活動性を評価することは困難である。

4) 地質精査地区の検討

地形調査(空中写真判読)及び地質調査(概査)の結果から、関ヶ原断層の通過位置が絞り込める可能性が高く、かつ、断層線周辺に第四紀更新世後期の堆積物が分布する地区を地質精査地区として4地区を選定した(精査範囲:

5.4km2以上)。地質精査地区は、主にその後のボーリング調査やトレンチ調査の候補地となる。

@《秋葉・丸山地区》

この地区では、地形情報として閉塞丘,鞍部,河川の屈曲などの断層変位地形が得られた。地質情報としては、断層の存在を示唆する東海層群と中・古生層の近接や中・古生層中の破砕帯や小断層が確認された。また、推定される断層線を覆い低位段丘面や谷底平野が分布することが確認できた。特に、秋葉閉塞丘の北側谷部では、地形情報から断層の存在が確実視され、これを覆って沖積層が存在しており、トレンチ候補地となる。

また、断層変位地形や断層露頭は認められないものの、既存ボーリングデータや地質分布から秋葉閉塞丘,丸山閉塞丘の前縁に断層が推定できる。

A《笹尾山地区》

この地区では、地形情報として鞍部,河川・尾根の屈曲などの断層変位地形が得られた。地質情報としては、笹尾山トンネルの通過する尾根部やトンネル東側坑口の東部で断層の存在を示唆する東海層群と中・古生層の近接が確認された。また、既存ボーリングデータから推定される断層線を覆って低位段丘が分布するが地形面には変位地形は認められない。

B《玉地区》

この地区では、地形情報としては鞍部や河川の屈曲以外に明瞭な断層変位地形は確認できない。地質情報としては、東海層群と中・古生層が接する断層露頭や、東海層群と中・古生層の近接露頭、及び中・古生層中の断層破砕帯が確認されている。これにより、2条の断層が推定されている。また、これらを覆って低位段丘が分布する箇所が存在する。また、断層との関係は現時点で判明していないが、推定される断層線付近に中位段丘も分布している。

C《県境地区》

この地区では、地形情報として断層鞍部,河川・尾根の屈曲などの断層変位地形が得られた。地質情報としては、東海層群と中・古生層が接する断層露頭(杉山ほか(1994)にも記載)や中・古生層中の断層及び東海層群と中・古生層の近接が得られた。また、断層との可能性は不明であるが、低位段丘が分布している。