7−2 活動性評価

本調査で明らかとなった断層の活動性について、これまでに得られている既存資料とあわせて、活動時期と平均変位速度に着目して以下にまとめる。

(1)活動時期
No.1−2地点間に見られる鉛直変位は、表7−1−1に示したように第2礫層より下位の地層においておおむね同じとなっている。これより、断層:Aの活動は第2礫層(立川礫層相当層)堆積後であり、約2〜1.5万年前以降であると考えられる。しかし、第3礫層下面の標高差が第2礫層以深における鉛直変位量とほぼ同じことより、その活動は完新統に推定される第3礫層の堆積時あるいはそれ以降、すなわち完新世(約1万年前以降)の可能性もある。

No.3−4地点間に推定される断層:Bの活動は、第2礫層下面を変形させていることより第2粘土層堆積後であり、完新統に対比される第4礫層(=第3礫層)の下面に変形が見られないことよりその堆積前と考えられる。したがって、その活動年代は約20,000yBP〜1万年前ころと推定される。

一方、撓曲崖の形成に密接に関係すると考えられる断層:C、Dの活動に関しては、変形を受けた第1礫層(櫛挽礫層)とそれを覆う第2粘土層以降の地層との関係が明確でないため、櫛挽面形成期(約6〜8万年前)以降における活動時期は不明である。

なお、堀口萬吉(1997)などによると、埼玉県北部の妻沼低地では9世紀を指示する地震の存在が、遺跡面の変状や噴砂現象などによって指摘されている。この時期の関東地方における地震記録としては、歴史資料より818年(弘仁9年)と878年(元慶2年)が挙げられており、ここに指摘されている地震がこれらのいずれかに対応する可能性があるとされている。当調査地周辺で発掘調査された岡部条里遺跡においても、8世紀初頭の遺構を切る噴砂現象が確認されている(岡部町教育委員会発掘担当者私信による)が、本調査では9世紀ころの地震活動に関する情報は得られなかった。今後、トレンチ調査などによって、深谷断層の活動履歴についてより詳細に検討する必要がある。

(2)平均変位速度
平成10、11年度における活断層調査結果や、Yamazaki(1984)によって得られている深谷断層の平均変位速度に関する情報をまとめて示すと以下のようである。

1地形面の変形による推定
Yamazaki(1984)は熊谷市三ケ尻から岡部町岡地域にかけて、断層変位を伴う御陵威ケ原面と櫛挽面などの地形面を識別し、それぞれ立川面と武蔵野面に対比し、各地形面の鉛直変位量が3.6〜6.0m、4.5〜14mであることを明らかにしている。また、各段丘面の形成時期を約20,000〜15,000yBPと80,000〜60,000yBPとして、それぞれの平均変位速度を0.4および0.23m/1000yと算定している(Yamazaki,1984)。

なお、これらの地形面の鉛直変位量は、平成10年度に実施した空中写真判読においてもほぼ同様の結果が得られている。

2基準ボーリング(深谷1孔:深谷市緑が丘地区)結果による推定
平成10年度に深谷市内で実施した基準ボーリングでは、深度142.3m付近に10cm厚のガラス質火山灰が確認された。この火山灰は火山ガラスの屈折率分析などより、柿ノ木台1、笠森5、鳴尾浜 IV などの広域火山灰に対比される可能性があるとされ、各火山灰の噴出年代は町田ほか(1980)や吉川ほか(1993)などより、それぞれ約60万、40万、30万年前と推定されている。また、古地磁気測定結果によると深度120〜150m付近に地磁気が逆転する傾向が見られ、そのイベントが31万年前ころのLevantineイベントに対比される可能性が高いことより、この火山灰は約30万年前の鳴尾浜 IV に対比される可能性がある。一方、VSP探査結果を踏まえて再解析された深谷P波測線における反射断面(図7−2−1)より、この火山灰層準の鉛直変位量は少なくとも85m以上と推定される。これらより、その平均変位速度は(0.14〜)0.28m+/1000yと算出される。

3群列ボーリング(岡部町岡地区)結果による推定
群列ボーリング調査で確認された各地層の標高分布(表7−1−1)をもとに、No.1〜No.4地点間におけるそれぞれの標高差を鉛直変位量とし、Yamazaki(1984)による段丘構成層の形成年代を用いて平均変位速度を算出した。その結果、立川面構成層(第2礫層下面)では0.27〜0.36m+/1000y、武蔵野面構成層(第1礫層下面)では0.30〜0.40+m/1000yなどの平均変位速度が得られる。ただし、武蔵野面構成層の鉛直変位量はNo.1地点と既存ボーリング資料(OK−A3)間における標高差としたが、前述したように武蔵野面の鉛直変位量はそれを上回るものと推定される。また、第3礫層下限面を完新世の基底面と仮定した場合の平均変位速度は0.28m/1000yとなる。

以上に示した各種の方法で求められた平均変位速度は表7−2−1に示すように、おおむね0.3〜0.4m/1000yとなり、断層の活動度はB級となる。

図7−2−1 VSP探査結果を考慮した深谷P波測線の反射断面

表7−2−1 平均変位速度一覧表