3−4 ボーリングコアに認められたテフラの検討

本ボーリングコア中ではおよそ30箇所においてテフラが認められた。これらは、GL−113.9〜114.45m(標高−73.52m)付近に認められたガラス質火山灰を除けば、ほとんどは白〜黄白色の軽石である。全体的に、肉眼観察においては際だった特徴のあるものが認められなかったことから、これらテフラの特定には、火山ガラスの屈折率測定等室内分析が必要である。

室内分析を行った試料は次の3試料である。これらは、本調査においては最もしっかりとした層を形成している。@GL−114.20、AGL−131.45m(標高−73.82m、−91.07m)付近の軽石、BGL−142.32m(標高−101.94m)付近に挟在するガラス質火山灰(表3−4−1)。

@GL−113.9〜114.45m(標高−73.52〜−74.07m)付近に認められたガラス質火山灰は、非常に細粒であり、全体が火山ガラスから構成されることから広域火山灰であることは確実であると考えられ、本ボーリングに年代指標を与える最も重要な鍵層である。本ガラス質火山灰は、顕微鏡下ではバブルウオール型のガラスを主体とし、繊維状のガラスも少量含まれる(写真参照)。

本調査により分析を行ったテフラは、いずれも深度、ボーリング付近で行った物理探査の結果より更新世中期テフラである可能性が大きい。テフラの特定に際しては、これらも参考にした。また、テフラの供給源に関しては、GL−113.9〜114.45m(標高−73.52〜−74.07m)で認められた軽石は直径が最大で30mmにも達することから、供給源が相当近いと推定される。

分析結果を表3−4−1に示す。

@GL−114.20m付近(標高−73.824m)

gl、opx、hoの屈折率は、それぞれ1.504〜1.501、1.706〜1.710、1.671〜1.675を示す。

AGL−131.45m付近(標高−91.074m)

gl、opx、ho、cmの屈折率は、それぞれ1.504〜1.507、1.700〜1.713、1.674〜1.678、1.662〜1.664を示す

いずれの軽石も、榛名起源と考えられる。特に、GL131.45m付近に挟在する軽石は、特徴的にカミングトン閃石が含まれることから榛名山起源であることは確実であると考えられる。

BGL−142.32m付近に挟在するガラス質火山灰

GL−142.32m(標高−101.944m)付近に挟在するガラス質火山灰の火山ガラスの屈折率は1.502〜1.5041を示し、有色鉱物をほとんど含まない。対比されるテフラの候補は、上総層群中の柿ノ木台1または、大阪層群の加久藤とクリスタルアッシュの間にあると考えられている鳴尾浜Wが挙げられる。候補に挙げる根拠は以下に記す。なお、柿ノ木台1、鳴尾浜Wそれぞれの絶対年代は、およそ30万、60万年前である。

表3−4−1 テフラ分析表

a)上総層群、下総層群と柿ノ木台1テフラ

房総半島に分布する上総層群と下総層群は、新第三紀鮮新世末期から第四紀中期更新世中期に形成され、地層の欠落が少なく、ほとんど連続した深海相〜浅海相の堆積物の重なりからなっている。また、両層群は微化石をはじめ貝や植物の化石を含み、ほかの地域の第四系や深海底コアとの生層序学的な対比が可能である。上総・下総層群は下位から国本、柿ノ木台、長南、笠森、地蔵堂、藪、清川、上岩橋、木下、姉崎層からなり、それらには多くの広域火山灰が挟在する(図3−4−1)。この中で、柿ノ木台層に認められる柿ノ木台1(Ka1)テフラのガラスの屈折率は、本調査において認められた広域火山灰のガラスの屈折率(1.502〜1.504)と酷似する(表3−4−2)。

b)大阪層群中の鳴尾浜Wテフラ

大阪盆地周辺に分布する大阪層群は、最上部鮮新統〜中部更新統にいたるまで地層の欠落が少なく、ほとんど連続した河成〜湖成の砂礫〜粘土からなる。12枚の海成粘土、50枚以上のテフラ層が挟在し、日本における陸水成層が主体の鮮新〜更新統の標準層序とされている。この中で、中〜上部更新統のMa9とMa10の間に挟在する鳴尾浜W(図3−4−2表3−4−3)は、本調査において認められらた広域火山灰と特徴が酷似する。

図3−4−1 上総・下総層群と大阪層群の対比(町田ほか1980より引用)

図3−4−2 大阪平野の中期更新統から完新統の模式火山灰層序(吉川ほか1993より引用)

表3−4−1 テフラの分析結果表

表3−4−2 房総半島北部の上総層群にみられる中期更新統中のテフラの特徴(町田ほか1980より引用)

表3−4−3 中期〜後期更新世火山灰の岩石記載的性質(吉川ほか1993より引用)

写真 深度142.32m付近で認められたガラス質火山灰

未分析のテフラ試料

現段階において室内分析を行ったテフラは3試料のみである。今後、未分析の試料に関しても室内分析が必要と考えられる。これら未分析のテフラは、火山灰アトラス(町田・新井1992)等を参照すると,以下のテフラと対比される可能性がある(図3−4−3図3−4−4図3−4−5図3−4−6表3−4−4−1表3−4−4−2表3−4−5表3−4−6)。

@関東に分布するテフラ

a)第四紀後期テフラ

・浅間山起源;As−A,As−B,As−C,As−YP,As−OK,As−Sr,As−BP

・赤城山起源;Ag−KP

・榛名山起源;Hr−HP

・箱根山起源;Hk−KIP7

b)第四紀中期テフラ

・赤城山起源;MoP(真岡)

A広域テフラ

a)第四紀後期テフラ

・御岳起源;On−Ng

・姶良カルデラ起源;姶良Tn

b)第四紀中期テフラ

ゴマシオ1、ベージュ、Tll−58up、TE−5、笠森5、笠森10、笠森11、笠森18、笠森22、長南1、長南2、長南3、柿の木台1、柿の木台2.6A、柿の木台2.6B、国本0.2、国本1、国本3、国本5A、国本6C

図3−4−3 中部・関東地方の完新世主要テフラの等層厚線図

図3−4−4 中部・関東地方の後期更新世主要テフラの等層厚線図

図3−4−5 中部・関東地方の後期更新世主要テフラの等層厚線図(その2)

図3−4−6 中部・関東地方の後期更新世主要テフラの等層厚線図(その3)

表3−4−4−1表3−4−4−2 第四紀後期テフラ(浅間、榛名、赤城、日光、北関東)

表3−4−5 中部・関東地方における更新世中・前期の大規模テフラ

表3−4−6 遠隔地から飛来したと考えられる中期更新世細粒ガラス質テフラ