(3)分析結果

検鏡した120試料中、98試料から珪藻遺骸が産出した。残り22試料からは、一部に植物珪酸遺体が産出するものの、珪藻遺骸は産出しなかった。

以下に示す43属を含む72種群に識別する。なお、その結果表を巻末にまとめて示す。

Achnanthes, Actinocyclus, Amphola, Aulacoseira,

Chaetoceros, Cocconeis, Coscinodiscus, Cyclotella, Cymbella,

Denticulopsis, Diatoma, Diploneis,

Endicutia, Epithemia, Eunotia, Fragilaria, Frustulia,

Gomphonema, Gyrosigma, Hannaea, Hantzschia, Hyalodiscus,

Mastogroida, Melosira, Meridion, Navicula, Neidium, Nitzschia,

Opephora, Paralia, Pinnularia,

Rhoicosphenia, Rhopalodia, Rhizosolenia,

Stauroneis, Stephanodiscus, Synedra, Surirella,

Tabellaria, Thalassionema, Thalassiosira, Thalassiothrix,

Triceratium

関東平野中央部珪藻部ループ(1994)は57属(318種群)を報告している。今回主だった属は共通するものであり、種群は細分せず、不都合が生じない限りなるべくまとめる方向とした。

種の同定ならびに生態情報については、主に小杉(1988)、関東平野中央部珪藻グループ(1994)、小島他編(1996)、Round et al. (1990)、 Sims ed. (1996)を参考にした。

主要構成種属は以下の通りである。

・優先種群

 淡水着生種

  Pinnularia (P. viridis, P. gibba, P.microstauron, P. borealis 他多数;好酸性),

  Cymbella属(C. minuta, C. tumida, C. turgidula,他;好アルカリ性)、

 内湾浮遊生種

  Cyclotella striata, Paralia sulcata,

・付随種

 淡水好止水種群

  Auloacoseira属 (主にA. ambiqua,試料によってA. glanulata, A. varidaも付随)、

  Synedra属(S. uluna, S. acus, S. inaequalisなど)、

 淡水着生種の

  Eunotia属(好酸性,コケなどに付着して湿原・湖沼で出現)、

  Rhopalodia属 ( R. fmusculus, R. gibbaなど;好アルカリ性)、

  Surirella(好アルカリ性)、

  Fragilaria属,Gomphonema 属(好止水性)

小杉(1989)は、東京湾小櫃川河口付近で設定された環境指標種群(小杉,1986,1988)をもとに、古奥東京湾(古利根川流域)の縄文海進時(およそ5000〜11000年前)の古塩分濃度変遷を明らかにした。その中で、今回の調査地域に最も隣接する元荒川流域のSK−1では、標高0m付近〜−33m付近で30‰程度の古塩分濃度が復元されている。これは、

Paralia sulcata, Cyclotella striata, Thalassiosira spp. Chaetoceros spp.など、内湾指標種群の卓越で特徴づけられる層準に相当し、今回の調査での以下の試料が同程度の堆積場を示唆する。

b`−1孔:30.05−30.15m, 62.50−62.60m,135.15−135.25m, 136.60−136.70m,

     138.15−138.25m, 183.60−183.70m, 205.6−205.7m

b`−2孔:17.00−17.10m, 55.70−55.80m

b`−3孔:53.50−53.60m

b`−4孔:22.60−22.70m, 59.60−59.70m, 62.00−62.10m, 63.60−63.70m

ba−4孔:12.30−12.40m。

このうち、

b`−2孔:17.00−17.10m,b`−4孔:22.60−22.70m,ba−4孔:12.30−12.40m

では、Aulacoseira や Pinnularia などが相当量含まれ、河川から流入したものと解釈でき、河口流軸付近の堆積場が示唆される。また、Melosira sp.nは小杉(1988)が泥質干潟の着生種として見いだしていた種であることからも、上記層準はいずれも内湾的要素が強い。

ba−4孔では、12.30−12.40mから Pseudoeunotia doliolus (約2.1Ma〜現在)が、1個体産出した以外は、一般に示準化石として利用されている珪藻種群は産出しなかった。

なおb`−1孔の138.15−138.25mで認められた Denticulopsis ichikawae は、中期中新世初期の地層から産出することが報告されている(Yanagisawa and Akiba, 1990)化石種で、後背地より再堆積したものと考えられる。