7−5 再来間隔と地震規模について

大原断層の最新活動時期が平安時代中期であることは、トレンチ調査で明らかになり、それはAD868年の播磨地震に相当することがほぼ確実になったが、その一つ前の活動が不明なため、再来間隔については判然としない。しかし、概略の値としては、次の式で出すことが可能と考えられる。

R=YO÷ΣD/D

R ;再来間隔(年)

YO ;低位段丘形成期以降の年代(年)

ΣD;低位段丘形成期以降の変位量(m)

D ;単位変位量(m)

今回の調査で、YO=30,000年、ΣD=30m、D=2mと推定できることから、R=2,000 年となり、再来間隔は約2,000年と推定される。

次に、大原断層の地震規模を推定する。

代表的な経験式として、松田(1975)によるマグニチュード(M)と地震断層の長さ(L;Km)および変位量(D;m)との関係式を使用する。

Log L=0.6M1−2.9 ・・・・・・・・・・・ 式1

Log D=0.6M2−4.0 ・・・・・・・・・・・ 式2

断層の長さをAランクのリニアメント(L=26Km)に限定すると式1から

M1=(Log 26+2.9)/0.6=7.19

変位量をD=2mとすると式2から

M2=(Log 2+4.0)/0.6=7.17

となり、断層の長さおよび変位量から推定される地震規模はM=7.2で、ほぼ一致する結果となった。ただし、ここで使用した変位量は最新活動時の変位量で大原断層における最大変位量ではない可能性もあるが、測定位置が大原断層の中央に近いことから最大変位量相当として取り扱うこととした。

また、佐藤他(1989)によるマグニチュード(M)と震源断層の総延長(L:km)及び食い違い量(U:cm)との関係式では、

Log L=0.5M3−1.88 ・・・・・・・・・・・ 式3

Log U=0.5M4−1.40 ・・・・・・・・・・・ 式4    

M3=6.5

M4=7.40

となり、松田(1975)で求めた値と比較して長さでは小さめの値に、単位変位量では大きめの値となっている。

なお、地表地震断層は震源断層の一部が地表に現れたものであり、式1と式3では断層の長さが異なる可能性もあるが、今回は、地表地震断層の長さと震源断層の長さがほぼ等しいものと仮定して上記経験式を使用した。ここで用いた断層の長さ(L)は大原断層のみを対象としたもので、地震規模を推定する際には大原断層を含む山崎断層系全体の活動として捉えるべきであり、その連続性から@大原断層−土万断層 A大原断層−土万断層−安富断層 をそれぞれ一連の断層として取り扱うことも重要であると考えられる。

@大原断層−土万断層では長さ約L=30km A大原断層−土万断層−安富断層では長さ約L=50kmとなる。L=50kmでは、松田(1975)の式でM=7.66、佐藤他(1989)の式でM=7.15となり、長さの取り方によってはかなり異なった値になる。このため、地震規模については、現在活動様式や起震断層としての長さで解明されていない点が多く、今後更に検討を重ねていく必要がある。兵庫県南部地震(1995,M=7.2)でも、明石海峡付近の地下10数kmから破壊が始まり、野島断層へと伝搬していったが、数秒遅れて、六甲山地南麓の断層が動いたとされている。このような現象は地震規模に大きく関与することになる。長く延びる活断層帯の場合は、一どきに動く断層線の区間、数秒後以降に活動する断層線の区間、破壊の開始点など未解明の重要な事柄が残されている。これらは地表踏査やトレンチ発掘調査だけでは推定困難であり、地下構造探査や地震学的究明など関連分野の結集が必要である。

大原断層の諸元をまとめると表7−5−1の通りである。