7−4 断層運動の変位量および変位速度

大原断層の運動センスは左横ズレであるため、トレンチ壁面では変位量が推定できないことから、最新の活動を示す地層であるG2層上部を断層に沿って水平に掘削し水平横ズレ変位量を求めた。

 図7−4−1 に西町Cトレンチのスケッチ図を示すが、G2層に挟在する砂層と砂礫層の境界が、断層を挟んで1.6m左横ズレていることが判明した。この値は、砂層と砂礫層の境界線を計測したもので、砂層の引きずりや古流向に沿う湾曲などを考慮すると約2mが妥当と考えられる。計測したG2層上部の14C年代は1570y.BPを示しており、この変位量を最新活動時の変位量と解釈した。

 次に、低位段丘形成期(数万年前)以降の変位量を推定するため、@岩盤の変位 A旧河道の変位B近隣に分布する低位段丘面の変位について検討することとした。

@西町における岩盤上面の変位量を推定するため、今回ボーリング結果およびトレンチ結果、既往ボーリング結果から推定される岩盤上面等高線図を作成した(図7−4−2)。低位段丘形成期後に傾斜した同一地点の岩盤が水平に変位した場合、断層を挟んで北側と南側の岩盤上面の同一標高地点間が低位段丘形成期以降の概略変位量と考えた。岩盤上面の形状が凹凸に富んでいることも予想されるが、概略の変位量としては約30mが妥当であると考えた。

また、トレンチ地点における岩盤の見掛けの垂直変位が約3.9mであり、断層と平行方向の岩盤上面の傾斜が約7.5°であることが調査結果から判明している。

この値を単純な水平横ずれモデル(図7−4−3に当てはめると、変位量ΣDはΣD=tan82.5×3.9≒30m となる。

南側ブロック 3.9m

北側ブロック

岩盤上面

7.5°

変位量約30m

A次に、旧河道の西端の変位を検討するため、氾濫原堆積物(河床堆積物)の分布を断層を挟んだ北側と南側で断面図として示した(図7−4−4)。この図では低位段丘堆積物の分布が把握できていないためG3層上面を図示しているが、氾濫原堆積物の分布を把握することで旧河川の分布範囲を推定するものである。実際にはG3層堆積時の河床分布域であるため、その当時の河川形態を推定するに過ぎないが、断層を挟んで極近接した堆積物の分布のずれは河川の屈曲量に概ね相当するものと推定した。

図7−4−5の平面分布から屈曲量を約30mと見積もった。             

Bまた、近隣地域の低位段丘面を見ると、西町の西方約1.5kmに位置する中町の後山川左岸に分布する低位段丘面(LU面)の山側境界部(段丘崖)で約30m左横ずれしていることが地形地質調査で判明しており、低位段丘形成期以降の変位と見なすことができる(図7−4−5)。これは西町における低位段丘面の変位ではないので上記@Aの検討とは若干意味が異なるが、西町から1.5kmと近く、断層運動としては一連の動きをしていたと見なせることから本検討に加えたものである。尚、この中町のLU面の時代については地質年代試料が得られていないので正確な時代は把握できていないが、西町と中町の中間付近に分布する低位段丘(分布はきわめて狭い)の道路切り割りから姶良火山灰(AT)*1に相当する火山灰層が産出すること、この段丘面が中町のLU面に対比できることから、中町の低位段丘形成時期を20,000〜30,000y.BPと推定した。

以上の検討の結果、低位段丘形成期以降の横ずれ変位量は概ね30mが妥当と考えられる。その形成時期を30,000y.BPとすると平均変位速度SはS≒30m/30,000年≒1m/1,000年なり、大原断層をA〜B級の活断層と推定できる。

断層運動の変位量及び変位速度をまとめると次の通りである。

大原断層の単位変位量(最新活動時)D     D=約2m

    低位段丘形成期以降の変位量ΣD  ΣD=約30m

平均変位速度 S   S=約1m/1000年

    (A〜B級活断層相当)

姶良火山灰(AT):南九州姶良カルデラから約25,000〜24,000年BPに噴出した降下火山灰で、日本列島とその周辺を覆う世界有数の広大な分布域をもつ。(新版地学事典:1996より)

図7−4−4 断層両側の氾濫原堆積物の高度分布

図7−4−5 旧河川西端の推定屈曲量

図7−4−6 大原町中町における低位段丘面の左横ずれ変位量