7−3 大原断層の活動時期について

西町A´トレンチ観察の結果、大原断層が変位を与えている地層は砂礫層主体であるため判然としないところもあるが、最新活動を示す地層は砂礫層G2層であり、一部で直上のG3層下部層に変位を与えている可能性もあることが判明した(図7−3−1@)。

次に、活動を示唆する地層の変形をみると、断層面付近でS1層が複雑に変形しておりS1層堆積後に何度となく活動したことが伺える(図7−3−1A)。また、鮮明ではないがS1層上部の砂礫層中の礫が断層に向かって再配列しているように見え、G2層堆積中に活動があった可能性も残されている(図7−3−1BC)。

西町における地質層序及び14C年代を表7−3−1及び図7−3−2に示す。最新活動を示す地層であるG2層の14C年代が1570〜4820y.BP、G3層の14C年代が910〜1260y.BPを得ており、変位を受けているG3層下部層が1260y.BPとすると最新活動時期はAD700年以降、AD1040年以前となる。この時期の歴史地震(宇佐美:1996)についてみると、播磨地震がAD868年に発生しており、西町トレンチに現れた最新の変位は播磨地震に該当する地震によって引き起こされたものと判断される。

また、S1層直上部の砂礫層(G2層)が変形されているとすると、1570〜4820y.BP間に別の活動が起こっている可能性もある。しかし、この変形が最新の活動で起きていることも十分考えられるため、積極的な証拠にはなり難いものである。

図7−3−1 西町トレンチにおける堆積物の変形、変位 図7−3−2 西町トレンチ断層付近土層断面図  山崎断層系の最新活動時期については岡田他(1987)、安藤他(1986)、遠田他(1995)によってその時期を限定しかつ最新活動を播磨地震(AD868)に対応させているが、今回の調査においても同様の結果となっている(図7−3−3−1)。次に、西町における最近の地質構造の変遷について検討する。

図7−3−3−2に変遷の模式図を示す。        

西町のトレンチ調査地域で大原断層によって変位を受けている最も古い堆積物は、北側ブロックの岩盤直上に分布するG1層(砂礫層)で、そのG1層内最下部の粘土層(M1層)の14C年代は30,000〜39,000y.BPを得ている。この年代は低位段丘形成時期に相当するが、この時期には岩盤が露出していたかあるいは低位段丘堆積物より古い堆積物を全て削剥してしまったと考えられる(図7−3−3−2@A)。低位段丘堆積物の堆積後、大原断層の左横ずれに伴い岩盤と低位段丘堆積物の間に見掛け上の落差が生じると共に岩盤内の軟らかい断層粘土と段丘堆積物の砂礫層が接するようになる(図7−3−3−2B)。その後、低位段丘堆積物の表層は浸食され、5000y.BP頃から現在に近い河床堆積物(氾濫原堆積物:G2層、G3層)が低位段丘の上位に堆積する。断層の左横ずれは更に進み、見掛け上の落差は大きくなると共にG2層及びG3層の一部と断層粘土が接することになる(図7−3−3−2C)。

断層の左横ずれの運動が低位段丘形成期以前から続いていたことは中位段丘面の横ずれ変位により明らかであり、トレンチ付近では横ずれに伴う岩盤の崖地形を形成した可能性もある。しかし、軟らかい断層粘土と段丘堆積物の間に古期の崖錐堆積物や表土を挟在していない状況から判断して、低位段丘形成期には顕著な崖地形は無かったものと推定される。以上の検討結果から、西町で認められる堆積物等の地盤の変位は概ね低位段丘形成期以降(30,000y.BP以後)の断層運動によって生じたものと解釈できる。

@低位段丘形成期以

(39000y.BP以前)

岩盤が露出しているか堆積物が削剥された状態。

断層粘土は岩盤内に存在。

A低位段丘形成期

(20000〜39000y.BP頃)

低位段丘堆積物が岩盤状に堆積する。

B低位段丘浸食期

(5000〜20000y.BP頃)

左横ずれ運動により岩盤と低位段丘堆積物の間に見かけ上の落差が生じる。図内の点部分で砂礫層と断層粘土が接する。

C最新活動期

(1100〜1300y.BP頃)

低位段丘堆積物がS1層上面まで浸食され、その後氾濫原堆積物G2層及びG3層の一部が堆積する。

左横ずれが進行し、見掛けの落差は更に大きくなると共に断層粘土はG3層と接するようになる。

図7−3−3−2 西町の地質構造変遷模式図