(3)火山灰分析

1) 原 理

火山から噴出した火山灰は、その時点における地表あるいは水中(湖沼、内湾、海洋)に上空から降り注ぎ堆積する。多少の時間的な差を無視すれば、火山灰が堆積するのは地質学的には同時といってよい。従って離れた地域の地層の中に同一の火山灰が見いだされれば、その火山灰が挟まれる地層の岩相に関わりなく、火山灰の直下の地層面は同時に存在していたことになる。いま離れた地域でお互いに連続して堆積している地層中に同一の火山灰が挟まれているなら、少なくとも火山灰の直下に存在している地層は同時期に堆積していたということができる。このことを利用すれば、調査地点ごとに得られた柱状図中に同一の火山灰を見いだすことにより同時期の地層を識別することができる。

2) 試料の分析方法

T 前処理

まず半湿潤状態の生試料を適宜採取秤量し、50゚Cで15時間乾燥させる。乾燥重量測定後、2リットルビーカー中で数回水替えしながら水洗し、そののち超音波洗浄を行う。この際、中性のへキサメタリン酸ナトリウムの溶液を液濃度1〜2%程度となるよう適宜加え、懸濁がなくなるまで洗浄水の交換を繰返す。乾燥後、篩別時の汚染を防ぐため便い捨てのフルイ用メッソュ・クロスを用い、3段階の篩別(60,120,250mesh)を行い、各段階の秤量をする。こうして得られた120〜250mesh(1/8〜1/16)粒径試料を比重分別処理等を加えることなく、封入剤(Nd=1.54)を用いて岩石用薄片を作成した。

U 全鉱物組成分析

前述の封入薄片を用い、火山ガラス・軽鉱物・重鉱物・岩片・その他の5項目こついて1薄片中の各粒子を無作為に200個まで計数し含有粒子数の量比百分率を測定した。

V 重鉱物分析

主要重鉱物(カンラン石・斜方輝石・単斜輝石・角閃石・黒雲母・アパタイト・ジルコン・イディングサイト等)を鏡下で識別し、ポイント・カウンターを用いて無作為に200個体を計数してその量比を百分率で示した。なお、試料により重鉱物含有か少ないものは結果的に総数200個に満たないことをお断りしておきたい。この際、一般に重鉱物含有の少ない試料は重液処理による重鉱物の濃集を行うことが多いが、特に火山ガラスに包埋された重鉱物はみかけ比重が減少するため重液処理過程で除外される危険性があり、さらに風化による比重変化や粒径の違いが組成分布に影響を与える懸念があるため、今回の分析では重液処理は行っていない。

W 火山ガラスの屈折率測定

前処理により調製された120〜250mesh(1/8〜1/16)粒径試料を対象に、温度変化型屈折率測定装置(RIMS)※(1)(2)を用い火山ガラスの屈折率を測定した。測定に際しては、精度を高めるため原則として1試料あたり30個の火山ガラス片を測定するが、火山ガラス含有の低い試料ではそれ以下の個数となる場合もある。具体的な測定データは巻末にデータシートとしてまとめられ、以下に述べるように表示されている。まず最上位に試料名(SeriesおよびSample Name)が印刷され、ImmersionOilは測定に使用した浸液の種類を示す。火山ガラスの屈折率ndの式は浸液温度から対応する屈折率を換算するもの、ndは屈折率、tは温度を示す。温度変化型屈折率測定法※(3)は火山ガラスと浸液の屈折率が合致した温度を測定することにより、各浸液ごとに決められた浸液温度と屈折率の換算式から火山ガラスの屈折率を計算して求める方法である。(As.+De.)/2は液温制御の際の上昇時(Ascent)と下降時(Descent)の平均値を意味する。繁雑さを避けるためここでは測定温度を表示せず、各火山ガラス片毎の屈折率のみを表示した。測定された屈折率値は最終的にTotalの項にまとめられる。count、min、max、range、meam、st.dev、skewnessはそれぞれ屈折率の測定個数、最小値、最大値、範囲、平均値、標準偏差、そして歪度である。屈折率のhistogramの図は縦方向に屈折率を0.001きざみで表示し、横方向にその屈折率をもつ火山ガラスの個数が表現される。*一つが1個の火山ガラス片の測定結果を示す。

<参考文献>

(1)横山卓雄・檀原 徹・山下 透(1986):温度変化型屈折率測定装置による火山ガラスの屈折率測定.第四紀研究.25(1),21−30.

(2)Danhara T.,Yamashita T.,Iwano H..and Kasuya M.(1992):An improved system formeasurlng refractive index using the thermal immersion method.Quaternary lnternational,13/14,89−91.

(3)檀原 徹(1993):温度変化型屈折率測定法.日本第四紀学会編.第四紀試料分析法2.研究対象別分析法.149−157.東京大学出版会.(3)分析結果

@ 14C炭素同位体年代測定結果

 14C炭素同位体年代測定の結果を表6−3−1−1表6−3−1−2に、分析された14C炭素同位体年代を各地層毎にとりまとめて、図6−3−1図6−3−2に示す。各地層の堆積年代について、次のように評価している。

1) 西町地区

 本地区に分布する地層の堆積年代を図6−3−1に示すように設定した。根拠は次のとおりである。

a) G1 層

 G1層は良く締まった地層であり、半固結状態にある粘性土層(M1層)を下部に、良く締まった砂層(S1層)を上部に挟んでいる。M1層の年代が30560±380y.BP〜39940±1990y.BPで、S1層の年代が24700±110y.BP〜27430±170y.BPである。したがって、G1層の年代は24280±210y.BP〜39940±1990y.BPと判断される。この値は低位段丘堆積層に相当する年代であり、本層の締まり状態を考えると違和感のないものである。

b) G2 層

G2層中に挟在する砂レンズのなかの泥質な部分、あるいは植物遺体から得られた年代は1570±50y.BP〜4820±50y.BPである。試料採取位置と年代値の関係をみると、下記のように上下方向に違和感のない配置がみられる。

イ. 上 部・・・・・・・・・・・1570±50y.BP〜2000±50y.BP

ロ. 中 部・・・・・・・・・・・2220±50y.BP

ハ. 下 部・・・・・・・・・・・4820±50y.BP

したがって、本層の年代として、前述した値は妥当なものと考えられる。

なお、試料番号NS−19・20は産状・年代値からみて、掘削時に本層上位の地層から落下・付着したものと考えられる。

c) G3 層

本層中から採取された試料の年代は910±60y.BP〜1560±50y.BPの範囲にある。この範囲は本層下位のG2層の年代よりも新しい年代となっている。しかし、試料採取位置と年代値との関係をみると、見掛け上、上位にある試料の年代が古い値を示すところがあるなど、整合性のある年代分析結果とは必ずしもなっていない。そこで、試料の産状を考慮しながら、年代分析結果を見直すものとする。

本層から得られた年代試料は、

イ. 砂礫層中から得られた植物遺体

ロ. 砂レンズ中から得られた植物遺体

ハ. 砂レンズ中の泥質あるいは有機質な部分

ニ. 粘性土から構成されるレンズ状土塊

ホ. 同土塊中から得られた植物遺体

である。ニ.ホ.は偽礫の可能性があるので除外し、イ.〜ハ.だけをみると、本層の年代は910±60y.BP〜1260±60y.BPとなる。そして、北側の部分ほど年代値が古くなる傾向がみられる。

一方、ニ.ホ.の年代は960±40y.BP〜1560±50y.BPの範囲にある。このなかにはイ.〜ハ.だけの値に比べて同程度のものと、それより古い年代を示すものとの2つが含まれている。この2つのグループが次に示すような雑多なたかたちで分布している。

a. 年代値とレンズ状土塊の分布位置が逆転する(試料番号NS−22・23とNS−24)。

b. レンズ状土塊が同レベルにあるのに年代値が異なる(試料番号NS−01・16・17やNN−04・05・06)。

ニ.ホ.について、このような年代値のばらつきとレンズ状土塊というかたちを重視すれば、偽礫とみなしたほうが妥当と考えられる。

したがって、本層の年代として、910±60y.BP〜1260±60y.BPが設定される。

なお、偽礫とみなされるレンズ状土塊のなかには本層の堆積年代に相当する値を示すものがある(NS−01・16・22・23、NN−08)。これらは次に示すような特異な分布形状を示している。

a. 土塊中にねじ込まれたようなかたちで分布する礫を伴う(NS−01・16)。

b. レンズ状土塊同士が細長い粘土脈でつながっている。しかも、つながっている土塊同士の年代に隔たりがある(NS−22・23)。

c. 土塊自体が高角度に傾いている(NN−08)。

これらをみると、本層の偽礫を含む範囲は何らかの攪乱を受けている可能性があるものと考えざるを得ない。

d) M2 層

本層中から採取された試料の年代は840±60y.BP〜1230±70y.BPの範囲にある。この範囲は本層下位のG3層の年代によく似た値になっている。本層とG3層とは一部指交関係にあることからすると、これは頷ける値である。しかし、本層はG3層を覆っている地層であり、同層からの混入を考慮すれば、本層の年代として、910±60y.BP以降、840±60y.BP程度とするのが妥当であろう。

e) M3 層

本層中から採取された試料の年代は530±70y.BP〜1310±60y.BPの範囲にある。この範囲は本層下位のG3層の年代にまだ遡る値である。しかし、本層はG3層・M2層を覆っている地層であり、両層からの混入を考慮すれば、本層の年代として、840±60y.BP以降、530±70y.BP程度とするのが妥当であろう。

2) 豊成地区

豊成地区で年代試料が得られている地層はM1層とG3層である。M1層の年代として、10620±60y.BP〜11500±50y.BPとまとまりの良い値が分析されている。

一方、G3層の年代として、1200±40y.BP〜1710±50y.BPが分析されている。ただし、試料採取位置と年代値の関係をみると、上下が逆転している。したがって、本層の年代として、最も新しい値である1200±40y.BPを採用する。なお、本層は旧耕作土である可能性が高い地層である。したがって、この年代値について、古い時代の炭質物が混入したものを分析した結果得られたものである可能性も否定できない。表6−3−1−1 14C炭素同位体年代測定分析結果一覧表(その1) 

表6−3−1−2 14C炭素同位体年代測定分析結果一覧表(その2)  

図6−3−1 模式柱状図(西町地区)

図6−3−2 模式柱状図(豊成地区)

A 花粉分析結果

花粉分析をおこなった試料のリストを表6−3−2に、その結果を表6−3−3表6−3−4および図6−3−3図6−3−4に示す。また、表6−3−5に珪藻の生態性一覧表を示す。巻末に花粉及び珪藻化石の顕微鏡写真を掲載する。花粉分析はS1層・G2層・G3層・M2層・M3層について行った。なお、S1層について、同層から採取した試料には化石が含まれていないので、報告を除外する。

木本花粉について、G2層・G3層・M2層はスギ・ナラ・カシ・マツなどを多く含んでいる。この植生は現在とあまり変わらない。中国地方山域には同種の森林が1500年程度前から広がっていたとされている。したがって、G2層・G3層・M2層は1500年前程度から以降の堆積物と考えられる。これは14C年代結果と矛盾しない。

分析結果をさらに細かくみると、前述3層は木本花粉・草本花粉の組成によって、2つのグループに分けられる。一つはG2層で、他方はG3層とM2層とである。次にそれらの特徴を示す。

1) G2 層

G2層は下記の花粉・胞子について、他の2層よりも低い含有率を示す。

イ. マツ属複維管束亜属・スギ属・コナラ属コナラ亜種

ロ. オモダカ・ミズアオイ・ミズニラなどの水性植物

ハ. イネ属

また、本層は他の2層に比べて、下記の花粉・胞子を多量に含んでいる。

a. ヨモギ属

b. キク亜科

c. タンポポ亜科

d. シダ類胞子

2) G3層・M2層

両層は下記の花粉・胞子について、お互いに良く似た花粉組成をなすとともに、

G2層よりも高い含有率を示す。

イ. マツ属複維管束亜属・スギ属・コナラ属コナラ亜種

ロ. オモダカ・ミズアオイ・ミズニラなどの水性植物

ハ. イネ属

また、両層はG2層に比べて、下記の花粉・胞子に乏しい。

a. ヨモギ属

b. キク亜科

c. タンポポ亜科

d. シダ類胞子

このように、G2層とG3層との間には周辺環境の差があり、G3層とM2層との間にはそれがないものと考えられる。G3層・M2層は水性植物花粉に富み、沼沢湿地付着性・好清水性の珪藻化石を含むことから、浅い水域(河川の淀み・水たまり)で水が流れているような環境で堆積したものと考えられる。また、M2層にはイネ属とともにソバ属がみられることから、M2層堆積時には水田が営まれていた可能性がある。表6−3−2 花粉分析試料リスト表6−3−3 花粉分析結果一覧表

表6−3−4 珪藻化石分析結果一覧表図6−3−3 花粉分析結果一覧図

図6−3−4 珪藻化石分析結果一覧図

表6−3−5 珪藻の生態性一覧表火山灰分析結果

火山灰分析の結果を表6−3−6表6−3−7表6−3−10に示す。以下に、分析結果について述べる。

1) 西町地区

西町地区ではS1層について分析がおこなわれた。試料NS−27では扁平型火山ガラスが微量含まれるが、試料NN−13では火山ガラス自体が含まれない。その火山ガラスの屈折率は1.498〜1.499である。この火山ガラスは姶良火山灰に由来するものである可能性が高い。重鉱物は両試料ともに緑色普通角閃石を主とし、不透明鉄鉱物・斜方輝石・単斜輝石・黒雲母を伴う。軽鉱物として、両試料ともに斜長石・石英・シリカ鉱物・カリ長石、等がみられる。

2) 豊成地区

豊成地区ではM1層について分析がおこなわれた(試料TBE−1・TBW−1)。両試料ともに扁平型を主とし不規則型を従とする火山ガラスが微量含まれる。扁平形火山ガラスの屈折率は1.497〜1.501である。不規則型火山ガラスの屈折率は1.5026〜1.5029である。扁平型火山ガラスは姶良火山灰に、不規則型火山灰は上部伯耆火山灰に由来する可能性が高い。重鉱物は両試料ともに黒雲母・緑色普通角閃石・緑れん石を主とす

る。軽鉱物として、両試料ともに斜長石・カリ長石・石英を主とする。

3) 西町西方約400mの道路切り割り(低位段丘)の火山灰層

試料SK−1からは扁平型と多孔質型火山ガラスが多量に摘出され、その屈折率は 1.498〜1.500である。鉱物組成や屈折率から姶良火山灰(AT)に対比される。表6−3−6 火山灰分析結果一覧表表6−3−7 全鉱物組成分析結果一覧表

表6−3−8 重鉱物組成分析結果一覧表

表6−3−9 火山ガラス形態分類結果一覧表

表6−3−10 火山ガラスの屈折率測定結果一覧表