(2)活断層

由布院断層は、地溝南側の中期更新世の火山岩類の北縁を画す断層であり、基盤の地質分布や大局的な地形の面からは、由布院盆地南西部から鶴見岳南方の鳥居付近まで追跡できる。地溝の南側の断層崖の比高は倉木山安山岩分布域で250m、水口山火山岩類で140mである。

しかしながら、新しい地形面上の変位地形は、必ずしも全域では追跡できない。最も明瞭なものは、由布院盆地南東端の津江付近の扇状地上にみられる断層崖で比高5〜10m、東北東−西南西走向で約400mにわたって追跡できる。この断層崖の直下では断層露頭も確認された(Loc.44)。また、この断層崖は、地形的にみると東方の「津江岩屑なだれ」(前出)の崩壊地形より新しくみえ、かなり新しい断層活動を示しているものと考えられる。

この地域より西方では、人工改変が加わっていることもあり、全体に変位地形は明瞭でなくなるが、川南付近では、断層崖の約300m北側に南落ちの段差地形があり、この間の地域がグラーベン状に落ち込んでいる(北傾斜の扇状地が一部で平坦化している)。

さらに西方の中依から下依にかけては、変位地形は不明瞭になり、大分川を越えた内徳野付近から西方では変位地形は認められなくなる。

一方、津江より東方の由布岳南方の地域では、斜面自体は直線性を保っているか、由布岳から流下した扇状地堆積物に覆われてしまい、新しい地形面上の断層変位地形は確認が難しくなる。唯一、猪ノ瀬戸湿原内で、リニアメント延長部に南上がりの比高1〜2m程度の段差地形がみられる。

猪ノ瀬戸湿原の東方では、リニアメントは約250m北へオフセットして、さらに東へ延びるが、変位地形としては明瞭ではない。鳥居付近から東ではこのリニアメントは鶴見岳山頂から流下した新しい溶岩に覆われて追跡できなくなる。

今回の調査で見出したLoc.44の断層露頭では、新しい扇状地礫層を変位させている断層と、その山側で溶岩と火砕流堆積物を境している断層がみられる。扇状地礫層は4層程度のフローユニットから成り、そのうちの最上位の層は断層変位を受けていないようにみえる。礫層の時代についてのデータは得られていない。

以上のデータから由布院断層の活動性についてまとめると、次のようになる。

○活  動  度

断層による古い火山岩類の変位量について検討してみると、星住ほか(1988)に示された未公表資料では、猪ノ瀬戸湿原には厚さ480m以上の扇状地礫層が分布しているとされている。これから判断すると水口火山岩類の断層による変位は最大で600m以上となる。一方、断層両側の地表の地質分布からみた変位量は140mであり、両者の値はかなり異なる。

また、由佐ほか(1992?)に示された反射法弾性波探査で得られた由布岳盆地の深部構造データでは、基盤岩とみられる反射面の深度は、現在の盆地の地表から700〜800m下にある。このことからみると、断層南側の倉木山安山岩類の変位量は1,000m程度となる。

以上のデータから求めた断層の平均変位速度は、0.7m以上〜3m/千年となり、活動度はB〜A級と評価される。

○最新活動時期

Loc.44の状況からみると、かなり新しい時期(おそらくK−Ah火山灰以後)に活動したと推定される。地形のデータからは8世紀以前と16世紀以後の2つの解釈ができるが、いずれとも断定はできない。

このように、由布院断層はかなり活動的な断層と判断されるが、Loc.44のデータについても解釈が確定できているわけではない。今後、露頭の上方でトレンチ調査を行い、礫層と変位地形との関係を把握し、さらに礫層の時代を確定した上で断層について解釈する必要がある。また、断層付近の地質状況からみて、変位基準となる時代面が豊富であるとは考えにくく、この露頭だけで複数の活動イベントを抽出することは困難と思われるので、他の地点でもトレンチ調査を行い、その結果とあわせて総合的に断層の活動性を評価する必要がある。