(2)吉武山断層

吉武山断層は、亀石山溶岩(前出、約60万年前に噴出と推定)のメンバーから成る吉武山山体に北落ちの変位を与えている、西北西−東南東走向の断層である。基盤の溶岩の変位量は、100m程度とかなり大きい。麻生釣地区では、Aso−4火砕流堆積物から成る南傾斜の緩斜面上に北下がりの段差がみられ、この段差を南の端とするグラーベン構造が東西方向に連続しているようにみえる(図7−16)。

平成14年度の調査で、このグラーベン構造の東方延長部で露頭剥ぎにより断層を確認した(図7−17)。この露頭では、北西−南東走向で北へ急傾斜する境界面を境にして、北側が上がっている。みかけの変位量は、Aso−4火砕流(鳥栖オレンジ火砕流)堆積物で3〜4mである。AT火山灰層付近まで断層変位を受けているが、それ以後には断層活動は生じていないと判断される。

この露頭の状況は、地形的に推定される吉武山断層の変位とは一致しないが、ほぼリニアメントの位置にあること、変位している層準が、後述する露頭剥ぎでみられたクラックが切りあがっている層準と矛盾しないことなどからみて、吉武山断層と関連する断層活動によって形成された可能性が考えられる。

図7−17 Aso−4火砕流(鳥栖オレンジ火砕流)堆積物を変位させている断層吉武山断層の地形的な延長部;麻生釣地区)

<露頭剥ぎの結果>

Aso−4火砕流堆積物堆積面上のグラーベン構造南端の逆傾斜部で、ハンドオーガーボーリングによる地質分布の確認と露頭剥ぎ(掘削深さ4m、総延長14m)を実施した。地質断面図を図7−18に、露頭剥ぎ部分の地質状況を図7−19−1図7−19−2に示す。

この作業により、Aso−4火砕流堆積物の上面に、地形と同様のグラーベン状の凹部が存在することが確認された。地質分布から推定されるAso−4火砕流堆積物の変位量は、上下方向で12.5mとなる。

この凹部付近には、開口したクラックが各所に見出された(図7−20−1図7−20−2図7−20−3)。この中には、Kj−P1層に10cm程度の段差を生じさせ、AT火山灰層準付近まで達しているものもある。また、開口クラック

は、右横ずれ変位を示す雁行配列を示し、その中に落ち込んだ黒ボク土の年代は、6,700y.B.P.と、かなり新しい年代であった。

しかしながら、露頭オーダーでは、明瞭な地層の変位は見出せず、これらのクラックも、Kj−P1

とその下位のローム層中には追跡できるが、さらに下位のAsO−4火砕流堆積物中では不明瞭になる。Aso−4火砕流堆積物中にもクラックは生じているが、これは逆に上位層まで達していない。

このような地質状況については、次の2つの解釈が可能である。

@これらのクラックは、グラーベン構造に伴って形成されたものであるが、表層の地層が全体に塑性的な変形をするために、クラックの分布は、見かけ上不連続にみえる。

Aこれらのクラックは、他の断層の活動による地震の際に生じた地盤の揺れ、ないし、斜面における表層の地すべりやクリープによって形成されたものであり、断層活動によるものではない。

現時点では、どちらの解釈についても、決定的な証拠は見出せないが、断層活動によるものとすると、その活動性に関して、次のデータが得られる。

・最新活動時期は、AT火山灰以後、完新世の可能性もある。

・クラックの状況からみて、Kj−P1以後の活動は、1回だけである可能性が高い。その場合には、活動間隔は、数万年オーダーと推定される。

活動性に関する以上のデータは、前述したこの地点の東方の断層露頭で読み取れる活動性に関わるデータとも矛盾しない。しかしながら、Aso−4火砕流の変位量以外のデータは、断層評価に用いるものとしては、十分確定されたものとはいえない。したがって、ここでは、参考データとして扱っておく。

参考データではあるが、以上の調査結果をもとに、断層の評価を行なうと次のようになる。

〇断層の長さ

前述の地形要素を合わせた断層の長さは、4.3kmである。

〇変位量(上下方向)

・吉武山山体(亀石山溶岩) :100m程度(地形からの読み取り)。平均変位速度は、0.22m/千年

・Aso−4火砕流堆積面 :地形横断図からの読み取り(図7−2−7)では約5m、地層追跡結果を採用すると、12.5m。平均変位速度は、0.06−0.14m/千年

したがって、活動度はB級(下限)と評価される。

〇断層活動イベント

・最新活動は、AT火山灰以後で完新世である可能性があるが、確定できない。

・それより前の活動については、不明。

〇活動間隔

・数万年オーダーの可能性があるが確定できない