(1)<トレンチ調査結果>

〇地質構成 (表4−3表4−4図4−9−1図4−9−2図4−9−3図4−10−1図4−10−2図4−10−3図4−11

火山麓扇状地の原形を構成している礫質堆積物(10層)の上に、他地域と同様に、火山灰層を挟むローム層、黒ボク土層が累重している。下位から順に、礫混じりのロ−ム層(9層)、AT火山灰ガラスが濃集したローム(8層)、K−Ah火山灰(5層)、橙色スコリア層(4層最上部:段原降下スコリア相当層;5,000年前)、九重B火山灰層(2層;1,500年前)を挟む黒ボク土層(7,6,4,3,1の各層)が堆積している(表4−3図4−9−1図4−9−2図4−9−3図4−10−1図4−10−2図4−10−3図4−11)。扇状地堆積物(10層)中には、Kj−P1由来のガラスが含まれており、AT火山灰層準の8層に覆われることから、年代は、4.8万−2.6万年と推定される。

断層の落ち側には、1〜10層が連続して堆積しているが、断層の上がり側では、浸食による消失のために、地層の保存が不完全である。すなわち、10層が厚く分布し、9層を欠いて8,7層が10層に重なる。その上位の黒ボク土層では、5,000年−7,500年前という、落ち側浅部の地層よりかなり古い年代が得られており、1〜6層が混在しているか、これらの層のcondense sectionとなっていると考えられる(図4−14参照)。

表4−3 トレンチで確認された地層の層相と年代(熊の墓断層)

〇断層の性状

断層は、これらの地層を地表近くまで変位させている。主断層面は、ほぼ鉛直に近く、これより数条の断層がフラワー状に分岐している(図4−9−1図4−9−2図4−9−3図4−10−1図4−10−2図4−10−3図4−11)。分岐した各断層と各層の関係から複数回の断層活動とその年代が認定できる(後述)。

また、拡幅途中で水平に掘削した際に、主断層の周辺に横ずれ変位を示す亀裂がみられた(図4−12)。

〇変位量

上がり側での地層の保存が良くないため、正確な変位量(上下方向)が計測できるのは、10層の上面と8層(AT火山灰ガラス濃集層)のみである。変位量は、それぞれ約4mと約2.4mである。これより上下方向の平均変位速度を求めると、次のようになる。

8層(AT火山灰の年代を採用)     :2.4m/(2.6万〜2.9万)≒0.08m/千年

10層(Kj−P1の年代を採用)      :4m/4.8万年≒0.08m/千年

また、地形的に評価した基盤の火山体の変位量(表4−2)から、次のように平均変位速度が求められる。

基盤の溶岩(34万年前)        :50−60m/34万≒0.15−0.18m/千年

基盤の火山体の変位から求めた平均変位速度は、扇状地構成層以後の平均変位速度より大きい。この傾向は、水分断層と同様である。

〇活動イベントの解析

複数に分岐した断層(f1,f2,f3)と各地層の関係から、次のように断層の活動時期が読み取れる(図4−13−1図4−13−2)。

・九重B火山灰層以後の活動(イベント1)

f1断層は、2層(九重B火山灰層)を変位させ、1層(黒ボク土層)の途中まで延びている。これより、九重B火山灰層以後に断層活動が生じたと判断できる。九重B火山灰層の年代からみて、活動時期はCal BP1,500以後である。

・橙色スコリア層より前の活動(イベント2)

f2断層は、4層(最上部に橙色スコリアを含む)以深の地層のみを変位させており、3層(黒ボク土層)と、それより上位の地層は変位させていない。これより、両層の境界で断層活動が生じたと判断できる。活動年代は、橙色スコリア層(段原降下スコリア相当層)の年代からみて、Cal BP5,000より少し前である

・AT火山灰層より前の活動(イベント3)

f3断層は、9層までを変位させており、8層(AT火山灰ガラス濃集層)以浅には変位を与えていない。これより、8層より前に断層活動が生じたと判断できる。活動年代は、AT火山灰層の年代から、2.6万〜2.9万年より前である

ここで、K−Ah火山灰層は、2回の断層活動によって変位しており、現在は、落ち側で地表から約2mの深さに位置している。これより、1回の変位量は、1m程度と推定される。

なお、トレンチ西側掘削面では3回の活動が読み取れるが、東側掘削面と試掘No.2地点で読み取れる活動は、新しい2回のみである。

○熊の墓断層のまとめ

以上の調査結果は、次のようにまとめられる。

・東西走向の北落ちの断層で、確認できている長さは3.5kmである。

・基盤の変位量から求めた上下方向の平均変位速度0.15−0.18m/千年であり、活動度はB級となる。扇状地構成層以後の平均変位速度は、0.08m/千年であり、新しい時代に活動性が低下した可能性が考えられる。

・最新活動時期は、かなり新しく、1,500年前以後であり、歴史時代の可能性がある。

・新しい2回の活動から求めた活動間隔は、3,500〜5,000年で、1回の上下方向変位量は1m程度ないしそれ以上である。

・断層周辺の亀裂分布等からみて、この断層は、横ずれ変位成分を有する可能性が考えられる。