(3)北縁の断層

五馬市付近で万年山地溝の北縁に位置する断層は、花香断層である。この断層のリニアメント付近を境にして、南側では五馬市デイサイト溶岩に覆われて地表付近にはみられない耶馬溪溶結凝灰岩(約100万年前)が、北側では高い標高まで分布している。これは、少なくとも耶馬溪溶結凝灰岩が、断層による変位を受けていることを示唆するが、このような基盤の地質分布から追跡した断層の位置は、地形的なリニアメントの位置とずれている(図4−2−40)。リニアメント付近には、Aso−4火砕流堆積物が分布しているが、露出が少なく、断層変位を受けているかどうかを確認することは困難である。基盤の断層とリニアメントの位置がずれていることと合わせて考えると、この付近で断層の活動性を評価することは難しいと考えられる。

一方、万年山地域東部の万年山断層についてみると、万年山山麓では広く礫質の扇状地堆積物が分布するため、活動性評価のための調査は困難と判断される(図4−2−41)。山浦川を横断する位置付近では、万年山断層の直接の延長方向である北西方向(花香断層に向かう方向)へはリニアメントの位置が不明瞭になり、地形的には、むしろ西方の一手野集落の方向に延びるようにみえる。よって、ここでは、一手野断層と合わせて、一手野−万年山断層として扱う。

この断層が山浦川を横断する位置を挟んで下流(北)側では、Aso−4火砕流堆積物のつくる面の高度が、上流(南)側より高くなっている(図4−2−42−1図4−2−42−2)。これは、北上りの断層活動によって生じた変位である可能性がある。この断層より南側の末野断層を挟む両側では、Aso−4火砕流の堆積物がつくる面の高度に変化はみられない。このことからみると、末野断層は、Aso−4以後には活動していない可能性が高いようである。

また、一手野−万年山断層のリニアメントの延長部が、山浦川を横断する位置では、米軍撮影の古い空中写真で低位段丘面上に南落ちの段差が認められる(図4−2−42−1図4−2−42−2)。この段差は、現在では人工的な改変で確認できないが、現地での聞きこみで、かつてそのような段差が存在していたことは確認できた。もし、この段差が北上りの断層活動によって生じたものであるならば、上記のAso−4分布の不連続と合わせて考えると、Aso−4以後の新しい時代に断層活動があったことになる。

この点を確認するために、この段差があった地点においてトレンチ調査を実施した(図4−2−43図4−2−44−1図4−2−44−2図4−2−44−3図4−2−44−4図4−2−44−5)。その結果、この段差に相当する位置では、段丘面の構成層を変位させている明瞭な断層は確認できず、この面の形成以後に断層活動が生じた可能性は低いと判断された。当初段丘面上の変位地形と想定した地形的な段差は、側方の谷からもたらされた巨礫が谷の狭隘な部分でトラップされた結果生じたものである可能性が高い。