3−3−1 大野川右岸地区(中深部反射法探査:S波)

時間断面と深度変換断面を図3−3−1−1に、速度解析から求めたS波速度分布図を図3−3−1−2に示す。また、オリジナルの波形記録の例を巻末資料に収めた。

報告書第1編で述べたように、深部反射法探査の結果では、大野川右岸の距離程2,400m付近(大野川大橋)を境として北側(海側)で反射波(P波)が急激に減衰する特徴を示し、起震力では国内最大であるバイブロサイスでも、起点側の特に表層の深度数10m付近までは、精度の高い情報を得ることが困難であった。この原因としては、例えばP波を減衰させる不飽和層(ピート層,泥炭層,ガス混在層等)の存在や堆積層の急激な層々変化(未固結層の厚さが極端に深くなる)などが考えられた。

一方、ミニバイブを用いたS波探査では、上記の距離程1,010m〜2,765m間でも表層付近の反射波をとらえることができている。

〇反射面分布の特徴

測線南端の250ms(標高約−30m)付近から北へゆるく傾斜する明瞭な反射面が見られる。この反射面は距離程2,650m付近で不連続になり、標高−40m付近まで深くなる。さらに、この反射面は、2,400〜2,300m付近では南傾斜を示して北へ向かって次第に浅くなり、2,300m付近から北では、緩く北へ傾斜している。距離程2,350m〜2,650m間の反射面の低下は、グラーベン構造と推定される。図3−4−1−2と対比すると、この反射面の下位ではS波速度は300m/s以上である。距離程1,350m付近から北では、この反射面の下位に北へ傾斜する複数の反射面がみられる。これらの反射面の傾斜は、下位のものほど大きい。

〇推定される地質分布および地質構造

・地表付近〜500msec付近 : 500msec付近の明瞭な反射面を下限とし、400msec付近の反射面をのぞき、反射面がほとんど認定できない。S波速度は、200m/sec程度で、沖積層中の下部砂礫をのぞく部分(砂〜粘土主体)と推定される。

・500msec〜900msec付近: 比較的明瞭な反射面が認定できる。S波速度は、300m/sec前後で、沖積層下部の砂礫とその下位の段丘構成層相当層(砂礫主体)と推定される。下部は大分層群上部の可能性もある。

・900msec付近以深 : 1400msec付近の反射面をのぞき、反射面がほとんど認定できない。S波速度は、400m/sec程度ないしそれ以上で、平成12年度に実施した府内城測線での反射法探査では、ボーリングで大分層群の地層が確認された深度で400m/sec程度の速度値が得られていることからみて、この部分は、大分層群・碩南層群相当層と推定される。また、このように推定した地質分布は、田中(未公表)の断層推定に用いられたボーリングコアの記載(野井,1987)とも整合的である。

以上の推定結果は、ボーリング調査によって、深部を除きほぼ確認された(後述)。

<推定される断層>

反射面の不連続等から、距離呈2,300〜2,700m付近に、グラーベン構造を伴い、沖積層の北落ちの変位を与えている断層が推定される。この結果は、前述の深部反射法探査結果の解釈と整合的である。

田中(未公表)の推定断層の延長部付近では、砂礫層相当層に北落ちの変位がみられるが、地層の変形は、今回の測線の北端よりさらに北まで及んでいる。今回の測線の範囲では、500msec以浅の地層が変位していないようにみえるが、沖積層相当層を変位させている断層は、測線北端よりさらに北側に存在する可能性が高いと考えられる。その場合の断層位置は、田中(未公表)の推定断層の延長位置よりも、かなり北になる。