(5)データ処理・解析方法

中深部反射法探査(P波)のデータ処理・解析は、図3−2−1−4のフローにしたがって実施した。また、表3−2−1−3に処理・解析の緒元を示す。

(1)データ処理 

現場でデータ収録器DAS−1のハードディスクに収録した各起振点毎のデジタル記録は、室内に持ち帰った後、ワークステーション(SUN Ultra)の反射法探査解析システム(ProMAX)を用いて処理した。

各処理の概要は、次の通りである。

(a)コリレーション(相互相関)

バイブレータ型振源で得られる波形記録は、図3−2−1−5(a)に示すように、周波数が低周波から高周波へ連続的にスウィープした形をしている。このような波形を通常の探査で使用される打撃やダイナマイトの瞬発の振源(インパルス型という。図3−2−1−5(c))と同様の波形記録(図3−2−1−5(e))にするには、振源そのものが発した起振波形(図3−2−1−5(b))と観測された波形(図3−2−1−6(a))のコリレーション(相互相関)を計算する必要がある。現場でのデータの良否の判断は、このコリレーション波形の良否で行っている。

(b)ジオメトリ入力

各観測波形データと、それが得られた振源位置、受振点位置などを関連ずけるための処理である。

(c)各種フィルタ(代表的なもののみ)

・デコンボリューションフィルタ(deconvolution filter)

測定される反射波形は、振源波形、短周期多重反射、ゴースト、地層の吸収効果、観測系の特性などにより、変形を受けている。これを、基本波形と言っている。デコンボリューションフィルターは、この基本波形をインパルスあるいはそれに近い波形に変換し、反射波がより分解能の高い、鮮明な地下構造のイメージを得ることを目的としたフィルターである。

その原理は、次のとおりである。

測定された反射波形は、地層の変化にともなう反射係数列と地下を伝わる波の基本波形のコンボリューションであると考えられる。したがって、基本波形の逆特性を持つフィルタを設計して、観測波形を入力すると、地下の反射係数列を得ることができる。これが基本波形をインパルスあるいはそれに近い波形に変換する処理=デコンボリュ−ションフィルター処理である。

・バンドパスフィルタ(band pass filter)         

周波数フィルターの一種である。測定された記録には、表面波のような反射波以外の波やバックグラウンドノイズ(風や車などの信号以外の雑振動)が含まれている。これらのいわゆるノイズと反射波の周波数帯域の違いに着目して、反射波の信号と異なる周波数を持つノイズを減少させる処理である。

・AGC(Automatic Gain Control)            

測定された記録は、屈折波や表面波の振幅が大きく、反射波の振幅はこれらの波に比べて小さいのが普通である。このような振幅の小さい反射波を初動付近の波の振幅と同程度の大きさになるように強制的に増幅する処理をAGCと呼ぶ。

(d)CDPソーティング(Common Depth Point Sorting)

本測定では、1回の起振で同時に72受振点の波形記録が得られ、1起振点毎の記録として収録される。以下の処理を行うためには、すべての記録がCDPギャザー(後述)ごとに並んでいる方が扱い易いため、起振点毎の記録をCDPギャザーごとに並び変える作業を行う。この並び変えを、CDPソーティングと呼ぶ。

<CDPギャザー>

図3−2−1−7(a)に示したような起振点受振点配置の測定データを並び替え、図3−2−1−7 (b)に示すように反射点が共通な記録、すなわち起振点と受振点の中点が同じ位置となる記録を集める。このような記録群をCDPギャザーと呼ぶ。最終的には微弱な反射波を強調させる目的でこの記録群内の記録を加算する。このような手法は、CDP重合法(CDPスタック)と呼ばれ、反射法探査の標準的な解析法として用いられている。

(e)速度解析                       

速度解析は、CDP重合を実行する際に必要な速度を知るために、CDPギャザー内の反射走時Ti(X)が、オフセット距離X(起振点と受振点の距離)、2−way time T(X=0での反射面までの往復走時)、CDPギャザー内での反射位相の見掛けの平均速度Vstkによって次式のように表されることを利用し、VstkとTを決定する作業である。

式3−2−1

(f)NMO補正、ミュート、CDP重合           

CDP重合の目的は、CDPギャザー内の記録を加算(重合)し、CDP位置における地下情報を表す1個の波形記録を作成することである。CDP重合に先立ち、CDPギャザー内の各オフセット距離の波形記録を、図3−2−1−8に示すようにオフセットがゼロの場合の記録に変換する。この処理をNMO(Normal Moveout)補正と呼ぶ。

次にNMO補正によって波形が大きく歪んだ部分や初動付近の屈折波等の不要な部分を消去する。この処理をストレッチミュートという。

最後に、CDP重合処理で各オフセット距離の波形記録を重合する。CDP重合を行うことによって、速度Vstkを持つ反射位相だけが重ね合わされ強調される。一方、表面波などのように、このVstkと異なる速度を持つ波の振幅は相対的に抑制される。重合後は、各CDP地点につき1本の波形記録となり、各々CDP点の記録として表示される(時間断面)。

(g)深度変換

上に述べたような処理を行って得られた時間断面において、その縦軸は時間を表している。最終的に必要な深度断面を得るためには、速度解析で求めた速度値を用いて、時間を深度に変換する必要がある。この処理を深度変換という。